【10話】洞窟の主
俺は王国を出て、魔物を倒しながら先へと進んでいた。
地図によると、このまま進めば荒廃した村があるらしい。
だが――そこへ行くには、山を一つ越えなければならないようだ。
幸い、山の麓には洞窟があり、そこを通れば簡単に山を抜けられるらしい。
「ヤベェ、林に別の場所へ行くって伝えるの忘れてた」
今さらながら、林に何も言わずに出てきたことを思い出した。
まあ、あいつなら何とかするだろう。
……たぶん。
結局、あの王国で出会ったクラスメイトは、林と坂口の二人だけだった。
だが、まだ三十人以上は生き残っているはずだ。それなのに、ここまで誰とも出会わないなんてことがあるのだろうか。
単純に、この世界がそれだけ広大だということなのかもしれない。
分からないことは、まだまだ山ほどある。
そもそも、魔王はなぜ俺たちをこの世界に呼び出し、殺し合いを強要しているのか。
俺たちが争うことで、いったい何を得ようとしているのだろう。
それに、もう一つ気になることがある。
この世界に来てから、俺はずっと探していたものがあった。
魔物がいて、スキルがあって、王国まで存在する。
それなのに――。
「冒険者って言葉、一回も聞いたことないんだよな……」
普通、こういう世界なら冒険者ギルドくらいあるものじゃないのか?
ゲームなら、ほぼ確実に存在するはずだ。
……まあ、ゲームじゃないんだから、そんなものがあるとは限らないか。
「考えても仕方ないか……。それに、もうすぐ洞窟に着くはずだ」
俺は地図を確認しながら、山の麓へと向かった。
しばらく歩くと、周囲の景色が変わり始めた。
目の前には険しい山がそびえ立ち、その麓には古びた看板が立っていた。
「ん? 看板か」
近づいて確認してみる。
《この先、ガンザン洞窟あり→》
「ガンザン洞窟……ね」
名前からして、いかにも何かありそうな洞窟だ。
俺は看板の矢印に従って歩き始めた。
それから二、三分ほど進んだところで――。
「おお……!」
目の前に、巨大な洞窟の入り口が現れた。
「これがガンザン洞窟か……」
俺は少し胸を躍らせながら、その中へと足を踏み入れた。
洞窟の中は、思っていたよりも明るかった。
壁には一定間隔で松明が設置されており、足元までしっかりと見える。
探索するには申し分ない環境だ。
ただ、一つだけ気になることがある。
「新しい魔物が出てくれるといいんだけどな……」
今まで倒してきたのは、スライムとボアばかり。
そろそろ、別の魔物から新しいスキルを手に入れたい。
そんな期待を胸に、俺は洞窟の奥へと進んでいった。
そのときだった。
ゴスッ!
「いてぇっ!」
突然、背後から何かに殴られた。
俺は慌てて振り返る。
そこにいたのは、石でできた人形のような魔物だった。
「ゴーレム……ってやつか?」
体長は五十センチほど。
見た目はなかなか厳ついが、それほど大きくはない。
これなら、そこまで苦戦することもないだろう。
「まずは、こいつで試してみるか。【水噴射】!」
俺はゴーレムに向かって水を放った。
プシュンッ!
しかし――。
ゴーレムは水を浴びても、まるで効いていないかのように平然と立っていた。
「……マジか。やっぱり石には効かないのか?」
毒も、石でできた相手には効果が薄そうだ。
となると、試すべきなのは……。
「そうだ。【畜撃】!」
俺は先ほど殴られたときのことを思い出した。
【畜撃】は、受けた攻撃を蓄えて放つスキル。
さっきの一撃も、ちゃんと蓄積されているはずだ。
「えーっと……蓄積したダメージを放出するには……」
俺はスキルの説明を思い出しながら、言葉を口にした。
「リミットブレイク!」
次の瞬間――。
ドォンッ!
ゴーレムの体が勢いよく吹き飛び、壁に激突した。
そして、そのまま動かなくなった。
《ゴーレムを倒しました》
「おおっ! やった!」
思わず声が弾む。
どうやら、無事に倒せたらしい。
「……さすがに、スキルは落とさないか」
少し期待したものの、ウィンドウには新しいスキルの表示はなかった。
まあ、毎回手に入るわけではないのだろう。
それでも、【畜撃】の使い勝手が分かったのは大きい。
受けたダメージを自動で蓄積し、好きなタイミングで放出できる。
相手の攻撃を利用して反撃する――なかなかロマンのあるスキルだ。
「ゴーレムか……。こいつは、どんなスキルを落とすんだろうな」
俺は期待を膨らませながら、さらに洞窟の奥へと進んだ。
ドスッ、ドスッ。
前方から、重たい足音が聞こえてきた。
「おっ! またゴーレムか!」
暗がりの向こうに、三体のゴーレムが立っていた。
普通なら、三体を相手にするのは少し厄介かもしれない。
だが、今の俺には【畜撃】がある。
「ちょうどいい。まとめて相手してやるよ!」
俺はあえてゴーレムたちの攻撃を受け、ダメージを蓄積させていく。
そして、十分に力が溜まったところで――。
「リミットブレイク!」
ドゴォンッ!
蓄積された力が一気に解放され、三体のゴーレムがまとめて吹き飛んだ。
それぞれ壁に激突し、そのまま動かなくなる。
《ゴーレムを倒しました》
《スキル【硬化】を吸収しました》
「おおっ! 来た!」
待ちに待った、新しいスキルだ。
しかも、名前からしてかなり使えそうな能力である。
「【硬化】か……。これは普通に強いだろ!」
体を硬くするスキルなら、防御力を上げられるはずだ。
攻撃を受ける機会が多い俺にとっても、相性はいい。
「やっぱり、場所を変えて正解だったな!」
王国の周辺で狩りを続けていたら、こんなスキルには出会えなかったかもしれない。
俺は上機嫌で、さらに奥へと進んでいった。
その後も、俺は新しいスキルを求めてゴーレムを倒し続けた。
そして、しばらく歩いていたときだった。
「……ん?」
ふと、壁の一部に違和感を覚えた。
よく見ると、そこには周囲の壁と同じような岩が積み重なっている。
だが、不自然だった。
「これ……岩で塞がれてるけど、穴があるんじゃないか?」
俺は岩に手をかけ、力を込めて押しのけた。
ゴロゴロッ!
岩が動き、その奥から暗い空間が姿を現した。
「やっぱり!」
そこには、直径二メートルほどの穴が開いていた。
明らかに、普通の通路とは違う。
こんな場所をわざわざ岩で塞いでいるということは……。
「もしかして、宝物でもあるんじゃないか!?」
考えるより先に、期待が膨らんだ。
俺は穴の中を覗き込む。
底は見えないが、それほど深くはなさそうだ。
「よし、行ってみるか!」
普通なら警戒するべきなのかもしれない。
だが、宝物があるかもしれないのだ。
ここで引き返す選択肢はなかった。
俺は迷うことなく、穴へと飛び込んだ。
――ドサッ!
「いてて……。思ったより浅かったな」
幸い、穴はそれほど深くなく、すぐに地面へとたどり着いた。
ただ、周囲はかなり暗い。
「うわ……。さっきまでの場所と違って、ほとんど何も見えないな」
俺は慎重に周囲を見渡した。
その瞬間――。
《ボスモンスターに遭遇しました》
「……は?」
目の前に、見慣れたウィンドウが表示された。
ボスモンスター?
まさか……ここは、ボスエリアなのか?
俺は慌てて周囲を見渡した。
すると、暗闇の奥に赤い光が浮かんでいるのが見えた。
それは、ゆっくりとこちらへ近づいてくる。
次の瞬間――。
ドゴォォォォンッ!!
轟音とともに、何かが地面を揺らした。
爆発音のような響きが洞窟内に反響し、俺は思わず身構える。
そして、暗闇の中から巨大な影が姿を現した。
《ボスガーディアンが出現しました》
「……デカすぎるだろ」
先ほどまで戦っていたゴーレムとは、比べものにならない。
その巨体を前にしただけで、圧倒的な力の差を感じた。
だが――。
ここまで来た以上、逃げるわけにはいかない。
新しいスキルを手に入れる絶好のチャンスかもしれないのだから。
俺は剣を握り締め、巨大なボスを睨みつけた。
「来いよ、ボス! やってやるぜ!」
こうして――。
俺とボスガーディアンの戦いが始まった。
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