第6話 デート一回目(翌日)
ばこんと頭から音がして、俺は目を覚ました。
「きったねーな、ヨダレ垂れてんぞ」
そう言って、前の席に座る、園田がポケットティッシュを伸ばす。
俺は、窓際一番後ろの自分の席に着いている。
辺りのさわさわした様子に、教壇上の掛け時計を見て今が昼休みだと分かった。
「なーに、昨日のデート、朝までだったのかよ」
「は? 健太郎? デートってなに?」
大きな弁当袋を手にしたリンが、両目をつり上げ近づいてきて、俺は席を立ち園田と教室をあとにする。
「なんで、昨日のこと知ってる」
屋上に着くとぽつぽつと生徒が居たので、給水塔の裏に向い、影のなか並んで座ってから聞いた。
「おめーよ、高校生なら、別のデートスポット連れていけよ」
俺と同じ、初恋はおろか、交際もしたことのない園田が笑顔で言い。
ポケットから紙パックのジュースをくれ、自分もストローを差して、いつものいちご牛乳をずずっと吸ってから続ける。
「俺の弟が先客の健太郎たちを見つけたんだ、安心しろ、誰かに言ったら母親に言いつけるっておどしといた」
この小さな町で、母親はじめ近所のおばさんに交際がバレたら、一日もかからず皆が知ることになる。
公にしたくない子供の気持ちなど、大人は分かってくれない。
そういうのが知れるのは、とても恥ずかしいものなのだ。
「健太郎君、君、とても綺麗なお姉さんと居たらしいね」
「説明してもらおうか」と、笑顔だが、ムカついてるのが分かる顔を園田が近づけてくる。
「園田、部活はどうだ」
「話そらすの下手か、『あいつら』が超調子こいて大変だよ」
「何か、俺のこと言ってるか」
「何か、あったんだろうけど、『あいつら』は絶対にお前のこと話さない」
俺は、ぐっと口を閉じ、園田は大きく息を吐いてから続ける。
「俺ら二年や一年連中には態度変わらないけど、お前の話、主将の話題になったら変な顔するようになった」
「変な」ともらすと、園田は空を仰いで言った。
「お前が休部するまではな、お前がいないところでお前のこと色々言ってたけど、それもぴったり止まった」
「そうか」と返し、立ち上がる。
「もう、戻ってこないんだろ」
園田は、いつもと変わらない笑顔で言い、俺は背中を向けて返す。
「リハビリ、次第だ」
「下手くそか、まあ、俺は戻ってきてくれれば嬉しいよ」
「園田」と振り向く前に、「それより」と隣に立たれた。
リンより低く、お姉さんよりは身長が高い園田が、真面目顔で言う。
「昨日、綺麗なお姉さんと何があったか聞かせろよ」
片腕を、俺よりは小さいが、お姉さんより大きくごつごつした両手に握られる。
……俺は、何で、いちいち彼女と比べているんだ。
「どこに住んでるひとで、どこで出会ったんだ、てゆうか弟がこの辺りでは見たことがないって言ってたぞ」
「あのひとのことは、何も言えない」
「何でだよ、ケチ」
「ケチじゃなくて、色々あるんだ」
「何だよ、訳ありなのか」
園田は、「あ」と、片手の紙カップをぐしゃりと潰し、
「この町に逃げてきた、人妻とかか!」
いかにも興奮した様子で言った。
「逃げてきても、人妻でもない、けど……」
言葉を止めると、園田が首を傾げる。
「これ以上しつこいと、人妻ものが好きだって、お前の母さんに言うぞ」
「ひっ」と両手が離れ、一歩踏み出すと、
「女房の俺がいるのに浮気しやがって、悪いと思うなら、これからも友達でいろよ」
優しい言葉に足が止まり、振り返って、全て話してしまいたくなる。
「高校生のデートスポットは灯台公園だ、今度会ったとき、お姉さんの写真を撮ってきて見せてくれよ」
「断る」と返し、うしろを向かず出入り口へ進み、屋上をあとに階段を降りながら「ありがとう」とぼそり言った。




