13 思考の無抵抗感
二人分の足音が地下水道に響く。
沈黙が気まずくて、海斗は慌てて話題を作った。
「鈴木さんは…このゲームについてどう思いますか?」
主催者…ゲームの意図…
繰り返し考えるのに、全く見当がつかない。
鈴木なら何か知っているかもしれない。
「私もずっと考えてはいましたが…」
地上のときにはなかった、情報を開示しようという姿勢がみえる。
「通常、このような場合、ゲーム主催者の目的から考えたほうがいいのでしょうが…」
「なるほど」
至極真っ当な気がした。
「過去の恨みへの復習、後継者探し、ただの愉快犯、このあたりが多いです」
「実は国家とか世界レベルのプロジェクトという可能性もありますね」
「まさか、そんなはずはないでしょう」
二人で情報を出し合う。
しかし、ここまでのゲームの流れから腑に落ちる答えはでない。
「あるいは、ただの情報収集とか」
――**勝者**は、この世の英知を全て手に入れることができる
――**敗者**は死亡し、この世の英知の源となる
ルール一覧にあった文言を考えると、主催者は”情報”というところに重きをおいている気がする。
「なるほど…さすが高橋さんだ」
その言葉に海斗ははどきり、と心臓の鼓動を自覚する。
鈴木と話をしていると、するすると言葉がでてくる。
それが逆に違和感。
彼は何者なのだろう。
「あなたと行動するのが勝利への近道だと思っていましたよ」
「いや…でも…」
何もしていない。むしろ多くの脱落者をだしたのは自分だ。
喉の奥から何かがせり上がってくる感覚は多分後悔。
「あのとき…僕が言った単語が…脱落させたんですよ」
自分が伊藤にああ言わなければ、もっと違う未来があったはずなのに。
皆で三日目を迎えることができたかもしれない。
「どうでしょうね」
何も言わなくても鈴木には伝わったらしい。
海斗と伊藤のやりとりを見ていたのだと思う。
「現実は変わらなかったと思いますよ」
「どうして…」
極限状態のはずなのに。
「どうして、私のことを信用してくれるんです?」
「あなたのことは、一度見たことがあるんですよ」
「え、どこで…?」
「当時、大学院生だった頃に、私の教授が開いたセミナーに参加されていたんですよ」
「セミナー…」
「心理学の無料セミナーですよ、ほら」
『新社会人のための心理学セミナー~複雑な人間関係を生き抜く~』
そういえば、参加したこともあったかもしれない。
社会人として始まったばかりで、人間関係に不安があったから参加したのだった。
主催は、リクルート紹介会社と有名大学の共催だった。
鈴木をみた覚えはないが、いたのだろう。
「あのセミナーに参加してくれたときにね、気になっていたんですよ」
「いや、でも、結局こんななりですが…」
「でも、あなたのような方がいるから、この世の中はまだ捨てたもんじゃないと思えるんですよ」
微笑みを浮かべたまま言ってくれるが、海斗はため息をつく。
頑張っている自分はいつまでも苦しんだまま。
まるで生きる屍じゃないか。
「あなたがあなたでいることで、無意識に救っている人がいるんですよ」
「そう、ですかね」
「そう。あなたと一緒に苦しいと思っている人たちがね」
「あなたのようなインフルエンサーこそが、救うべきではないですか?」
「私は甘い蜜は与えますが、底力にはなれませんから。底力になるのはあなたのような存在ですよ」
「……よくわかりません」
「まぁ、続きはこのゲームが終わったらにしましょう」
にこり、と笑う鈴木の笑顔は、本心のものなのかどうか、海斗には判断できなかった。




