12話「僕の城」
大きく豪華なお城を後にし、敷地内のお庭の隅の方にポツンと建った物置小屋。
中にはきっと、庭いじりのための道具が収納されているのだろう。
そう察するには十分な外観だった。
「ちょ、ちょっと待ってください。僕はあそこで暮らすんですか?」
「はい。雨風も凌げますし、一人部屋ですから、ある程度自由に内装をいじっていただいてもかまいませんよ。あ、中にある用具を外に出したりするのはやめてくださいね」
言いたいことはあったけれど、口をはさむ隙も無く、淡々とサグレナさんは続ける。
「敷地のすぐ外に川が通ってますので、洗濯や、体を洗う際に利用してください。お嬢様の前に不潔なまま現れることは無いように」
「あ、あの!食事は...?」
ツッコミどころは沢山あったけれど、生きていくために必要な食事。
僕の口から最初に出た疑問は、それだった。
「あぁ、安心してください。一日三食分のパンと干し肉が支給されますよ。奴隷での雇用ですが、お嬢様のご慈悲でお給料も出ますので、町へお食事に出かけるのも自由です。もちろん、業務時間外でお願いしますね」
頭がくらくらしてきた。
奴隷、という馴染みのない身分が、徐々に輪郭を帯び、実感がわいてきた。
物置小屋で夜を過ごし、川で清潔にし、支給されたパンと干し肉を食べ、何か作業をする。
一度頭の中で、一日のスケジュールをまとめてみると、その過酷さが浮き彫りになった気がした。
(冬はどうすればいいんだろう...毎日同じ食事で栄養は大丈夫なのか、飽きたりしないだろうか。そもそも奴隷の仕事って何なんだ)
様々な疑問、不安が僕の頭の中を埋め尽くす。
今まで突き付けられた言葉に比べ、具体的な指示は、僕を現状と向き合わせるには十分だった。
「ひとまず、講習が終わるまで作業をさせてはいけない決まりですので、手続きを済ませておきますね。決まり次第日付や時間をお伝えします」
「そ、その...この世界の時間の概念はどうなっているんですか?」
「人間界のものと変わりませんよ、ただ、この敷地内に直接太陽の光が届くことはありません。お嬢様が陽の光を好みませんので、結界で遮断しています。ですが、すべてを遮断するわけにもいかないので、生活に支障の出ない範囲で、ですが」
この不気味な空は、その結界によるものだったのか......
そういうものもあるんだ、と、この時の僕は既に、そういったおかしな事象を、すんなりと受け入れられるようになっていた。
「こうして、お互いの顔を視認出来るという事は、外もまだ明るい時間だという事です。と言っても、アバウトに過ごされても困ります。時計もあの小屋にありますので、そちらを頼りにしてください」
「わ、分かりました......」
その講習とやらがせめて、この不安を取り除く要因になってくれれば......
そんなことを願おうとして、やめた。
生前、そしてこの魔界でもずっと、期待は裏切られてきたことを思い出したからだ。
(せめて、命の危険がなければいいな)
可能な限りハードルを下げ、最低限の望みだけを残し、過度な期待は閉じ込めた。
「では、説明は以上になります。今日のところは自由にお過ごしください、後ほど、食料をお持ちしますね」
そう言い残し、サグレナさんはその場を後にした。
…随分久しぶりに一人になった気がする。
そう自覚した瞬間、ドッと疲れが押し寄せてきた。
(とりあえず、小屋の中を見てみないと......)
自宅に帰って、そのままベッドに体を預けたい。
しかし、もう僕はあの家に帰ることはできない。
そして、この小屋が、これからの僕が帰る自宅になるのだ。
新居と言えば聞こえはいいが、当然そんな浮かれた気持ちになることはできず、不安で胸を膨らませ、新しい我が家の扉を開けた。
読んでいただきありがとうございます。
週二回(火・木 21時)更新を予定しております。




