【28話】勝負の時
「まだや!納刀術三式――逆袈裟・返し月!」
澁谷が刀を振り抜く。その刃が、俺の身体へと迫ってきた。
だが、俺はあえて避けようとはしなかった。
キンッ!!
金属同士がぶつかり合うような音が響く。澁谷の攻撃は俺の身体に届くことなく、弾き返された。
やはり、通常の攻撃なら問題ない。【不動】の効果によって、澁谷の技を無効化できる。
「ずるいんじゃ、そのスキル!」
澁谷は地団駄を踏みながら叫んだ。
「お前が言ったんだろ! これは殺し合いだ。ズルも何も関係ない!」
俺も負けじと言い返す。
そもそも、先に奇襲を仕掛けてきたのはこいつだ。今さら文句を言われる筋合いはない。
「グッ……」
澁谷は言い返せないのか、悔しそうに顔を歪めた。そして、しばらく俺を睨みつけた後、ゆっくりと刀を構え直す。
「……それなら、俺の本気を見してやるよ!」
その瞬間、澁谷の雰囲気が一変した。
今までとは明らかに違う。刀の構えも、重心の置き方も、すべてが別物だった。
(今までと構えが違う……)
嫌な予感がする。
こいつ、まだ何か隠していたのか。
「納刀術終式――終ノ太刀・天ノ裁き!」
「なッ……!」
次の瞬間、澁谷の姿が視界から消えた。
速い!!
今までの技とは比べものにならない速度だ。これはかなり危険だ。
流石の【不動】でも耐えられないかもしれない。
俺は攻撃を受け止めることを諦め、回避に専念する。
だが――。
「まずい!」
想像していた以上に澁谷の速度が速い。避けきれない。
どうする……?
剣は先ほどの戦いで壊れてしまった。今、手にしているのは、どこにでもあるような安物のナイフだけだ。
【震空剣】を使うことはできるだろう。しかし、武器の性能が落ちている以上、威力も大幅に下がってしまう。
まともにぶつかれば、こちらが押し負ける可能性が高い。
打つ手がない。
(くそ……どうすればいい?)
このままでは、本当に殺される。
だが、ここで終わるわけにはいかない。
中西との約束がある。俺は絶対に生き延びると決めたんだ。
「いや……こんなところで諦めてたまるかよ!」
(よく見ろ……澁谷をよく見るんだ)
迫り来る澁谷の動きを必死に追う。
速い。だが、どれほど速くても、攻撃を仕掛ける瞬間には隙が生まれるはずだ。
澁谷が俺の懐へと踏み込んでくる。
そして――。
「ここだ!!」
俺は残された力を振り絞り、叫んだ。
「リミットブレイク!!!」
その瞬間、俺の身体から眩い光が溢れ出した。
「な、なんやそれは!」
澁谷は異変に気づき、慌てて後退する。体勢を立て直そうとしているようだ。
だが、もう遅い。
蓄え続けてきた力を、今ここで解き放つ!
「死ねぇぇ! 澁谷ぃぃぃぃぃ!」
「おい! やめろ、やめてくれ!」
ドォォォォンッ!!
大きな衝撃音とともに、前方の景色が吹き飛んだ。
砂煙が舞い上がり、周囲の様子が見えなくなる。
「はぁ……はぁ……」
俺は荒い息を吐きながら、その場に立ち尽くしていた。
(危なかった……殺されるところだった)
どうにか勝てたのか。
だが、身体はすでに限界を迎えていた。指一本動かすことすら難しい。
あれだけの攻撃をまともに受けて、生きているはずがない。
俺は澁谷の死亡通知が表示されるのを待った。
しかし――。
いくら待っても、通知は現れない。
「……まさか」
俺は砂煙の向こうに目を凝らした。
そこには、全身ボロボロになりながらも、かろうじて立っている澁谷の姿があった。
その目は白く、意識があるようには見えない。
「嘘だろ……」
あれを受けて、まだ生きているのか。




