第21話 デート五回目(デート前日)
「まじかよ! てか! 俺、馬鹿みてえじゃねえか!」
もう定番になった、園田と空き教室でふたりの昼飯中。
明日、隣町の練習試合を見に行こうと誘われ、用事があると断ると。
しつこく聞かれ、本当のことを言ってしまった。
「なんだよ! 上手くいってんなら! 俺、馬鹿みてえじゃねえか!」
「何で、園田が馬鹿みたいなんだ」
俺の焼きそばパンを奪い、全部食べてから答える。
「上手くいってんなら! もう! 恋人探さなくていいじゃねえか!」
「園田、声大きい」
「大きくもなるわ! 俺! 毎日、怖い思いさせられてんだぞ!」
「怖い」と首を傾げると、紙パックの牛乳を取られる。
「町中の墓地! 町中の空き家! 町中の神社と寺!」
先週から、園田と、水曜日以外は放課後を過ごし巡っている。
「不吉」と言われそうな場所。
「園田、お前でも知らない場所があるんだな」
ずずっと牛乳を飲み、俺に投げてから園田が言う。
「お前な、こんだけ、協力してる俺に対して……」
「ごめん、嫌みじゃないから、協力してくれてありがとう助かってる」
言葉をさえぎると、目の前の眉間のシワがなくなる。
「まあ、分かってんなら、てかさ、お前らがいった灯台って『出る』ってこの辺りで一番有名だったんだよ」
「知ってたんだな」と返すと、園田は口をとがらして言う。
「『不吉』な場所ってだけで、『出る』場所とは言ってなかっただろうが」
「そのふたつは、一緒の意味じゃないのか」
「だって、生きてるんだろ」
俺は返せず、園田は大きく息を吐いてから言う。
「この辺りってさ、おばさん連中や年寄りが目を光らせてるから、知らない人間が来たらすぐに話題になるんだよ」
「そうなのか」と返すと、また、大きく息を吐く。
「だから、二ヶ月前に、見知らぬ男がふらふらしてたら噂になるし、『うさぎ書房』で美人が働いてたら超噂になってんだよ」
俺は、立ち上がり、ポケットからガラケーを取り出す前に聞こえた。
「『うさぎ書房』のおじいさんの姪なんだろ、丁度、働いてた会社がなくなったから、身体を壊したおじいさんを手伝いに来たって」
「おじいさんて、この間、会ったときに思ったか」
首を傾げ、園田が自分のゴミを伸ばして言う。
「いつの話だよ? 俺、通販してるから本屋なんて何年も行ってねえぞ?」
「お前、人妻の本買いに行ってるんだろ」
園田の顔が白くなって、ズボンの中が震えたので教室を出た。
『もし、もーし、あたし、誰か分かる?』
「今、あなたの話をしてましたよ」
『えー、誰と? あ、お墓で会った小柄な垂れ目の男の子?』
「どうして」ともらすと、知らない電話番号だが、すぐ分かった宇佐美さんがうふふっと笑ったあとで言った。
『桃子ちゃん、この辺りで有名になってるから、昨日遅くに見に来てたわよ』
「あいつ」と、昨日、見たいテレビがあるからと七時には別れた園田につぶやく。
『お友達に、桃子ちゃんのこと、何て説明してんの?』
「……すいません、恋人を探しにこの町に来たこと、俺が協力してることを、園田にだけは話してます」
『あたしに謝らなくてもいいわよ、お友達に協力してもらってんでしょ、それに、高校生男子がひとりで背負うには重すぎるでしょ』
『そうだ』と、俺が返す前に宇佐美さんは続ける。
『あたしのことも、園田君にも、誰にも言ってないみたいね』
「……園田は、宇佐美さんが、お父さんのままだと思ってます」
『うちのお父さん、すごーく大人しかったから、いなくなってことみんなすぐ忘れちゃったからねえ』
「すみません」と言うと、うふふっと宇佐美さんが笑った。
『それでいいのよ、『うさぎ書店』にはまだお父さんが居て、私は自分の店でのびのび居られるんだから』
「……誰も、気づいてないんですか」
『さすがに、おばさまたちや年寄りは気づいてるわよ、まあ、あたしの素行がいいからとやかく言われることはないし、お父さんが死にかけのときにうるさいのには話しを通してたみたいだからね』
「うるさいの」とつぶやくと、宇佐美さんは声色を変えて言った。
『山のふもとに小さい神社あるでしょ、あそこら辺全部の土地持ってるひとが居るのよ。もう九十近いんだけど、この町に何かあったときはみんな相談に行くの。神通力があるらしいけれど、あたしには普通の人間に見えたし、そのひとより回りがうるさい感じなのよね』
初めての話に、俺は聞いた。
「……一条さんは、大丈夫なんでしょうか」
『私の遠い親戚って説明しに行ったら、この土地の人間は疑り深くて、訳ありの女性を囲っていると思われるから姪にしなさいって』
「園田が、そう言ってました」
『そのひとの影響力はこの辺りでなかなかのもんだからね、あと、健太郎君のお父さんには勝手にだけど許可取ってるからね』
まさかのことに、ひゅっと背中がが冷たくなる。
『桃子ちゃん、この町に慣れるまで手助けしてもらってもいいですかって、お父さん、いいですよって、うちの息子で大丈夫ですかって心配してたくらい』
「……母さん、俺の母さんは知ってるんですか」
『お父さんが話しておくって、健太郎君に、この町以外の話をしてやって下さいって桃子ちゃんに頼んでたわよ』
「……それは、夜のお店で」
『そうよ、病院に桃子ちゃん連れて来てくれた日、夜、あたしの店へお父さん心配して来てくれたのよ』
「そんなに、宇佐美さんと仲が良かったんですね」
「馬鹿」と言い、少ししてから宇佐美さんは続ける。
『健太郎君が、見知らぬ大人と病院に居たって誰かから聞いたのよ、で、受付であたしの名前を桃子ちゃんが出してたのも聞いて、ね』
「……そんな、……俺、そんなに子供じゃ……」
『健太郎君はまだ未成年の子供よ、それに、お父さんから見れば三歳ぐらいから変わってないと思うわよ』
俺の言葉をさえぎり、宇佐美さんは続ける。
『君からすればただの綺麗なお姉さんだけど、素性の知れない見知らぬやつと思うのがこの辺りの人間の普通よ』
本人も言っていたことに、口を開けない。
『まあ、そんな感じで、君と桃子ちゃんは変な風に回りの人間に思われてないから安心なさい』
「はい」と言えない俺に、また、明るい声色で宇佐美さんが言った。
『それでね、明日のデートは中止だけど、お見舞いに行ってあげて欲しいの』




