【25話】新たな宿敵
ワテラキ王国を出発して三日。
俺はついに、火山の入り口へとたどり着いた。
「やっと着いたか……」
道中、これといったハプニングはなかった。だが、ここからが本番だ。
今回の目的は、火山に現れた竜から宝石を取り戻すこと。
竜といえば、ゲームでは終盤に登場し、プレイヤーを苦しめる強敵というイメージがある。
果たして、今の俺の力で勝てるのだろうか。
「まあ、やるしかないか」
俺は気を引き締め、火山の道を慎重に進み始めた。
足元には、赤く煮えたぎる溶岩が流れている。
いくら【不動】があるとはいえ、溶岩に落ちてしまえばひとたまりもない。さすがに、あれまで防げるとは思えない。
「にしても、暑いな……」
額から汗が流れ落ちる。
できることなら、今すぐにでも帰りたい。
しかし、ここまで来て引き返すわけにはいかない。
俺は暑さに耐えながら、ひたすら先へと進んだ。
そして、歩き続けること約十五分。
「……着いた」
ついに火口へとたどり着いた。
周囲を見渡すと、そこには確かに竜の姿があった。
ただし、地上にいるわけではない。
はるか上空を、悠々と飛び回っているのだ。
「でかいな……」
その巨体は、遠くから見ても圧倒的な存在感を放っていた。
俺は目を凝らし、竜の姿を観察する。
すると、首元に何かがぶら下がっていることに気づいた。
紐の先には、宝石らしきものがある。
かなり離れているにもかかわらず、神々しい光を放っていた。
「あれが、奪われた宝石か……」
間違いないだろう。
問題は、どうやって取り戻すかだ。
「この距離なら……【水噴射】だな」
俺は指先に意識を集中させ、竜へと狙いを定めた。
水流を当てて、宝石を落とすことができれば一番手っ取り早い。
そして――。
「【水噴射】!」
勢いよく水が放たれた。
しかし、その直後。
ジュワッ!
「……え?」
水は竜に届くどころか、途中で蒸発してしまった。
あまりの出来事に、俺は言葉を失う。
「嘘だろ……」
火山の熱が、想像以上だったらしい。
これでは【水噴射】を使っても意味がない。
「水がダメなら……【震空剣】か」
俺は疲労の残る体で剣を握りしめた。
ただし、【震空剣】には一つ問題がある。
それは、斬撃が届くまでに時間がかかることだ。
つまり、空を飛び続ける竜に命中させるのは非常に難しい。
それでも、やってみるしかない。
俺は竜の動きを見極め、剣を振り抜いた。
「【震空剣】!!」
不可視の斬撃が空を駆ける。
だが――。
「……外れたか」
予想通り、竜は斬撃を軽々とかわしてしまった。
「まあ、そう簡単にはいかないよな」
俺は剣を構え直す。
一発で当てられないなら、何度でも撃てばいい。
「持久戦と洒落込もうじゃねえか!」
俺は竜の動きを追いながら、何度も剣を振り続けた。
◇
――それから、どれほどの時間が経っただろうか。
「はぁ……はぁ……」
俺はその場に座り込み、荒い息を吐いていた。
そして、目の前には目的の宝石が転がっている。
「よし……なんとか取り戻せたな」
結局、竜を倒すことはできなかった。
何度も【震空剣】を放ち、ようやく首元の紐を斬ることに成功したのだ。
宝石が地面に落ちたところを、どうにか回収することができた。
「まあ、何はともあれ依頼達成だ!」
これで目的は果たした。
あとはワテラキ王国に戻って、報酬を受け取るだけだ。
それにしても、火山は暑すぎる。
俺は暑い場所が大嫌いだ。
こんなところに長居する理由はない。
さっさと荷物をまとめ、火山を後にすることにした。
「称号の【剣豪】って、どんな能力なんだろうな……」
そんなことを考えながら歩いていた、そのときだった。
「……ん?」
胸元に、妙な違和感を覚えた。
何かが触れたような感覚。
俺は反射的に胸に手を当てる。
その瞬間――。
ビリッ!!
服が十字状に切り裂かれた。
「な、なんだこれは!?」
いつ斬られた?
攻撃された感覚など、まったくなかった。
俺は慌てて周囲を見渡す。
すると、前方から男の声が聞こえてきた。
「嘘やろ? まだ生きてはるん? 殺すつもりで斬ったんやけどなぁ」
この独特な喋り方。
聞き覚えのある声だった。
まさか――。
「澁谷!!」
俺が叫ぶと、男はニヤリと笑った。
「ご紹介にあずかりました、澁谷やでぇ」
男はゆっくりと刀を構える。
「ほな、早速……お命もらいます」
ただでさえ疲労が溜まっているというのに、ここで戦闘かよ。
本当に勘弁してほしい。
だが、逃げるわけにもいかない。
「ああ、いいさ。やってやるよ!」
俺は剣を引き抜き、正面に構えた。
先ほどの斬撃といい、こいつは相当厄介な相手になりそうだ。
一体、いつの間に斬られたのか。
そして、どれほどの実力を隠しているのか。
考える暇もなかった。
「……来いよ」
俺は澁谷を睨みつける。
こうして――。
清正弘と澁谷の戦いが始まった。




