12 苦し紛れの虚勢
「おや」
息が整ったところで起き上がった海斗は、暗闇からかけられた声にびくり、と肩を跳ね上げた。
自分以外にも人いるとは思っていなかった。
声の元を探して暗闇に目をこらすと、うっすらと人影が見えてくる。
「奇遇ですね、こんなところで会うとは」
「…え、あ、鈴木さん」
覚えのある声と姿。
すらりとした長身がぼんやりと明かりに照らされていた。
手に持ったハイヒールから水がしたたり落ちている。
「こ、こんにちは」
動揺したまま、的外れな挨拶をしてしまった。
「はい、こんにちは」
そんな海斗に気分を害する様子もなく、鈴木は脱落したあととは思えない笑顔で挨拶を返してくる。
手に持ったハイヒールを履くと、あのオーラを取り戻したように見えた。
「あなたがいるなら心強い」
「そ、そうですか…?」
それはこちらの台詞です。
鈴木のオーラに圧倒されたからか、地面から立ち上がれない海斗はまだ冷静を取り戻せていない。
カツカツと、ヒールの音が空間に反響している。
「立てますか?」
そのピンヒールで踏みつけられるのかと思えば、手を差し伸べられる。
おずおずとその手を掴むと、思ったよりも強い力で体を引き上げられた。
「ありがとうございます」
「いえいえ」
「ところで、他の人は…」
などと、心にもないことを言って周りを見渡してみる。
「まぁ…今のところ我々だけのようですね」
「みんなあの水に落ちていったのでしょうか」
「そうでしょう。ゲームに敗北したと思い込ませる、それが目的でしょうから」
「やっぱり気づいてたんですね」
「あなたも気づいてたでしょう?さすがです」
この人はなぜこんなに他人を思いやるような言葉が言えるのだろうか。
自分は鈴木が現れたことでがっかりしたというのに。
「さて。次に進みますか」
鈴木が指し示す方向に、道が続いていた。
天井はドーム型になっていて、巨大な土管の中にでもいるようだ。
「おそらく地下水道でしょうね」
となりを歩く鈴木がそう言う。
海斗は静かにうなずいた。
「さっきの場所は貯水槽ですよね、多分」
「ええ」
二人分の足音が響いている。
背後で水がはねる音が遠ざかっていく。
人の話し声は聞こえない。
かといって、前方に広がるのは暗闇で、誰かいるとも思えなかった。




