第22話 デート五回目(看病前の買いだし)
体育会系の部の常識で先輩後輩の関係は絶対だ。
母親に頼まれたら面倒だと思う買い出し、先輩に言われれば、喜んで行かなければいけないし頼まれたものを必ず買ってこなければいけない。
中学や高校の回りには、この町には、ふたつしか買い物が出来るところがない。
朝七時から夜十時までしか開いてない自称コンビ二。
朝十時から夜八時までしか開いていない、自称コンビニの二倍ほどのスーパー。
どちらに何が置いてあるか、覚えるのは中一の間に済ませた。
でも、病人に差し入れをするには、どちらで何を買えばいいか分からない。
母親のパソコンで調べるのも、園田に聞くのも気が引けて。
土曜の朝、無駄に早起きしてしまった俺は、とりあえず自称コンビニへ向かった。
それが、間違えだったとすぐ思った。
「あれ! 健太郎! 土曜日に、早くない?」
ジャージ姿のリンが居たからだ。
「朝練、じゃないよね? 食パン、もう切れてるよ!」
「分かった」と言い、背中を向ける。
「ちょっと! 何で! 逃げるの!」
着ているジャージの上着のすそを持たれ、逃亡失敗した。
「リンちゃん、男はねえ、追われると逃げるわよお」
「なっ! おばちゃん! そんなんじゃないし!」
レジからの声に、リンが俺から手を離す。
チャンスと思ったが、
「食パンは切れたけど、サンドウィッチ、出来たてだから食べていきなさい」
にこにこと笑みを浮かべる、小さな頃から知っているおばちゃんに言われた。
俺とリンはお金を払い、店の外すぐにあるベンチに並んで座る。
「うん! 相変わらず、おいしい!」
甘い卵焼きときゅうりを挟み、少し辛いマヨネーズがパンに塗られたサンドウィッチ。
自称コンビニの名物で、ずっと食べ続けてる。
「健太郎! 早く食べないと、冷めちゃうよ! 出来たてがおいしいんだから!」
もう、ふたきれにかぶりつくリンが言い、その通りだと思い。
俺は、ラップを直したサンドウィッチをビニル袋に入れ、立ち上がる。
「どうしたの! お腹痛くなった?」
「ありがとう」と俺は返し、首を傾げたリンを置いて自転車にまたがる。
「ちょっと! 止まって!」
言われたとおりにすると、リンが目の前に立つ。
「……どうした、急いでるんだ」
「馬鹿」と、顔を下に向けて、とても小さな声で言う。
「……今日、……大事な試合なんだけど、……はげましてよ」
そういえば、そんな時期だなと思い出し、俺は片手をリンの頭に乗せる。
「大丈夫だ、リンは、大丈夫」
手を肩に乗せ、ぽんと叩いてから離した。
「……応援、しにきてくれないの」
「リンは大丈夫だ、じゃあ、俺行くな」
「……行かないでよ」
「リン」と名前を呼ぶと、顔がゆっくり上がった。
「健太郎、私の応援より、大事なことがあるんだ」
リンの応援なんて、ほとんどしたことがない。
そう、突っ込めず、泣きそうな顔をしたリンの頭にまた片手を乗せる。
「俺なんか頼らなくても、リンは、絶対大丈夫だ」
「本当」と返され、「本当だ」と返すと、リンは少し表情を緩めて言った。
「じゃあ、インハイ出られることになったら、デートして」
「いいぞ」と返すと、リンの顔が真っ赤になった。
「大丈夫か、緊張しすぎて体調が急に悪くなったか、病院まで送るから乗れ」
「……っ、だっ、大丈夫だからっ!」
ぐるりとリンは俺に背中を向け、ベンチの荷物を持つ。
「行ってくる! 約束! 忘れないでよね!」
そう言ったあと、走り出したリンの姿はすぐに消えてしまった。
「ふたり、青春してるねえ」
いつの間にか、そばに立っていたおばちゃん。
にこにことした顔で真っ赤なりんごを俺に渡してくれた。
俺は、リンの体調は大丈夫かと思い、おばちゃんに「ありがとうございます」と言ってすぐに自転車をこぎだした。




