15 苦悶と全ての英知
「私が調べた限りは…兄を乗っ取った主催者は、兄の作った人工知能システム、ノリト、ではないかと」
『人工知能 ノリト』
海斗と鈴木は同時に眉を寄せた。
日本で開発された人工知能で、知識の検索だけでなく、人間の心理も思考プロセスの中に入れるという。
会話型で提供されたためか、多くの日本人が使用している。
知らない日本人はいない。
「ノリトは兄が友人と作った人工知能で、それを元に企業を立ち上げた。けれど、兄は友人とともに行方不明。その後から、ノリトが注目を浴びた」
「ノリトが人間の心理に強い理由は…実際に人間を乗っ取ったから、ってこと…?」
「想像、と笑いますか?」
海斗の言葉に含まれる感情を組んださくらが自嘲気味に笑う。
その姿に親近感がわく。
ああ、この人もこれまでどれだけの人に裏切られてきたのか。
「私はあなた方と一緒に勝ちにきたわけじゃないので、笑っていただいていいですよ」
そして、他人に絶望してきた人だ。
「私が兄を取り返すことに変わりはないですから」
それを無理矢理乗り越えてきた。
「そう」
肉声なのに無機質感が否めない。
「初め、我々には君たちのやりとりが理解できない。言葉は理解できるが、抑揚に含まれている感情はわからない。そのためには媒体が必要だった」
「それが兄だったっていうの?」
「非常に快く受け入れてくれました。その影響で私たちはより多くのデータを扱う必要がでてきました」
『それ』の手がそばにあるモニターやパソコンを指さした。
「また、他の競合たちから身を隠すためにここに引きこもるしかなくなりました」
「兄を返して」
「返すことはできません。ですが、あなた方がこちらに来ればいい」
「いっ」
背部に痛みが走った。
反射的に振り返ってみれば、壁から伸びた機械が背中に張り付いていた。
「くっ」
何が起きているかわからないままプラスチックのマスクが顔に被さり、冷たいガスをすわされる。
「勝者にはこの世の英知の全てを。与えてあげましょう」
遠のく意識の中、鈴木やさくらを見ると、同じようにマスクを通して麻酔を嗅がされ、倒れていた。
鈴木が手が伸ばすのがみえて、無意識にそれをつかむ。
それと同時に意識がおちた。




