第20話 デート四回目(デートに誘う)
「さっき話した、『リトルブレイブファンタジー』を作ったのが、私が探してるひと」
灯台を出て、きちんと施錠をして車に乗り、出発してからお姉さんが話を始めた。
「『リトルブレイブファンタジー』、『リブファン』でいいかな、はさ、さっきの部屋から始るんだよ、主人公は灯台でひとり暮らしをしてる設定なの」
俺は、もう日が落ちかけている外を見つめ、彼女のいつもより小さな声を聞く。
「私、彼と同じ会社で働いてたけど総務だったから、君と同じでゲームをしたことなかったんだ。……いなくなってから、始めてやったよ」
ふふっと笑う声が、彼女の話が、初めて聞きたくないと思う。
「『リブファン』は剣とか魔法が出てくる西洋のファンタジー世界のお話で、ここに来て気づいたんだけど、ここの場所が出てきてたよ。待ち合わせした神社は神官が住む場所で、辺りの地形は、まんま主人公が育った村だった。ああ、そうだ、『うさぎ書房』がね『ラビット工房』っていう武器とかをそろえるお店になってたよ。だからね、この町に灯台がないか宇佐美さんに聞いたら、あるって教えてもらって、……私、はじまりの場所だからって、安易に、……あのひとが居るんじゃないかって思って……」
「どちらだと、思ったんですか」
彼女の言葉をさえぎり、自分でも分かるぐらい冷たい声で聞いた。
「あなたの探すひとが、生きてると思ってましたか」
答えは返ってこなくて、俺は、怒りのまま言葉を吐く。
「泣いてもほおっておいてほしいって、あそこで、死んでいると思っていたんですよね」
やはり、答えはなく、車は駐車場に着いた。
「今日、これから付き合って欲しいところがあるんですけど」
薄暗くて、隣の横顔に浮かんでいるものを、見えないふりをして車を降りた。
しばらく待つと、彼女が外に出てくる。
「……あと、一時間もないけど」
俺の前に立ち、顔を下に向けている姿は、いつもより更に小さく見える。
「大丈夫です、自転車とってくるんで待っていて下さい」
言われたとおり待っていた彼女を乗せ、俺は、立ちこぎで急いだ。
街灯がぽつぽつとあるまっすぐな道、神社を過ぎて、山道を進んで着いた。
展望台で俺は「着きました」と声をかけた。
ゆっくり地面に両足を下ろして、彼女は顔を上げない。
手を取りたかったけれど、拒否をされるのが怖くて無理だ。
「顔を、上げて、見て下さい」
変な声を上げると、ゆっくり言う通りにしてくれる。
隣で、ひとつだけの街灯に照らされる顔が、少しづつ緩んでいくのを見つめる。
薄暗いなか、瞳を輝かせている彼女が言う。
「綺麗、だと思うから、連れてきてくれたんだよね」
どうして、そこまで伝わったのだろうと思いながら「はい」と返す。
初めて、彼女と待ち合わせをして、ここに連れてきたときは夕焼けに照らされていた町が見えた。
今は、とっぷりと日が暮れ、小さな町の灯と黒い空にたくさんの星たちが見える。
「この間、この近くの墓地に行ったときに、気づいたんです」
夕焼けより、夜景のほうが綺麗だと思った。
だから、彼女が言うとおり、この景色を見せたくて連れてきた。
「お墓参りに行って来たの?」
「いえ、そのとき、宇佐美さんに会いました」
「言ってなかったな」と小さく言った隣に立つ。
「【水曜日、午後六時、永遠に八時を指す壊れた時計台の下。】って、不吉な言葉な感じがするから、墓地に時計台があるんじゃないかって」
こちらに向いた、少し驚いている顔を、少し見つめたあとで言った。
「すいません、俺も、探しているひとはもう」
「うん、ごめんね」と言ったあと、久しぶりに思う笑みを見せてくれる。
「気をつかわせてごめん、先に言っておけば良かったね。あのひとは私に何も言わずに消えてしまった、もしかしたら、もう……」
小さな手を握ると、やっぱり、言葉が止まった。
「すいません、変なこと言わせてしまって」
「変じゃないよ」と、拒否の言葉を言わず、俺の手を振り払わずに彼女は続ける。
「この町に住むのを決めるとき、可能性も考えなかったわけないよ」
「じゃあ」ともらすと、俺を見上げる瞳が線になる。
「会いたかったの、どんな、あのひとでも」
ちりっと胸の奥が痛んで、彼女から手が勝手に離れた。
「健太郎君と出会えたのも、あのひとのお陰かと思ってた」
ふふっと小さく笑い、口のなかがどんどん苦い俺に言う。
「この場所『リブファン』に出てくるの、夕焼けも、今、見てる夜景も」
彼女は前を向き、言葉を続ける。
「ふよふよ、幽霊になったあのひとが、健太郎君に頼んで連れて来てくれてるのかなって」
また、ふふっと笑う声に、いらついてしまう自分はおかしい。
彼女が、この町に来たのはいなくなった恋人を探す為。
彼女が、どんなでもいいから会いたい恋人を探す為。
……俺は、何を勘違いしてるんだ、元から恋人がいるひとに。
「健太郎君?」と名前を呼ばれ、俺は、俺をちゃんと見つめる瞳に気づく。
「灯台は手がかりなかったし、墓地もだよね?」
宇佐美さんが人間だと説明しても、びびっている園田と墓地を何周かしたけれど、時計台は見つからず手がかりは見つけられなかった。
「一応、ゲームをクリアしてみたんだけど、この町でめぼしいところは行ってみたんだよね」
もしかして、俺とだけでなくひとりでも。
そう思い、それを聞く前に、聞きそびれていることに気づく。
「……あの、聞いてもいいですか」
「ん?」と首を傾げられ、開いている胸元から目をそらして言った。
「……探してるひとの、名前、まだ聞いてませんでした」
「ああ、そうだよね、でも、この土地のひとじゃないから」
俺は、あれと思い、彼女が答えを教えてくれた。
「ここは、旅行で一度だけ訪れた場所なんだって、故郷っていうのは『リブファン』の主人公のってことなの」
納得した俺に、真面目な顔をした彼女が続ける。
「お姉さんって呼ばないとダメって、この間も言ったよ」
いきなり変わった話題に、俺は、少ししてから「すみません」と返した。
「素直ないい子は、お姉さん、好きだぞ」
そう言って、にっこりと笑った顔は意地悪く見えて。
俺の知らないひとを想ってのものでも、気を使ってのものでもなくて。
「じゃあ、今週の土曜日に、デートしてくれませんか」
つるりと、自分でもめちゃくちゃ驚く言葉が口から出て、「いいよ」と言ってもらえた。




