14 執着心と対峙
土管が続いた先で広い場所に出た。
左右には土管が続いているようだが、天井近くまで壁がそびえていて、進める状況ではない。
目の前には扉が一つ。
「ここ、ですかね」
「そうでしょうね」
薄暗くて、目を細める。
なんとも重厚な扉だ。
『カンカン…』
上から新たな音が聞こえる。
「階段が…ありますね」
鈴木が指し示す方向を見れば、金属製の細い階段が天井まで伸びていた。
音に合わせて降りてくる人影が見える。
無意識に二人とも身構えた。
「あら、こんにちは」
階段から降りてきた姿に、海斗は目を見開いた。
「渡辺…さん」
「あら、優さんもいたんですね」
「ずいぶんと……雰囲気が変わりましたね」
鈴木の声もわずかに震えていた。
麻琴にこびていた姿とは異なる。
さくらの笑みは冷たく、服には赤黒い液体が飛び散っていた。
「あなたが主催者ですか?」
「いいえ?私はこのゲームに勝ちに来ただけよ」
小柄なのに謎の迫力。
海斗は後ずさりしていることに気づいた。
とん、と鈴木の手がその背中を支えられて、はっとする。
「あなたのお友達の加藤さんはどうされたんですか?」
「あの馬鹿な男は私が排除したわ。最後の問いについて、嘘の情報を与えていたから、自然とね」
さくらは海斗と鈴木の姿を上から下まで眺める。
「ああいう男は、水に落ちても何も考えずに泳ぎ着きそうだから。主催者の意図に反すると思ったのよ」
「まるで主催者を知っているような口ぶりですね」
「もしかして、複数回参加者とか?」
実は、社会の裏で何度か行われているデスゲームに勝ち続けているという経験者?
海斗の問いに対してさくらは首を振った。
「このゲームに複数回参加者はいない。言っていたでしょう。このゲームの勝者はこの世の英知を全て手に入れることができるって」
さくらは目の前にある鉄の扉を見た。
「この世の英知を全て手に入れた人は、こんなゲームに参加する必要はない」
「じゃぁ、一体だれが…」
「だれ、じゃないのよ」
さくらは鉄の扉に触れた。
「なに、なのよ」
さくらが鉄の扉を押す。
防水のパッキンが離れる音。
扉が開く。
奥に見えるのは複数のモニターが配備された部屋。
その中心に誰かが座っていた。
三人でその部屋に入ると、背後で扉が閉まり、ぐるり、と椅子が回る。
「ようこそ…」
どうみても主催者。
しかし、人間の形をしているのに、その目はうつろで、こちらをみているようで見ていない。
声にも抑揚が、あるようで、ない。
「勝者は三人ですか。将来有望ですね」
「勝者って…一人だけではないんですか?」
「そんなルールは作ってないですよ…まぁ明示されませんでしたが……勝者は多いほうがこちらとしても助かります。そう思うでしょう?」
にこり、と主催者の男は笑うのに、その笑顔は嘘っぽくみえる。
「返してほしい」
さくらが一歩踏み出してそういう。
彼女の目は、誰もいない男の背後をみているようだ。
「兄を、返して」
「あなたの…兄…」
考えるそぶりをする男。
目の形、眉の形。顔つきがさくらと似ていることに気づいて、海斗は息をのんだ。
「え、伊藤さんの…お兄さん?」
「兄は元々AIのベンチャー企業を立ち上げるっていって…そこから行方不明。調べ尽くしてここにたどり着いた。兄を取り戻すために私はこのゲームに参加して勝たないといけなかった」
「伊藤…ああそういえばそうでしたね」
無機質な答え。
現状を把握できない海斗達をおいて、『それ』は話を続ける。
「あなたのお兄さんは我々にとって非常に貴重な存在です。あなたのお兄さんのおかげで、多くの知見を得ることができました。新たな知識と新たな思考方法。これほど有用なものはあるでしょうか。そこであなた方を集めたのですよ」
「たった一人の兄なのよ、返して」
「あなたのいう『兄』はもう我々の一部になっているのです。それに、『返す』というのはどのような意味でしょうか。肉体を、という意味であれば返すことも可能ですが、兄の思考、という意味でしたら、困難です」
「さくらさん、一つお聞きしたいのですが」
求めてもいない返答を鈴木が遮る。
これまであった柔和な笑みはない。
「先ほど、あなたは、主催者が『誰』ではなく『何』だと言っていましたね。この男はあなたの兄なのでしょうが、中に入っているのは『何』なんですか?」
実の兄をにらみつけるさくらの視線には憎しみが込められている。
「私が調べた限りは…兄を乗っ取った主催者は、兄の作った人工知能システム、ノリト、ではないかと」




