【24話】侍の男
「ふぅ……ふぅ……」
歩き続けて、すでに四時間が経過していた。
分かってはいたが、やはり火山までは遠い。
今のペースで進んでも、まだ全体の五分の一にも達していないだろう。
道中に現れる魔物も、ボアやスライムといった見慣れたものばかり。正直、少し退屈になってきた。
「何か面白い魔物でも出てこないかな……」
そんなことを考えながら、ふと空を見上げた。
「……ん?」
そこには、一羽の巨大な鳥が飛んでいた。
一見すると普通の鳥に見える。だが、よく見ると明らかに様子がおかしい。
クチバシは異様に大きく、翼も広い。その大きさは、直径二メートルほどもありそうだった。
「……いるな」
いや、そんなことはどうでもいい。
俺の頭に、ある考えが浮かんだ。
「鳥ってことは……もしかして、飛行系のスキルを獲得できるんじゃないか!?」
これまで俺は、魔物を倒すことでさまざまなスキルを手に入れてきた。
ならば、空を飛ぶ鳥から飛行能力を得られる可能性だってあるはずだ。
そう考えると、試さずにはいられなかった。
恐怖心よりも好奇心が勝っている。
俺は指先を鳥に向け、狙いを定めた。
(確か、鳥は翼を傷つけると上手く飛べなくなるんだよな……)
一撃で仕留める必要はない。
まずは翼を狙い、地面に落とすことができればいい。
俺は指先に意識を集中させた。
そして――。
「水噴射!!」
指先から勢いよく水が放たれる。
水流は一直線に空を駆け、巨大な鳥の翼へと向かっていった。
「命中!!」
狙い通り、翼の付け根に直撃した。
これなら落ちるはずだ。
俺は鳥の真下に移動し、いつでも追撃できるように身構えた。
しかし……。
「……あれ?」
鳥は落ちてこない。
それどころか、何事もなかったかのように悠々と空を飛び続けている。
「もしかして……全然効いてない?」
嘘だろ。
通常スキルとはいえ、【水噴射】は木に穴を開けるほどの威力がある。
それなのに、鳥の翼には傷一つついていない。
「……マジかよ」
俺は肩を落とした。
せっかく新しいスキルを獲得できると思ったのに、これでは話にならない。
【震空剣】を使えば倒せる可能性はある。
だが、今の目的はあくまで宝石の回収だ。ここで鳥と遊んでいる暇はない。
「はぁ……先を急ぐか」
俺は再び歩き始めた。
結局、火山へと続く道のりを踏破するまでに、さらに三日もの時間を費やすことになった。
◇
――正弘が火山へ向けて出発してから、約一時間後。
ワテラキ王国。
そこには、一人のクラスメイトの姿があった。
しかし、その格好はほかの生徒たちとは明らかに異なっていた。
右腰には、鞘に収められた刀。
頭には大きな笠を被り、まるで時代劇に登場する侍のような姿をしている。
男は王国の門を見つめながら、静かに呟いた。
「オレは全部見てたんやで、清……!」
その声には、隠しきれない怒りが込められていた。
「お前が中西を追い詰めて、自害させたってことをな」
男は拳を強く握り締める。
そして、怒りに震える声で続けた。
「アカン……アカンわ。マジで許されへん。よくもオレの愛しの中西を……!」
その瞬間だった。
背後の茂みから、二体のボアが飛び出してきた。
二体は男を目掛けて、勢いよく突進する。
しかし――。
「……邪魔や」
男が刀に手をかけた。
次の瞬間、鋭い閃光が走る。
一瞬の出来事だった。
二体のボアは、男の動きを捉えることすらできないまま、その場に倒れた。
男は刀を鞘に戻すと、何事もなかったかのように歩き出した。
「清正弘……」
その口元に、薄い笑みが浮かぶ。
「オレがお前を三枚おろしにしちゃる」
そう言い残すと、男はワテラキ王国の門をくぐった。
そして、人混みの中へと姿を消していった。




