【21話】後悔
「待って……!」
俺が叫ぼうとした、その瞬間だった。
中西は迷うことなく、最後の決断を下した。
次の瞬間、彼女を包んでいた光が一気に強くなる。
「……あ」
一瞬、何が起きたのか理解できなかった。
光が収まったとき、そこに中西の姿はなかった。
「やめろ……やめてくれよ……」
俺は頭を抱えた。
何度も、何度も首を横に振る。
頼むから、嘘だと言ってくれ。
今すぐ起き上がって、いつもの冷静な顔で俺を叱ってくれ。
そう願っても、中西が戻ってくることはなかった。
そして、目の前にウィンドウが表示される。
【中西光 死亡】
死因:奥義の代償
「…………あ」
文字を見た瞬間、全身から力が抜けた。
「あぁ……うぅ……」
涙が止まらない。
何度拭っても、次から次へと溢れてくる。
俺は中西に生かされたんだ。
中西は自分の命を犠牲にして、俺を救ってくれた。
なのに……。
俺という、何の価値もない人間が。
「……なんでだよ」
声が震える。
「なんで、お前が死ななきゃいけなかったんだよ……!」
そのとき、再びウィンドウが表示された。
【大多和和成からスキルを吸収しました】
【ユニークスキル 不動】
【ユニークスキル 震空剣】
【スキル 気配察知】
【13200ゴールドを獲得しました】
「……黙れ」
俺はウィンドウを睨みつけた。
今は、そんなものを見たくない。
スキルも、金も、どうだっていい。
「黙れって言ってんだろ……!」
俺は拳を振り上げ、ウィンドウに叩きつけようとした。
だが、拳は何にも触れることなく、虚しくすり抜けていった。
「くそっ……! くそおおっ!」
何もできない。
俺は何もできなかった。
大多和を倒すために、中西に奥義を使わせた。
もっと別の方法があったはずだ。
もっと上手く立ち回れていれば、彼女を死なせずに済んだかもしれない。
俺が弱かったから。
俺に力がなかったから。
だから、中西は……。
「ハァ……ハァ……」
呼吸が乱れる。
胸が苦しい。
今すぐにでも、すべてを投げ出してしまいたかった。
だが、そのとき。
『あなたは絶対に、生き延びて』
中西の声が、脳裏によみがえった。
「…………」
そうだ。
あいつは、俺に生きてほしいと言った。
最後の最後まで、俺のことを考えてくれた。
なら……。
こんなところで立ち止まるわけにはいかない。
俺が生き延びることこそ、中西の願いなのだから。
「……行こう」
俺は震える足に力を込めた。
まだ、この森には大多和の部下が三人残っている。
洞窟の入口も、そいつらに見張られているはずだ。
まずは、ここから脱出しなければならない。
ズキンッ!
足に鋭い痛みが走った。
思わず顔をしかめる。
体は限界に近かった。それでも、俺は無理やり足を前に出した。
一歩。
また一歩。
中西との約束を胸に刻みながら、俺は洞窟を目指した。
それから、三時間ほど歩いただろうか。
ようやく、洞窟の入口が見えてきた。
そして、そこには予想通り、大多和の部下が三人いた。
三人は入口のそばに座り込み、楽しそうに話をしている。
どうやら、俺が戻ってくるとは思っていないらしい。
俺は静かに剣を構えた。
その気配に気づいたのか、一人がこちらを振り向く。
「……ん? おい、あいつ!」
男は俺の顔を見て、目を見開いた。
「前に逃げられたやつだぞ! しかも、手負いじゃねえか!」
残りの二人も立ち上がり、俺を見て笑った。
「なんだ、まだ生きてたのかよ」
「そんな体で、俺たち三人を相手にするつもりか?」
……舐められたものだ。
確かに、俺は満身創痍だ。
足は痛むし、体にもほとんど力が残っていない。
だが、今の俺は以前の俺とは違う。
俺は剣を握り直し、近くに生えている木々へと切っ先を向けた。
「【震空剣】」
剣を振るう。
次の瞬間、目に見えない衝撃波が木々を襲った。
ドゴォォォンッ!!
凄まじい轟音が響き、何本もの木が音を立てて倒れていく。
三人の顔から、一瞬にして笑みが消えた。
「なっ……!?」
「そ、それは……!」
男たちは俺の剣と顔を交互に見つめ、明らかに動揺していた。
「大多和の兄貴の技……! なんでお前が使えるんだ!?」
俺は剣を下ろし、三人を睨みつけた。
「俺は……俺は大多和を殺した」
その言葉に、三人の表情が凍りつく。
「戦いたい奴がいるなら……来い!」
俺は声を張り上げた。
「俺が相手をしてやる!」
三人は顔を見合わせた。
そして、次の瞬間。
「に、逃げろおおおっ!」
一人が叫び、三人は四方八方へと逃げ出していった。
俺は追いかけなかった。
殺すつもりはない。
ただ、道を開けてもらえれば、それでいい。
「……これで、通れるな」
俺は洞窟の入口を見つめた。
中西が命を懸けてつないでくれた、この命。
無駄にするわけにはいかない。
俺は再び剣を握り、洞窟へと足を踏み入れた。
行きの攻略に比べれば、帰り道は驚くほど簡単だった。
魔物が現れても、今の俺には【不動】がある。
攻撃を受けても、以前のように怯むことはない。
さらに、【震空剣】を使えば、離れた場所にいる魔物にも攻撃を仕掛けられる。
剣を振るうたびに衝撃波が洞窟内を駆け抜け、立ちはだかる魔物を次々となぎ倒していった。
もちろん、体の疲労が消えたわけではない。
それでも、俺は歩みを止めなかった。
中西との約束がある。
俺は、絶対に生き延びなければならない。
やがて、暗い洞窟の先に光が見えた。
出口だ。
「……もう少しだ」
最後の力を振り絞り、俺は光へと向かって歩いた。
そして、洞窟を抜けた、その瞬間。
ピロンッ。
聞き慣れた電子音が鳴り響いた。
「……なんだ?」
目の前にウィンドウが浮かび上がる。
そこに表示されていたのは、思いもよらない通知だった。
【ユニークスキルの統合が完了しました】
「……俺の、ユニークスキル……」
ついに、このときが来た。
ずっと待ち続けていた、【統合】の進化。
俺は震える手を伸ばし、ウィンドウに触れた。




