【15話】正弘サバイバル③
俺は朝早くに目を覚まし、洞窟へと向かった。
歩き続けること二時間半。ようやく洞窟が見えてきた。
「やっぱり、見張りがいる……」
洞窟の前には、ガタイのいい男と小柄な男が立っていた。
幸い、大多和の姿はない。
「さて……どうしようか」
大多和がいない今のうちに、正面突破するのも一つの手だろう。
だが、万が一失敗して捕まれば終わりだ。おそらく、命はない。
周囲を見渡すと、少し離れた場所に立派な家が建っていた。
大多和はあそこに居座っているのか……。
とにかく、今は一度離れたほうがいい。
俺は見つからないよう、ゆっくりと後ずさりする。
すると――。
「んぐッ!」
突然、背後から口を塞がれた。
しまった!
俺は慌てて振りほどこうとする。
「静かに!」
耳元で囁かれた声に、思わず動きを止めた。
この声……大多和じゃない。女か?
俺はゆっくりと振り返る。
そして、目を見開いた。
「まさか……中西?」
そこにいたのは、クラスの委員長である中西光だった。
どうして中西がここに……?
混乱する俺の手を、中西が強く引いた。
「早く、ここから逃げるわよ」
「えっ、ちょっ……!」
俺はわけもわからないまま、中西に連れられてその場を離れた。
しばらく進んだ先にあったのは、一本の巨大な木だった。
「ここに何があるんだ……?」
俺が不思議そうに見ていると、中西は木に絡まったツタを手で引っ張った。
すると、その奥から大きな穴が現れた。
どうやら、ここが中西の隠れ場所らしい。
俺たちは穴の中に入り、中西が入り口を塞ぐ。
ようやく安全を確保できたのか、中西はほっと息を吐いた。
「よかった……。あなた、危ないところだったわよ」
「危ないって……ちゃんと草むらに隠れてたぞ?」
「そういう問題じゃないの」
中西は真剣な表情で首を横に振った。
そして、俺が知らなかった大多和のスキルについて話し始めた。
中西がこの場所にたどり着いたのは、一週間前のことらしい。
洞窟を抜けようとしたところを大多和に見つかり、捕まりかけたという。
それ以来、ここに身を隠していたそうだ。
さらに、大多和は俺が見かけた立派な家に、朝も昼も関係なく居座っているらしい。
問題は、それだけではなかった。
大多和は、驚異的なスキルを持っているというのだ。
【周辺察知】
人間や魔物を問わず、自分を中心とした半径十メートル以内にいる者の気配を察知できるスキルらしい。
つまり――。
「俺がさっき、あの場所で偵察していたら……」
「ええ。気配を察知されていた可能性が高いわ」
もし、あのまま偵察を続けていたら。
俺は大多和に居場所を知られ、殺されかけていたかもしれない。
「危なかった……」
俺は思わず息を吐いた。
そんな俺に、中西は真っすぐな視線を向けた。
「ねえ。私と一緒に、大多和をぶっ飛ばさない?」
「……は?」
あまりにも突然の提案に、俺は思わず聞き返した。
大多和を倒す?
確かに、こいつはクラスでも有名な委員長だ。剣道では県大会優勝の実績があり、頭もトップクラスにいい。
そんな中西が協力してくれるというのなら、断る理由はない。
「……わかった。一時的に同盟を組もう」
「決まりね」
こうして俺たちは、大多和を倒すために手を組むことになった。
それから俺たちは、お互いの持ち札を明かしながら作戦を練った。
中西が持っているスキルは二つ。
数こそ少ないが、どちらも強力なものだった。
一つ目は、【身体能力上昇】。
名前からして、効果はだいたい想像できる。
だが、問題は二つ目だった。
【ユニークスキル 絶剣】
その能力を聞いた瞬間、俺は思わず息を呑んだ。
剣による攻撃が、相手の防御力や防御系スキルを無視する。
つまり、どれだけ強固な防御を持っていようと、剣さえ届けば関係ないということだ。
「すごいな……」
聞いただけでも、とんでもないスキルだとわかる。
これなら、大多和にも通用するかもしれない。
俺も中西に、【水噴射】【毒牙】【畜撃】の三つを明かした。
もちろん、合成中のユニークスキルについては黙っておく。
まだ使える状態ではないし、わざわざ手の内をすべてさらす必要もないだろう。
お互いのスキルを確認し、作戦を練っていく。
その途中、俺はふと疑問に思った。
……中西一人でも、大多和に勝てそうな気がするんだけどな。
【絶剣】があれば、防御を無視して攻撃できる。
剣道の実力だってある。
それなのに、なぜ一週間もここから出られずにいるんだ?
やはり、大多和はそれだけ厄介な相手なのだろう。
そんなことを考えながら話し合いを続けているうちに、一時間ほどが経過した。
そして――ついに作戦が決まった。
俺が大多和の注意を引きつけ、その隙に中西が【絶剣】で攻撃する。
シンプルだが、成功すれば大多和を倒せる可能性は十分にある。
ただし、一つだけ大きな問題があった。
それは、俺がどれだけ大多和の注意を引きつけられるか、ということだ。
失敗すれば、俺が真っ先にやられる。
「作戦決行は明日の昼ね」
「ああ、わかった」
俺たちは明日の戦いに備え、休むことにした。
俺は床に寝転がり、誰にも見られないようにウィンドウを開く。
【26時間21分47秒】
合成完了まで、あと一日ほどか……。
どうやら、今回の戦いには間に合いそうにない。
まあ、仕方ないか。
俺はウィンドウを閉じ、目をつむった。
そして、そのまま眠りに落ちていった。
――大多和が、すぐそこまで迫っていることにも気づかずに。




