第7話 デート二回目 (待ち合わせ)
先週の水曜日は、ほとんど眠れず朝になった。
今週の水曜日は、前日の夜、ほとんど眠れずに迎えた。
「……健太郎! もう! いつまで寝てんの!」
園田は紙パックで軽くだったが、教科書で頭を遠慮なく殴り、リンは俺を起こした。
机から顔を上げ、両目がつっているリンと、放課後の雰囲気に慌てて席を立つ。
「健太郎! 今日、保健委員だよ! 昨日言ったでしょ!」
腕を強く組まれ、教室から連れていかれる。
「リン、頼む、今日は……」
「健太郎が! 部活休む前は私ひとりで出てたんだけど!」
俺の腕に力を入れ、ぎろりとにらんでくる。
「分かった、どこでやるか教えてくれ」
トイレに行くと嘘を吐き、トイレに入る。
ガラケーを取り出し、おじさんに電話をかけてから。
お姉さんに、初めてのメッセージを送る。
【すいません。保健委員があるの忘れてました。喫茶店で待っていてください。】
これで大丈夫かと思い、送信すると、すぐに返事が返ってきた。
【了解しました。】
敬語、と思い、もしかして間違えたかと思ったとき、ガラケーが震えた。
【ごめんね、仕事のときのくせでへんな風に返して。了解です、本を読んでるから気にせずにね。】
高く透明な声が聞こえてきそうなメッセージに、ほっと息を吐き、一応手を洗ってから委員会が行われる部屋へ向かった。
とても長く感じる会が終わり、席を立つと、ぐいっとシャツの裾を引かれた。
「何? 何でそんな急いでんの?」
「リン、今まで悪かった」
「何それ?」
「委員会、今まで出なかったのごめん、ありがとう」
元から大きな目を開き、俺から手を離して、リンが背中を向けてから言った。
「べ、別に! 私も同じ委員会だし! 健太郎が主将で忙しいの知ってたから!」
「ありがとう」ともう一度言い、素早く教室から出て、学校を出た。
二回目の水曜日、十月に入ったけれど、暑い。
自転車を飛ばしたせいだと気づき、喫茶店に着いて、制汗剤を持ってないことを悔やんだ。
ハンカチで額の汗をぬぐっただけの俺は、扉を開く。
「あ、早かったね、ゆっくりで良かったのに」
ボックス席に座るお姉さんが、笑みを浮かべ言ってくれ。
彼女との待ち合わせ、他にお客さんがいたら教えて欲しいことを頼んでいたおじさんが、カウンターの中からすっと奥の部屋に消えてくれた。
自分で入れたお冷やを持ち、お姉さんの向いに座るとふふっと笑われる。
「委員会とか懐かしいなって、健太郎君って、本当に高校生なんだなあって」
俺はグラスを空けてから、熱くなっている顔を下に向けて言った。
「小学校六年のとき170cmになって、ランドセルが背負えなくなりました」
「えーすごーい。いいなあ、私、何㎝だったかなあ」
からんと音を立て、彼女はアイスコーヒーを飲む。
まだ喉は渇いていて、席を立っておかわりをつごうか迷っていると、聞こえた。
「あっ、高校生なの疑ってる訳じゃないよ、この辺りで有名な高校球児って知ってるから」
顔を上げると、お姉さんは両目を細めて続ける。
「ここで待ってるあいだ健太郎君のおじさんが教えてくれたの、今は肩の故障で休部中だけど、すごくい
い投手で自慢の甥っ子だって」
おじさん余計なことをと思ったけれど、最後の言葉にぐっと口を閉じた。
「付き合わせちゃってるけど、肩は大丈夫なのかな」
「大丈夫」ですと、本当に心配している顔に言い。
本当のことを言えない俺は、口のなか、広がりだした苦みを感じた。
「あと、どれぐらいで治りそうなの?」
「当分は、野球、は出来ませんけど大丈夫ですから」
「そっか、無理は絶対にしないでね」
「はい」と返すと、テーブルからぶるぶると震える音がした。
「ごめんね」とお姉さんがスマホを手にし、席を立って外に出た。
ふうっと息を吐くと、オレンジジュースが入ったグラスを目の前に置かれた。
「おじさん、恥ずかしいから」
ごめんと両目を細め、少し、嬉しそうに見えるおじさんが言った。
「一条さん、先週から、水曜日に付き合ってもらってるって教えてくれた。大事な甥っ子さんに協力させ
てしまって、すみませんて頭下げられたよ」
おじさんに言ったのかと思ったら、くすりと笑われた。
「大丈夫、この町で事情を話すのは僕にだけって言ってたから、バイト先でも言わないって」
質問する前に、店のなかに戻ってきたお姉さんが真面目な顔で言った。
「健太郎君、ごめん、今から少し付き合ってもらっていいかな」
「どこにですか」と返すと、この町で一番大きな総合病院と彼女は答え、
「お願い、すぐに連れて行ってくれるかな」
俺は、オレンジジュースに口を付けず、お姉さんと店を出た。




