06 不信感を信じる
海斗は人間不信だ。自覚している。
これまで何度となく良好な人間関係を築きたくて、他人を信用しようと心がけたが、裏切られた。
AIに相談すると、裏切られたわけではなく、海斗が他人に期待しすぎてしまったのだという。
信用と期待が分からない。
だから、信用も期待もしなくなった。
会社でもフラットに仕事をして、なんとなくやりやすくなった。
そして、それはこのデスゲームで最も有利な考え方だと思う。
「……」
チャイムが鳴って、麻琴やさくらの元に集まった人々が宣言を始めた。
「勝者」
「ゲーム終了」
麻琴の言葉は本当だったようで、彼らは次々とルールを開示していた。
『レ **勝者**は、この世の英知を全て手に入れることができる』
『レ **ゲーム終了**は三日目か**全てのルール**が開示された時点である』
彼らはずるずるとその場に座りこむ。
一日目は乗り越えられる、という安心感に浸っているのだろう。
その様子を、海斗は冷めた目で見た。
人間不信で手に入れたのは、人間観察だ。
三日間続くデスゲームを、いずれは強者に淘汰されるだろう彼らが勝ち抜けるとは思えない。
そしてこの状況においても、会場の端で縮こまっている女子四人組。
彼らには負ける気がしない。
静かに回る自分の思考回路を、これまでのルールにうつす。
想定されるキーワードは、場所のセッティングや一般常識から想定できる。
問題は間違える回数に制限があること。
白から緑に変わり、他のコンテナは黄色と赤色、そして黒色。
三回まで。四回間違えるとアウト。
「……?」
ルール全体を眺めていてふと気付く。
海斗は立ち上がって、モニターと対峙した。
周りの声が聞こえなくなる。
まるで自分のために世界が用意されているようだ。
「…ルールの構成」
『ピコーン!』
電子音と共にぶわぁと何かが体を駆け巡る。
こんな感覚は初めてだ。
宣言する前よりも、正解をとった後のほうが緊張するだなんて。
『レ ルールは必ず一文で**構成**されている』
予想通りで安心する。
これで一日目は乗り越えられる。
麻琴から鋭い視線を感じるが、無視だ。
信頼したら、食われる。
「さすがですね」
次の休憩時間、食事が提供されたのでコンテナの中に戻ろうとしたところで話しかけられた。
振り返ると、鈴木が姿勢正しく立っていた。
「こんにちは、鈴木 優と言います」
「…どうも。高橋、海斗です…」
数時間前は、彼の周りは人で溢れていたというのに、今は誰も寄りついていない。
海斗なら気にしたのだろうけど、当の本人は特に気にとめていないようだ
「あなたはグループに入らないんですね」
ちらり、と鈴木の目が麻琴達に向かう。
それに気付いて、気まずそうに麻琴やさくらがそっぽをむく。
「ええ…まぁ…」
「いい判断ではないでしょうか」
この人は何をしたいんだろうか。
それが海斗の第一印象。
面と向かってみても、何を考えているのかわからなかった。
海斗を牽制しているのか。
海斗に期待しているのか。
海斗を利用したいのか。
「あなたを評価していますよ」
「あ、ども…」
こういうときにどう返すのが良いのかわからない。
ありがとう?
何目線?
何か用ですか?
手元にAIがあったら、すぐに聞いていただろう。
「これからのデスゲーム、共に戦い抜きましょう」
戸惑う海斗に、一ミリも微笑みはうごかない鈴木。
むしろ、満足している雰囲気さえも感じられる。
海斗は仲良くするのは苦手な部類だ。
「はい…」
「では、また」
にこり、と会釈を最後に、自分のコンテナに向かっていった。




