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自称『女の味方』は信用ならない  作者: ひつじ


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自称『女の味方』は誰の味方?

お姉様とエステル様とお茶会をしてから一週間。

私は相変わらずリヒト様とお勉強かつお茶をし、合間にバジュスーレ先輩から話し掛けられる日々を送っていた。

あの後、両親にもリヒト様のことを伝えた。

突然の婚約者候補に驚いていたけど、リヒト様が予めくださったご本人に関する調査書(王宮騎士団調べ)と、私の熱いプレゼンのおかげで「あなた達が良いなら反対しない」とのお許しを得た。

なので、もうまもなく婚約が結ばれる。

おかげで、ここのところ実に上機嫌なままだ。


「ムーサルク嬢!ここにいたのね」


リヒト様が来るまでの間に待っていたベンチで、バジュスーレ先輩に声を掛けられる。

……今更ながら気付いたけど、先輩ってどうやって『リヒト様と一緒にいない私』の居場所を探し出すのかしら?

お友達に聞けば教えてくれるかもしれないが、リヒト様といるかどうかは賭けにならない?

しかも今、先輩の評価は割と下がり気味だし。

そんな方にわざわざ居場所を教えてくれる奇特な方がいるのかしら。

そんなことを思いつつ、「ご機嫌よう、先輩。座ったままで失礼しますわ」と挨拶をする。

「今日こそは!紹介させてもらうわ!」

お隣に座った先輩の気迫がすごい。

「紹介?でしょうか?」

聞き返すと、先輩は大きく頷いた。


「何度も言うけど、ムーサルク嬢にはお似合いの方がいらっしゃるのよ!私は令嬢の味方なの、悪いようにはしないわ!」


……これだけ聞くと、男女の仲を取り持つことに生き甲斐を感じるという、平民によくいるオバサマのようね……。

しかし、今そんな人を紹介されても困る。

「先輩、お気持ちはありがたいのですが。私はもう、他の殿方をご紹介されても困るのです」

「ワルロー令息のことなら心配いらないわ!決めてさえしまえば、伯爵家の私が間に入るから!」

「いえ、そういうことではなくて……」

どこまで言ったら伝わるかしら、と困っていると、前方からリヒト様がやってきた。



()()()()()を困らせないでくれませんか、バジュスーレ先輩」



リヒト様の言葉に、先輩は「はぁ?」と言い、私は「まぁ!」と声を上げて立ち上がる。

「ではリヒト様、認められたんですの?」

リヒト様が近付き、手の甲にキスをくれた。

「先程兄の使者から手紙を貰いました。これで晴れて婚約者同士ですよ、セシリス」

「まぁ……!」

いつもより嬉しそうに名前を呼ばれて、私も嬉しくなる。

「ちょっと待ちなさい!昨日まで婚約の動きなんて何もしてなかったじゃないの、こんなに早く決まる訳ないでしょう?!」

バジュスーレ先輩からの抗議にも、リヒト様は動じない。


「まぁ、普通はそうでしょうね。でも、僕の兄もセシリスのお義姉様も、王宮の役人なんです。加えて、二人ともアイゼンバーグ公爵家の方々と懇意にしていますので。コネを総動員して、最短で婚約を受領していただきました。()()()()セシリスに男を紹介しようとする、不穏な動きがありましたので」


「アイゼンバーグ……公爵……?!」

あまりの高位な名前に、バジュスーレ先輩の顔が青褪めた。

子爵家同士の話なので決まる前には横入り出来るかと思っていたらしいが、今回は公爵家の方が後押ししてくださってる。

バジュスーレ伯爵家では、到底太刀打ち出来ないだろう。

リヒト様は先輩を見て、ため息をついた。

「先輩。今度のこと、だいぶ執拗にセシリスに接触を計っていましたよね。こちらでも調べさせていただきました。……なんと愚かなことを」

「愚か?」

なんのことだろう、とリヒト様を見ると、彼は気の毒そうに私を見た。


「セシリス、気をしっかり保ってくださいね。バジュスーレ先輩が貴女に会わせようとしていたのは、アーノルド・ヒュイズ子爵令息。貴女の()()()()なんです」



「…………は?」



とても低い声が出た。

青褪めていた先輩がビクッ!となる。

アーノルド・ヒュイズとは、病弱な幼馴染の見舞いを優先にして私を蔑ろにした元婚約者の名前だ。

「…………あの男を、私に引き合わせようと?バジュスーレ先輩、正気ですか?」

「ま、待って、私も婚約者に頼まれたの!貴女のことが忘れられないらしいから、もう一度だけ会わせてやってほしいって!」

必死で言い訳をしてるが、だから何だと言うのだ。

「もう一度会って、それで?私に何を言うと?」

「それはだから、もう一度婚約してほしいと……」

「はぁ?!」

今度はさっきより強めに声が出たので、またしても先輩は身を竦める。

「どの口が……再婚約なんてふざけたことを……!」

「セシリス、どうどう。気を保って」

怒りで体が震えたのを、リヒト様が抱き締めてくれた。

同じくらいの身長だけど、やはり体付きは違う。

あら、初めての抱擁だわ。

それに気付いたら、少し怒りが鎮まった。


「バジュスーレ先輩。婚約者に頼まれた、と仰いますが。そもそもセシリスの婚約破棄の理由は知っていたんですか?」

「……ムーサルク家から、婿に相応しくないと判断されたと」

「それでも会わせようと?」

「ヒュイズ様も、その後心を入れ替えて真面目になったと聞いたの。でもそのことをムーサルク嬢に伝えることが出来ないから、協力してほしいって」


先輩が言うことを聞いて、表面上のことならそうね、と思った。

リヒト様も呆れた声色になる。

「どこが相応しくないか、それは聞いたのですか?」

「……家の内情までは聞けないわ」

「それでも貴女は、せめてセシリスに聞くべきでした。『令嬢の味方』を標榜するならば。セシリス、彼が相応しくないと判断した理由、言えますか?」

「……私との約束をキャンセルしてまで、幼馴染の令嬢の家に通っていたからよ」

「は?」

先輩は目が点になった。

「都合良く病気になって、その度に見舞いに行くって約束をキャンセルして。お姉様と共に乗り込んで、リヒト様のお兄様にもご協力いただいて、全てを暴いたのよ。彼女、仮病だったわ」

「なにそれ、ただの浮気じゃないの!」

思わず、と言う風に先輩は声を上げた。

だからそうだってば。


「いかがです?この理由で相応しくないと判断された令息が、その後どのように振舞いを糺そうと、セシリスの婚約者に返り咲けるとお思いで?それでも彼に会わせようとするなら、貴女も婚約者もヒュイズ令息と変わりない、同じ穴の狢だ」


バジュスーレ先輩は唇を震わせる。

私は名残惜しいけど、リヒト様から身を離した。

「私は、私はただ、あんなに復縁を望んでくれる人と一緒になる方が、ムーサルク嬢も幸せだとそう思ったから……!」

私の幸せ、ねえ。


「先輩。先輩はよく、『令嬢の味方』とか『女の子の味方』とご自分のことを仰いますよね。正直に言って、貴女に味方してもらって喜んでる女生徒を見たことがないんですけど」


率直に言うと、先輩は唖然とした顔になった。

「セシリス……」とリヒト様が苦笑する。

「私のため、とは言っても最低浮気男に会わせようとしたり。お友達のため、と言って良くない情報を齎したり。味方になりたいなら、もう少し私達の為になることをしてくれませんか?そうでなければ、先輩のお話を安心して聞けませんわ。それとも、『女の子の味方』と言うのは建前であって、本当は最低男の味方だったりご自分の婚約者の味方だったり、それとも誰の味方でもありませんの?」

「…………」


先輩は黙ってしまった。

これ以上お話することはないかな、と思ったところで、不意に真逆の方を思い出した。

「バジュスーレ先輩、私の知り合いの方にね。自称『女の敵』であるご令嬢がいるんです。ちょっと恋愛嗜好に癖のある方で、その辺りを自嘲して呼んでらっしゃるんですけど。お話してみると楽しくて面白くて、根は優しい方なんです。『女の敵』なんて呼称がまるで似合ってないんですわ。彼女をそう思う方も中にはいらっしゃるとは思うんですけど。やはり、自称している時には全く敵じゃないんですの」

先輩は、何を言いたいのかと問う目で私を見た。


貴族の笑みを浮かべ、言い渡す。



「ですからね。逆に言えば、自称『女の味方』は信用ならない、と言うことですわ」



◇◇◇◇◇◇◇◇


「セシリスのお姉様。お会い出来て光栄です。クラリスお義姉様、とお呼びして良いでしょうか?それともクラリス嬢の方が?」

「……好きに呼んでいただいてけっこうよ……」


上機嫌のリヒト様に比べて、お姉様はなんだか元気がない。

リヒト様のお隣にいるアサトお義兄様もだ。

リヒト様が少しはしゃいでいらっしゃるのは可愛いけど、兄姉が沈んでるのはなぜだろう?


両家族の顔合わせとは別に、同僚である兄と姉ともそれぞれ会いたいですよね、と提案したのはリヒト様。

私はアサトお義兄様に一度お会いしたことはあるけど、リヒト様にお姉様も紹介したかったので承諾した。

学園から行きやすいカフェは賑わっていて、お姉様も来たことがあるらしく「懐かしいわ」と呟いていた。


「では、クラリスお義姉様と呼ばせていただきますね!セシリスも僕の兄をアサトお義兄様と呼ぶので、お揃いです!」

「…………何をしてくれてるんですかワルロー様」

「不可抗力だ!リヒトが勝手に決めたんだ!」


お揃い、の言葉に浮かれていると、お姉様とアサトお義兄様がなにやら言い合ってる。

「なにが駄目なんですの?」

「セシリスが名前呼びなんて、例え実兄でも許しがたいじゃないですか。妥協の末の呼び方ですよ、クラリスお義姉様」

私が聞くのと同時にリヒト様が説明してくださった。

それを聞いたお姉様は沈黙する。

リヒト様は、婚約者になって以来ちょっとずつ独占欲や嫉妬を見せてくれるようになった。

少し恥ずかしいがとても嬉しい。

ふふ、と笑い合ってると、お姉様がハーッと長く息をついた。


「……本当にそっくりですね」

「ここまでじゃないだろう?」

「ありがとうございます!」

「……ここで差が出るのね」

「優秀な兄に似ていると言われれば、それは喜ばしいので!」

「やめろ……」


アサトお義兄様は手で顔を覆ってしまった。

お耳が赤いから、照れてらっしゃるのね。

それを見て、お姉様は少し笑ってくださった。

「まあ、セシリスを大切にしてくださるなら文句はありません。よろしくお願いしますね、リヒト様」

「はい!お任せください!」

お姉様とリヒト様が打ち解けてらっしゃるようで、私はその光景を見てふふふと笑う。


「これは興味本位で聞くのだけど、リヒト様はうちのセシリスのどこがお好きなの?」


まあ、お姉様ったら大胆なことを!

目を丸くしていると、リヒト様は満面の笑みを浮かべた。


「顔です!可愛らしいな、と思ったのがキッカケです!」

「リヒトっ……」

「まあ!リヒト様は、私を可愛いと思ってくださったの?!」


嬉しさのあまり、アサトお義兄様の言葉を遮ってしまった。

「過去形じゃないですよ、今も大変可愛らしいと思ってます。もちろん、セシリスのびっくり箱のような発想も、突拍子もない言動も、全部好きです」

「まぁ……!」

リヒト様が大盤振る舞いだわ!

手で頬を押さえてから、はたと気付いた。

「アサトお義兄様ごめんなさい、何か仰いました?」

「いや……」

力なく首を振られた。また元気がなくなってしまったわ。


「セシリスは、僕のどこが好ましいですか?」

リヒト様が楽しそうに聞いてくるので、恥ずかしいけど答える。

「顔ですわ!リヒト様も可愛らしいんですもの。もちろん、優秀なところも自称腹黒なところも好きです」

「ふふ、嬉しいです。でも、これから成長したらあまり可愛くなくなるかも……」


少しシュンとされてしまったので、力を込めて訴える。

「大丈夫です!成長されても、リヒト様はリヒト様ですわ!きっと私好みにカッコよくなってくれます!」

「そう言ってもらえるなら安心です。セシリスの好みのカッコよさを追求します!」

私達が盛り上がってる隣で、兄と姉は小さく語り合っていた。

「……ワルロー様。これは、早々に手を組んだ方がいい気がしてきました」

「奇遇だね、俺もそう思ったところだ。本当に一筋縄ではいかないんだなセシリス嬢……」

「正直言って、組ませてはならないタイプ同士だと思うのですが……」

「余計なことをするとリヒトに恨まれるから、基本は応援しつつ度を越すようなら止めよう」

「うう、腹黒な義弟なんて……」

「すみません」


美味しいと評判のタルトが運ばれ、二人でシェアする間も、兄姉はこそこそ話し合いを続けていた。



◇◇◇◇◇◇◇◇


「失礼します!アサト・ワルローの弟、リヒト・ワルローです!兄へ渡す書類と、日頃お世話になっている皆様へ差し入れをお持ちしました!」

「リヒト?!」

「え、ワルローの弟?」

「はい兄様、母様からの書類です。伝言は『全く式の進捗を報告しないペナルティ』とのことです」

「母上……!」

「総務室長殿でいらっしゃいますか?初めまして、リヒト・ワルローです。兄がいつもお世話になっております。よろしければこちら、皆様でお召し上がりください」

「あぁありがとう。よく来たね、お茶でも淹れよう」

「室長!すぐ帰しますので!」

「わぁ、ありがとうございます!」

「リヒト、さっさと帰れ!」

「兄様、それじゃペナルティにならないじゃないですか。あ、もしかしてアイゼンバーグ卿でしょうか?その節は僕の婚約にご助力いただき、誠にありがとうございました!」

「どういたしまして」

「リヒト!」

「わぁ、本当にお綺麗ですね!兄様の言った通りだ」

「……ワルロー?」

「言ってません!絶対そのようなことは!」

「すみません、言ってたのは長兄です。アサト兄様良かったですね、憧れのアイゼンバーグ卿と一緒に働けて。試験を頑張った甲斐がありましたね!」

「ん?」

「リヒト!」

「タビト兄様からお話を聞いて憧れて入学したのに、学年の関係で卒業した後だったと気付いて、家で泣いてたじゃないですか。僕、頭をよしよししてあげたの覚えてますよ」

「そうなの?」

「リヒト!!」

「その後も憧れのまま同じ書記役に就いたりして。同窓のグリフィス嬢と一緒になられると知った時は、内心小躍りしてましたよね!結婚式とかにも呼ばれるかも?とドキドキしてらした時も懐かしいです。結局呼ばれなくって凹んでましたけど」

「そうなんだ」

「リヒトー!!」

「努力の甲斐あってこうして同じ職場にいられるんですから、皆様へ感謝を捧げなければいけませんよね?それを思えば、弟の可愛いお強請りなんて」

「分かった!なんか頼みたいことがあるんだな?面倒で断られそうな依頼があるんだな?!全面的に引き受けるから帰れ!」

「ワルロー、弟くんに怒鳴っちゃ駄目だよ」

「すみません先輩、ここは引き下がれません!」

「兄様、あまり興奮すると体に良くないですよ」

「誰の……せいだと……!」

「では、兄に怒られたので失礼します。室長、お茶を淹れてくださったのにすみません。お菓子召し上がってください。兄様、指示書を送りますので期限までに遂行してくださいね〜」

「……嵐のような弟だね」

「さっきの話は……忘れてください……!」

「無理。と言うか、たぶんミューがあの子に会いたがるよ」

「あぁぁぁ」






明日、同シリーズの

テンプレートが立ちはだかる日常

https://ncode.syosetu.com/n6258md/

の主役たちと絡めた幕間を投稿します。

アサトが苦労する話をまだ読みたい!と思われた方は、ぜひよろしくお願いしますm(_ _)m

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― 新着の感想 ―
アサトが他のシリーズでは暗躍?してるのに、こちらでは弟に泣かされている苦労性なのがおかしいです
先輩はあれだな。あんまり人を見る目ないのに仲人したがる仲人おばさん。しかも無意識に悪い縁組みばっかり選んで迷惑がられてるやつ。若いのにメンタルおばさん先輩。
とても楽しかったです。リヒト君の計算された嵐の訪問と、可愛がられキャラ、他人事なら爆笑で自分事なら泣きますね。リヒト君とミューさんのお話もぜひ!
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