ep.06―4
ジークたちは今、彼の部屋にいる。
ユーリは黙って主を見下ろした。
ジークと初めて会ったのは、ユーリが十歳の時であった。
カラスの濡れ羽色のような黒髪に、無感情そうな瞳。
硬く結ばれた口元のジークと目が合った瞬間、ユーリの背中はゾクゾクと粟立った。
あれから二十年以上が経ったのだと思うと、過ぎ去った年月の速さを実感する。
(ジーク様にはあんなのではなく、もっとしっかりとした感じの方と……それ以前に、アルカディアの、しかも、魔女の孫娘だなんてとんでもない)
細い目を開いてジークが読んでいる文献に目を落とす。
「……やけに熱心ですね」
「アルカディアには精霊の加護がある」
「えぇ、それで城壁を焼いたのでしょう?」
「ルミナでは不可能だ。彼女が持つのは光の加護だからな」
「どういう意味です?」
ジークはユーリはに今まで知ったアルカディアの情報をユーリに伝えた。
「……成程。戦いのないアルカディアで育った彼女は、戦いに有益な魔法を会得していない。それで、主様がそれを読んでいるのですね」
ユーリは、ジークがルミナを思って文献を読んでいたのではないことが分かり、ほっとした。
「あぁ。だが、防壁の生成と治癒以外は難しいようだな」
ふぅとジークは息を吐いた。
(あまり役に立たないのが、彼女らしい)
威厳や存在感が大きくないルミナにはそれくらいが丁度だと、ユーリは秘かに笑う。




