『女子の味方!』を標榜する先輩
まったく同じことを、リヒト様も叫んでいたわ。
場所が賑わってるサロンだから目立たなかったけど、それでも何人かはこちらを注目してたわね。
すぐ我に返り、周囲に頭を下げていたリヒト様を思い出す。
「まあ、先輩は私がリヒト様を婚約者候補に考えていることをご存知ないので。忠告だけなら?あるかも?」
一応フォローを言ってみた。
これはリヒト様にも伝えた言葉。
「ある訳ないでしょう?!セシリスやムーサルク家が誰と縁を結ぼうが、彼女には全く関係ないじゃないの!例えワルロー令息が腹黒でも腹に一物抱えてても、それこそムーサルクの財産目当てでも!貴族なら当然でしょう?!徹頭徹尾、余計なお世話!」
お姉様が爆発した。
うん、私も立場上フォローめいたことを言ってみただけで、内心は同じ意見よ。
「クラリス、血管切れるわよ。あと財産目当て以外は『例え』じゃないと思うわ」
エステル様がお姉様を落ち着かせようとしてくださるが、リヒト様への評価はやはり腹黒のままだ。
まあ、本人が言ってることなんだから当たりだろう。
「お姉様はこのサロンで盛大にキレ散らかすことができますけど。私は学園で、しかも相手が年上の伯爵令嬢なんですよ?『まあご親切にありがとうございます』と逃げるしかなかったです」
少し落ち着いたお姉様とエステル様にそう言うと、気の毒そうなお顔をされた。
「……そのこと、ワルロー令息には?」
「伝えました。お姉様と全く同じ反応をして、同じ意見を述べてました」
「「そうよね〜」」
まあ、意見の後で「でも僕は、財産目当てじゃないですよ。どちらかと言えば、セシリス先輩目当てです」って言ってくれたのだけど!えへ。
「……なんか、浮ついた気配がしたわね?」
わあ、エステル様!心の中で思い浮かべただけなのに、気配で察知されるなんて!
さすがは、自称『女の敵』ですわ!
「……今度は失礼なことを思われてる気がするわ。主にセシリス様の方角から」
「まあ!失礼なことなんて考えてませんわ。さすがはエステル様、と感心しておりました」
「……うん、分かった。その感心の仕方が、常人からしたら失礼なことなのね……」
「うちの妹がごめんねエステル」
お姉様が謝罪されたわ。なんでかしら。
「とにかく。リヒト様はバジュスーレ先輩を、他の方と同じく警戒対象と見做しましたの。なので、リヒト様とご一緒させていただいてる時には、先輩は近付けません。私が一人になった所を見計らって、接触しに来るのです」
「スパイか」
◇◇◇◇◇◇◇◇
「ムーサルク嬢。こちらよろしい?」
学園内のカフェで一人お茶を飲んでいると、バジュスーレ先輩が話し掛けてきた。
「こんにちは先輩。もう少ししたらお友達が来ますが、それまででよろしければどうぞ」
そう言って席を勧めると、先輩は座りながら「……ワルロー令息?」と探ってきた。
私は笑顔を浮かべるだけに留める。
「……前にも話したけど、ワルロー令息には気を付けた方がいいわムーサルク嬢。私は貴女のために言っているのよ?」
バジュスーレ先輩はそう言うが、そもそも何に気を付けたら良いか具体的に聞いてない。
リヒト様が婿入り先を探してるから狙われる恐れがある、だったか。
しかし、狙われたとて何か不都合があるだろうか?
疑問に思ったことは、即確認するのが私の主義だ。
「先輩。先輩の仰る『気を付けた方がいい』とは、具体的に何を示しているのでしょうか?察しが悪くて申し訳ないのですが、ご教授いただけると助かりますわ」
そう告げると、先輩は少し驚いたようだったが、すぐに嬉しそうに笑った。
「そうね、きちんと教えてあげる。でないと、貴女も何に気を付けたら良いのかわからないものね?」
「はい」
「まず、ワルロー令息は子爵家の三男よ。家は嫡男が継ぐことになっているので、彼はこのままだと爵位なしの平民になるわ」
「ええ、そうですね」
「すぐ上のお兄様は昨年卒業されたけど、優秀で王宮役人になったの。それくらい能力のある人なら自分で爵位を取るかもしれないけど、ワルロー令息にはまだその力がないでしょう?」
「今はそうですね」
なんと言ったって、どれだけ頭が良くてもリヒト様はまだ13歳だ。
役人になるかも爵位を取るかも全然わからない。
私が頷くと、先輩は我が意を得たりとばかりに頷いた。
「だからよ。将来が確約されてない今、彼が一番手っ取り早く貴族のままでいるには、貴女のような『婿を望む令嬢』を手玉に取ることなの。ぽやぽやしていると、いつの間にか彼を婿に取る羽目になるわよ?」
ビシ!と指を立てて断言された。
ぽやぽや……してるかしら?私。
初めて言われたわ、今度他の人にも聞いてみよう。
とにかく、先輩の言う『気を付けた方がいい』は、いつの間にかリヒト様と婚約してるかもしれない、と言う点なのね。
……何か困ることがあるかしら?
「先輩。それは、私に取って良くないことでしょうか?」
疑問その二が浮かんできたので、挙手をして質問する。
先輩は目を見開いた。
「当たり前じゃない!ムーサルク嬢、しっかりして。貴女にはもっといい人がいるわ!」
「もっといい人、ですか?」
「そうよ。婿入り希望の生徒なんてたくさんいるわ。何も年下から選ばなくたって良いでしょう?」
「んー、年下だからと言う訳ではないのですが……」
なんと言おうか迷ってると、バジュスーレ先輩はニッコリ笑った。
「安心して。私は貴女の味方よ?ちょうど貴女にピッタリの方がいるから、紹介したいの。ワルロー令息に気付かれないように会わせてあ「楽しそうな悪巧みですね?バジュスーレ先輩」」
先輩の話の途中で、リヒト様がいらっしゃった。
……笑顔がなんだか、不穏だわ。
「セシリス先輩、お待たせしました。行きましょうか」
いつも以上ににこやかに笑ってる。
本当はここで一緒にお茶をする予定だったのだけど。
うん、場所を変えた方が良さそうね。
「ええ、行きましょう。バジュスーレ先輩、お話の途中なのにごめんなさいね?失礼します」
先輩へ挨拶をして、リヒト様と共に歩き出す。
いつもより少し距離が近くて、ドキドキした。
「……ったく、ちょっと隙を見せただけですぐコレだ」
「なぁに?」
「なんでもないですよ。急に予定を変えてすみません、お茶の途中でしたよね?」
気遣う顔は、いつも通りのリヒト様だった。
そのことに安心し、首を振る。
「ほとんど飲み終わってたわ。それよりも、なんだかリヒト様に不快な思いをさせてしまったかも。ごめんなさいね」
「セシリス先輩が言った訳じゃないんですから、気にしなくていいですよ」
「でも」
リヒト様とお茶をすることも、楽しみにしてたのに。
残念に思いシュンとしてると、彼は少し考えたようだった。
「では、ひとつだけお願いを聞いてくれますか?」
◇◇◇◇◇◇◇◇
「と、言うことで。こちらがリヒト様のお願いですわ、お姉様」
リヒト様から渡された書類を差し出すと、お姉様とエステル様は顔を強張らせた。
「せ、セシリス、あなたこれ……」
「セシリス様、理解されてるの?」
二人から疑われたが、そう聞かれることも想定済み!
「はい!リヒト様に懇切丁寧に説明していただきましたし、分からない点は全て質問して解決済ですから!また何か疑問が生まれたら、ちゃんと確認しますわ」
胸を張ってそう言うと、お姉様は顔を覆って俯き、エステル様はお姉様の肩をポンポンと叩いた。
「お姉様?いかがですか?」
「……分かったわ……きちんと対応します。そう伝えて」
「はい!」
お姉様は引き受けてくださった!
嬉しくて、明日リヒト様に報告するのが待ち切れない。
「〜〜〜〜腹黒弟〜〜〜〜!私の可愛い妹に!」
「クラリス、ここではまだ駄目よ。寮に戻ったら改めて聞くから。なんならシャーロットに協力してもらって、兄のワルロー様を吊し上げましょう」
「そうするわ!招集よろしく!」
お姉様とエステル様は、大人の話し合いをするみたい。
やっぱり少し楽しそう。私も卒業したら出来るかしら?
盛り上がる二人を眺めつつ、まだ遠い『いつか』を夢見て微笑んでしまった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「ワルロー兄。ようこそいらっしゃいました」
「……その呼び方がすでに不穏だよムーサルク嬢……」
「心当たりは?」
「あります……」
「クラリス、まずはアサト様を中へお招きしないと」
「……そうね。ここで恥を晒すのも良くないわ。どうぞワルロー様。ただし、シャーロットの近くには寄らせませんよ」
「はい……」
「ワルロー様。お気の毒です」
「そこはお疲れ様じゃないのかヨーウィー嬢」
「疲れるのはこれからなので」
「そうだね……」
「ワルロー様。改めてお聞きしたいことがあります」
「はい」
「本日、妹より書類を渡されました」
「書類」
「あなたの弟君から渡されたものだそうです」
「あぁぁぁ」
「なんでそっちが絶望するんですか!絶望したいのは私の方ですよ!ねえ、セシリスより年下のくせにどうしてあそこまで腹黒なの?!」
「俺だって誰かに聞きたいよ!可愛がって育てた弟なのに、なんで兄弟一の腹黒に育ったんだ!」
「兄を見て育ったのでは」
「俺はあそこまで腹黒じゃない……」
「アサト様がこんなに萎れるのは、初めて見ました」
「ミュリエル様に報告ね」
「やめてください……」
「とにかく!正式な書類過ぎて潰すことも出来ないし、そんなことしたらセシリスに何が起こるか分からないので、きちんと処理はしますが!私の身内になるからには、ちゃんとしてもらいますからね?!」
「あぁ、その点は大丈夫。アイツ、年上の懐に潜り込むのは物凄く上手いから」
「その言い方がちゃんとしてない!」
「すみません……」
「クラリスも大変ねぇ、腹黒と親戚になるなんて」
「私とセシリス様が義姉妹になるから、クラリスも義姉妹で良いかしら?」
「シャーロット、この状況でそんなに暢気に振る舞える貴女がすごいわ〜」
「そのままでいてくれ、シャーロット」
「ワルロー様!弟の教育、もしくは躾をしっかりしてください!言っておきますけどね、セシリスだって一筋縄じゃ行かないんですから!」
「どういう忠告?」
「そうね、セシリス様を甘く見ない方が良いですよワルロー様」
「だから、どういう忠告?!」




