ガマズミ
今まで喋っているところを見たことがないけど、どうして突然?
簡単な話です。私、喉が潰れているんです。見えます?
確かにそうですけど、そういうことではなくて。どうしていきなり、私と会話を?
元々はここの捕虜だったんです、私は。
諜報員として活動していたんですが、大切だと思っていた人に売られて、捕まってしまいまして。まあそれも一緒に捕まっていましたが。
それで色々あって、今はこうしてこちら側に立つことになってしまいました。でもおかげであの愛は偽物だったことを知れましたし、本当の愛を、聖なる愛を教え、分け与てくださる女神様に出会うこともできましたので、結果的に全て良かったですね。
そうだったんですね。
すいません。少し自分語りが過ぎましたね。
あの、貴方はどうやって捕虜の状態から生き残ったんですか?
ふふ。可笑しな話ですね。貴方は喋ることができるというのに、筆記で会話なんて。
ごめんなさい。どうしてか、自分自身の声がものすごく怖くて。
いえ。それで捕虜の時のことなんですけど、正直あまりよく覚えてはいないんですよね。ああでも、あれをこの手で殺したことは、しっかりと覚えていますよ。それ以外ですと、あれに何度も罵倒されたくらいですかね。
ふふ。あんなにも腐った生き物にあったのは初めてでしたよ。あんなのとかつては愛し合っていたとは。私は一体何者だったのでしょうね。
ありがとうございました。
貴方も、マミさん?でしたっけ。彼女を殺せば生き残れるかもしれませんよ?
殺しませんよ。私は貴方たちより、マミのことを信頼していますから。
では貴方自身をマミさんに殺させる気ですか?
そんなこと、私は、
今の驚き、少しはそう思っていたのでしょう?
私は少し、貴方が可哀想ですよ。
どうして。
マミさんは元気にしてるからですよ。"今の貴方"と違って、ね。
もう今日は終わりですね。では。
待って。今のどういう、
行ってしまった。このことについては、また明日、聞こう。
大丈夫。マミは裏切り者じゃない。あいつらもそう言った。マミは裏切り者じゃない。とりあえず明日。明日もう一度ケイに聞き直そう。大丈夫。大丈夫。絶対に大丈夫だから。
なあ。今日、ケイは来ないのか?
喉が潰れていて、しゃべれないやつ。
どうして?
別の仕事?じゃあ明日は?
明日も?
その次は。いつ来れる。
長期?ってことはつまり、しばらく来ないのか?
どうしよう。ケイが来ない。聞けない。昨日のこと。どうしよう。
ねえ、マミは。マミはどうしてる。
今どこにいるんだ?
なんで突然黙るんだ。
こいつだって何度か顔を見たことがある。マスクをつけていても分かる。繋がってはいるはず。けど下っ端?だから知らない?どうして。なんで。マミ。どこ。何してるの。
仕事?そんなこと今までなかったのに、いったい何を?
まだ少し、手が震えている。なのに酷く冷静だ。
仕事の内容は掃除だった。ずっと放置されていた目の前の牢の掃除。大量の肉と蛆。なぞの液体。慣れない腐敗臭。辛い。でもやらないと。どれだけ疲れていても、眠たくても、苦しくても。トキとレンをこのままにはしておけない。ちゃんと綺麗にしてあげないと。どうせ今日も眠れない。休憩が終わったら続きを始めよう。
掃除は終わった。何日くらいかかったのか。腐敗臭はまだするけど、向かい側の牢はある程度綺麗になったから、しばらくすれば消えるかな。
マミはまだ帰ってこない。遅いな。
まだ帰ってこない。
まだ帰ってこない。
まだ帰ってこない
まだ帰ってこない
まだ帰ってこない
まだ帰ってこない
一人だと寂しいよ…マミ
牢屋には私一人。監視者もここ最近来ていない。マミ…。
動く気力がない。逃げる気も起きない。お腹は空かない。けど喉は乾いている。なんか眠れそう。そんな気がしたから眠ることにする。久々の睡眠。起きればきっと、マミが帰ってきてくれているはず。
ただ寝ただけだけど、少し回復したような。牢の中には水と食料が置いてあった。食べた。飲んだ。マミが帰ってくるまでは死なないと、そう思ったから。
腐敗臭はだいぶしなくなった。だけどハエが多い。少しうるさいかな。なんでこんないるんだろ。レンとトキは綺麗にしてあげたのに。ああ私か。ここは不衛生だから。よし。水はたくさんあるし、体を洗い流そう。少し綺麗にしよう。
これで綺麗になった。と思ったけど足がまた汚れている。地面が汚いからか。ついでだ。この牢も掃除しよう。まずは隅にある、ハエが集っている、蛆が湧いている、あの肉塊を綺麗にしよう。




