【29話】死線の果てに
俺は、目の前に立つ澁谷を睨み続けていた。
「う……」
澁谷はボロボロになった身体を無理やり動かし、一歩ずつ俺に近づいてくる。
「あ……う……」
もはや、まともに言葉を発することすらできないようだ。身体のあちこちが限界を迎えているのだろう。
それでも、澁谷は刀を手放さなかった。
せっかく、あいつの最強の技を耐えたというのに……。
このまま俺が死ぬなんて、冗談じゃない。
澁谷は俺の目の前まで来ると、ゆっくりと刀を振り上げた。そして、その刃を俺の首へと振り下ろす。
(ごめん……中西)
約束を果たせなかった。
俺はユニークスキルを三つも持っている。それなのに、どれ一つとして上手く使いこなせていなかった。
あのときから、何も成長していないじゃないか……。
中西が命を落とした日。
俺は今でも、あの出来事を何度も思い出してしまう。
俺がもっと別の行動をしていれば。安易に偵察なんかに行かなければ。彼女を救う方法は、ほかにもあったんじゃないか。
そんな後悔ばかりが頭をよぎる。
だが、もう遅い。
俺はここで死ぬ。澁谷の刀によって。
確かに、澁谷は強かった。だが、冷静に考えれば、戦略次第で俺が圧倒できる相手だったはずだ。
勝機を失ったのは、俺が油断して剣を失ったときだ。もっとやりようがあったはずなのに。
新しく獲得した【絶壊】だって、結局一度も使えなかった。
俺はいつもそうだった。
学校でも、何をやっても中途半端。最後までやり遂げられず、いつも後悔ばかりしていた。
そんな俺を、いつも慰めてくれたのは両親と姉だった。
姉……。
そうだ。
俺には姉がいた。
二年前に失踪し、死亡したことになっている姉だ。
だが、俺はそんな話を一度も信じたことがない。
姉は絶対にどこかで生きている。そして、今も幸せに暮らしている。
なぜか、そう確信していた。
懐かしいな……。
現世での記憶が、次々と蘇ってくる。
テストで赤点を取って、親に怒られたこと。姉が大量のハンバーグを焼いてくれたこと。
何気ない日常の一つ一つが、今になって鮮明に思い出される。
まるで走馬灯のようだった。
俺はゆっくりと目を閉じる。
もう、いいだろう。
せめて最後くらいは、静かに終わりたい。
パキッ。
……あれ?
いつまで経っても、痛みが来ない。
不思議に思って目を開けようとした、そのときだった。
パキパキ……。
澁谷の刀が、俺の首に触れる寸前で止まっていた。
いや、違う。
刀身に細かな亀裂が走っている。
俺の身体はすでに限界だ。【不動】だって発動していないはず。
それなのに、どうして……。
「な……んで……」
次の瞬間。
パリンッ!!
俺の首まで、あと一ミリというところで、澁谷の刀は粉々に砕け散った。
「あぁ……」
澁谷は小さくうめき声を上げると、そのまま後ろへ倒れ込んだ。
どうやら、気絶したらしい。
助かった……のか?
そう考えた瞬間、俺の意識も急速に遠のいていく。
(意識が戻ったとき……生きていたらいいな……)
そして俺も、澁谷と同じように意識を失った。
◇
「あぁ……うぅ……」
まぶたの隙間から、柔らかな光が差し込んでくる。
……ここはどこだ?
天国だろうか。
いや、人を殺してきた俺が天国に行けるはずもない。
なら、地獄か?
そんなことを考えながら、ゆっくりと目を開ける。
そこは、澁谷と戦った場所だった。
周囲を見渡してみるが、澁谷の姿はどこにもない。
(殺されずに済んだのか……)
どうやら、俺は生きているらしい。
身体はまだ重いが、なんとか歩くことくらいはできそうだ。
俺はその場を離れ、ワテラキ王国を目指すことにした。
そして、歩き続けること約六時間。
ようやく、王国の入口へとたどり着いた。
「おお! あなたは!」
入国してすぐ、一人の男性が駆け寄ってきた。
「宝石を取り返してきてくれたんですか!?」
宝石……。
そうだ。
俺は宝石を取り返すために、火山にいる竜のもとへ向かったんだった。
どうにか宝石は回収できたはずだ。
だが、今はそれどころではない。
身体は限界を迎えている。
「……明日でもいいか?」
俺が申し訳なさそうに尋ねると、男性は笑顔で頷いた。
「全然大丈夫ですよ! まずはゆっくり休んでください!」
よかった……。
俺は男性に礼を言い、そのまま宿へと向かった。
そして、部屋に入るなりベッドに倒れ込む。
もう何も考えたくない。
今はただ、眠りたい。
俺はそのまま、深い眠りへと落ちていった。




