【23話】新たな始まり
「さて………どうしようかな」
俺は王国の外れに立ち、これからどう行動するべきか考えていた。
本来の目的は、坂口を殺し、奴の持つ剣と財産を手に入れることだった。
しかし、今の状態でトータム王国に戻るのは無理がある。
ボスガーディアンとの戦いに続き、大多和との死闘。さらには中西との別れ。
ここ数日だけで、いくつもの過酷な出来事を経験した。正直、体は限界に近かった。
「まずは休める場所を探すか……」
俺は頭の中で、この周辺の地図を思い浮かべた。
「確か、ここから北に進めばワテラキ王国があるはず……」
記憶を頼りに、俺は歩き始めた。
そして、わずか五分後。
「……あった」
目の前には、立派な城壁に囲まれた王国が広がっていた。
思っていたよりも近かったらしい。
俺は門をくぐり、街の中へと足を踏み入れた。
トータム王国とは、また違った雰囲気だ。道には石畳が敷かれ、建物も整然と並んでいる。街並みからは、どこか落ち着いた印象を受けた。
まずは宿を探して、体を休めなければ。
そう思いながら歩いていると、不意に一人の男性から声をかけられた。
「お願いします……!」
「え?」
振り返ると、そこには必死な表情を浮かべた男性が立っていた。
「どうか、あの凶悪な魔物から宝石を奪い返してくれませんか……! 報酬ならいくらでもお支払いします。どうか、よろしくお願いします!」
「宝石を……?」
突然の頼み事に、俺は困惑した。
今まで、街の住民から直接依頼を受けることなどなかったからだ。
すると、目の前に見慣れたウィンドウが表示された。
【ワテラキ王国での頼み事①】
「ミッション……?」
思わず声が漏れる。
ここに来て、初めて見る形式の依頼だった。
どうやら、この男性の頼みを引き受けることで、何か報酬を得られるらしい。
俺は表示された詳細を確認する。
すると、ある項目に目が留まった。
【報酬 称号「剣豪」】
「……称号?」
スキルではない。
今まで見たことも聞いたこともない、新しい要素だった。
これまで何人ものクラスメイトと出会ってきたが、称号について話していた者はいなかった。
それほど珍しいものなのだろうか。
あるいは、特定の条件を満たした者だけが手に入れられる特別な報酬なのかもしれない。
「剣豪、か……」
名前からして、剣に関係する称号なのは間違いなさそうだ。
もしかすると、坂口との戦いで役に立つ可能性もある。
それに、せっかく新しい要素を見つけたのだ。試さない理由はない。
「分かりました。その依頼、引き受けます」
「ほ、本当ですか! ありがとうございます!」
男性は何度も頭を下げた。
俺は依頼を引き受けたことを確認すると、ひとまず宿へ向かった。
◇
宿の部屋に入ると、俺は荷物を置いてベッドに腰を下ろした。
窓の外では、夕日が街並みを赤く染めている。
「もうこんな時間か……」
おそらく十八時くらいだろう。
依頼の内容を詳しく確認したいところだが、今すぐ行動する必要はない。
むしろ、今は体を休めることが最優先だ。
ここ数日の戦闘で、俺は何度も命の危機に陥った。
中西との約束を果たすためにも、こんなところで倒れるわけにはいかない。
「明日から本格的に動くか」
そう呟き、俺はベッドに横になった。
久しぶりに、何も考えずに眠れそうな気がする。
こうして俺は、翌日の冒険に備えて早めに眠りについた。
◇
翌朝。
「コケコッコー!」
鶏の鳴き声が聞こえ、俺は目を覚ました。
窓の外はすっかり明るくなっている。
「ん……朝か」
身支度を整え、宿を出る。
しかし、街の様子を見て俺は首を傾げた。
「……早すぎたかな」
通りには、ほとんど人影がない。
店もまだ開いておらず、街全体が静まり返っていた。
どうやら、かなり早い時間に起きてしまったらしい。
「まあ、いいか。今はミッションに集中しよう」
俺はウィンドウを開き、依頼の詳細を確認する。
【ワテラキ王国での頼み事①】
【目的:火山の火口に現れた竜から宝石を奪還する】
【報酬:称号「剣豪」】
「竜、か……」
どうやら、火山の火口に一匹の竜が現れたらしい。
そいつが宝石を奪い去り、火口付近に居座っているという。
つまり、竜を倒すか、隙を突いて宝石を取り返す必要があるわけだ。
「火山は確か、ここから結構遠かったよな……」
記憶を辿る限り、歩いて向かえば二日はかかる距離だ。
竜がどれほど強いのかも分からない。
普通に考えれば、今の俺が挑むには危険な相手だろう。
だが、報酬の称号「剣豪」はどうしても気になる。
それに、ここで新しい力を手に入れられれば、今後の戦いにも役立つはずだ。
「散歩がてらに、いっちょやったりますか……」
俺は軽く伸びをして、必要な荷物を確認する。
食料、水、そして剣。
準備は整った。
「よし、行くか」
俺は街の門を抜け、火山へと続く道を歩き始めた。
その先には、どんな竜が待ち受けているのだろうか。
そして、称号「剣豪」はどのような力をもたらすのか。
まだ、このときの俺は知る由もなかった。




