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異世界に召喚された俺たちですが、どうやら仲間を殺さないと帰れないようです   作者: 高野
【第1章】生き残るために

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【20話】別れ


俺は死ぬ……。


もう、運命を受け入れるしかなかった。


大多和を倒せた。それだけで十分だ。


そう自分に言い聞かせ、静かに目を閉じようとした、そのときだった。


足音が聞こえた。


ゆっくりと近づいてくるその人物は、俺のすぐそばで立ち止まった。


「だから……使いたくなかったのよ……」


中西だった。


その表情には、いつもの冷静さがなかった。


俺は彼女を責めるつもりなんてない。実際、あの奥義がなければ、大多和を倒すことはできなかっただろう。俺たちが生き残るためには、あれしかなかったのだ。


「……別に、お前を責めるつもりはないさ」


声を出すのもつらかったが、どうにかそう伝えた。


しかし、中西は首を横に振った。


「違うのよ……そういうことじゃないの」


そして、少し間を置いてから口を開いた。


「この技を使えば……どちらかが死ぬ」


「……は?」


思わず聞き返してしまった。


どちらかが死ぬ?


どういう意味だ?


攻撃を受けたのは俺だ。中西ではない。それなのに、なぜ中西まで死ぬ可能性があるんだ?


疲れ切った頭を必死に動かし、俺は考えた。


まさか、絶剣の奥義には、俺の知らない恐ろしい仕組みがあるのか?


だが、いくら考えても答えは出ない。


そんな俺を見て、中西はふっと笑った。


それは、これまで戦いの中で見せてきた余裕の笑みとは違っていた。どこか懐かしむような、そして悲しそうな笑みだった。


「私ね……あなたに感謝しているのよ」


「……何の話だ?」


「ずっと前から、感謝していたの」


中西は空を見上げた。まるで、遠い過去を思い出しているかのようだった。


「私にはね、世界で一番大切なものがあるの」


「……大切なもの?」


「ええ。中西由紀。私の妹よ」


「…………妹?」


なぜ今、そんな話をするんだ?


大多和を倒したばかりだというのに。それに、俺と中西の妹に何の関係がある?


疑問ばかりが頭を巡る。


だが、中西は俺の困惑などお構いなしに話を続けた。


「二年前のあの日……私は妹と喧嘩したの」


その声は、少しずつ小さくなっていった。


「本当に些細なことだったわ。今思えば、どうしてあんなことで喧嘩したのかもわからない。でも、当時の私は意地を張ってしまった」


中西は拳をぎゅっと握りしめた。


「そして、由紀は家を飛び出していったの……」


……妹。


二年前。


家を飛び出した少女。


その言葉を聞いた瞬間、俺の脳裏に、ある光景が浮かび上がった。


「……まさか」


心臓が大きく跳ねる。


もう体は動かないはずなのに、胸の奥だけが妙にざわついていた。


中西は俺の顔を見て、静かに頷いた。


「やっと思い出した?」


そして、彼女は告げた。


「そう。あのあと、由紀は信号に気づかず、交差点に飛び出したのよ……」


「……っ!」


俺はハッと息を呑んだ。


思い出した。


あれは、今から約二年前のことだ。


ゲームセンターからの帰り道、俺は交差点で信号が変わるのを待っていた。


そのときだった。


赤信号にもかかわらず、俺の横から一人の少女が飛び出していった。その先には、大型トラックが迫っていた。


運転手が気づいているのかどうかもわからない。少女も、迫りくるトラックに気づいていないようだった。


考えるより先に、体が動いていた。


「危ない!!」


俺は少女を突き飛ばし、その場から遠ざけた。


次の瞬間、トラックが目の前を通り過ぎる。


幸い、トラックは間一髪で停止した。少女も無事だった。


……正直に言えば、俺はそのとき、こんなことを考えていた。


もしかして、俺が飛び出す必要なんてなかったんじゃないか、と。


トラックは止まったのだから、俺が余計なことをしただけだったのかもしれない。


そんなふうに思っていた。


けれど、まさか……。


「あの少女……中西の妹だったのか」


ようやく、すべてがつながった。


あの日、俺が助けた少女。それが、中西由紀だったのだ。


中西は静かに頷いた。


「あなたがいなかったら、由紀はどうなっていたかわからない。あの日からずっと、いつかあなたにお礼を言いたいと思っていたの」


「……そうだったのか」


俺は小さく息を吐いた。


まさか、こんなところであの日の出来事につながるとは思いもしなかった。


だが、だからこそ疑問が深まる。


なぜ、今になってその話をするんだ?


俺はもう助からない。それなら、最後に恩人へ感謝を伝えたかったということなのだろうか。


「……俺が死ぬ前に、感謝でも伝えたかったのか?」


皮肉を込めて言うと、中西は即座に首を横に振った。


「違うわ」


彼女はまっすぐに俺を見つめた。そして、はっきりと言い切った。


「死ぬのは……私よ。恩人を殺すわけないじゃない」


なぜ……。


なぜ、中西が死ぬことになるんだ。


俺を助けるため?


そんな理由で、こいつが死ななければならないのか?


「……実はね、この奥義は……」


中西は気まずそうに目を伏せた。そして、ゆっくりと口を開く。


「私が死ねば、なかったことになるの。奥義そのものが解除されて、与えたダメージも発動しなくなる」


「なっ……!」


俺は絶句した。


つまり、中西が死ねば、俺に仕掛けられた時差ダメージも消える。


俺は助かる。


だが、その代わりに……中西が死ぬ。


「おい、ふざけるなよ……!」


声を張り上げようとしたが、体は動かない。【畜撃】を使い切った俺には、指一本動かす力すら残っていなかった。


「他に方法があるだろ……? なあ、そうだろ!?」


中西は答えなかった。


ただ、俺の顔を見つめていた。その瞳には、もう迷いがなかった。


「……時間はもうないの」


そう言うと、中西は静かに目を閉じた。


次の瞬間、彼女の体を淡い光が包み始める。


「待て……待ってくれ!」


俺は必死に声を絞り出した。


「まだ何か方法があるはずだ! 俺が死ねばいいだけだろ! お前が犠牲になる必要なんてない!」


「……ごめんね」


中西は小さく呟いた。


「でも、私はあなたに生きていてほしいの」


「やめろ……! 頼む、待ってくれ……!」


どれだけ叫んでも、体は動かない。手を伸ばすことすらできない。


俺はただ、中西の姿を見ていることしかできなかった。


「そうだ……」


中西は、ふと思い出したように顔を上げた。


「もし、私の親友の中村さんに会ったら、伝えてほしいことがあるの」


「……そんな話は後でいい! 自分で伝えろよ!」


「私は委員長としての役割を果たしたよ、って」


中西は少しだけ笑った。


「きっと、あの子ならわかってくれるから」


「中西……!」


頼むから、やめてくれ。


もう、誰かが死ぬところなんて見たくない。


せっかく大多和を倒したんだ。俺たちは、ようやく生き残るための一歩を踏み出せたはずだろ。


なのに、どうして。


どうしてお前が犠牲にならなきゃいけないんだよ……!


「やめろ! 頼む、待ってくれ……!」


俺の声が、森の中に響き渡る。


それでも、中西は止まらなかった。


彼女を包む光は、少しずつ強くなっていく。


そして、最後に俺を見つめた。


「正弘」


「……っ」


「あなたは絶対に、生き延びて」


中西は笑った。


これまで見た中で、一番優しい笑顔だった。


「ありがとう」




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