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11話「総評」

「あはははははっ!人間の短い寿命のうち、しかも若々しい肉体を持っている大事な時期を無駄にした結果、偶像を崇拝する道を選ぶとはのぅ。しかし、親の死でこちらの同情を誘う構成なのはちと減点じゃな」

顎に手を当て、うんうんと頷きながら、僕の話の品評を続ける。

「しかし、なぜ自死を選んだか、という点においては良いのぅ。大きな失敗したとか、嫌なことが沢山あったから、ではなく、指針を失ったからというのが、情けなさが際立っており、非常に良い!」

まるで、出来の良い小説や映画を見た後のように、満足げに感想を語る姿。

貶されているのだが、お嬢様と呼ばれている身分だけあって、力強く語る姿には、有無を言わせぬ貫禄のようなものが備わっているように感じられた。

「おい、せっかく褒めてくださってるんだ。礼の一つも言えねぇのか」

言えるわけがない、とは言えなかった。

機嫌を損ねたらどうなるのか、嫌な想像はここに来る途中さんざんしたけれど、その想像が今一番冴えている気がしたからだ。

この女性の悪魔の機嫌一つで、僕の命など簡単に捻りつぶされてしまうのだろう。

「あ、ありがとうございます」

言われるがままに、屈辱的なお礼の言葉を告げた。

「うむ、少し貴様のことを気に入ったぞ。余の求めていた愚かな人間の思考をしておるわ」

その言葉がなぜか、特に鋭く、深く僕に突き刺さった。

愚かな人間の思考。

確かにそうなのかもしれない。

実際、ずっと生きづらさのようなものを抱えていた。

それは、両親を失った境遇だけで片づけられるものでは無く、それより前から、僕の中にあった気がする。

(今陥っているこの思考も、愚かな人間の思考に該当するんだろうな......)

なんだか自分の中の核を指摘されたような気がして、さらに自己嫌悪。

「お嬢様、そろそろ」

「おぉ、もうそんな時間か。では、後のことはよろしく頼むぞ」

「かしこまりました...おい、行くぞ」

思わず自分の世界に入っていると、そんな会話が聞こえてきた。

一礼し、踵を返したグアンを見て、僕も思わず一礼し、また、その背中を追いかけた。

バタンと扉が閉じた瞬間、フッと緊張が抜けた。

常に心臓を握られているような感覚。

気まぐれで、それを握りつぶされてしまいそうな、常に命の心配をしていたプレッシャーから、少しだけ離れられた気がした。

黙々と歩を進めるグアン。

「あの...さっきの方って、肖像画に写っていた娘さんと同一人物ですよね?」

「同一魔族な」

それもそうだ、と思っているところに、グアンが続ける。

「それと、お前もあの方のことはお嬢様と呼べ。機嫌を損ねる可能性も減るだろうよ」

馴染みのない代名詞に気恥ずかしさを覚えそうだ、なんて浮ついたようなことを思っている場合ではない。

「ご両親は、今このお城にはいないんですか?」

「あぁ、色々あんだよ」

出会った時からぶっきらぼうではあったが、ここに来てからどこか素っ気なさを感じさせるグアン。

そんな態度に少し違和感を覚えていると

『グアン様』

後ろから、急に声が聞こえてきた。

声のした方を向くと、いかにもといったメイド服を身に纏った、褐色肌の、僕をゆうに見下ろせる長身の女性が立っていた。

その身長に加え、切れ長の瞳が迫力を助長させている。

「おぉ、サグレナ。悪いなわざわざ、んじゃ後頼むわ」

「はい、お任せ下さい」

突然の登場とその装いに怯んでいる僕をよそ目に、淡々と事が進んでいく。

グアンの立ち去る姿に深く頭を下げ見送るサグレナと呼ばれたこの女性も、おそらく悪魔なのだろう。

「では、参りましょう」

僕の返事を待たず、サグレナさんが歩みを進める。

悪魔ってのは、みんなこうなのだろうか。

「あの、これからどちらに?」

「まずは、この城で過ごす際に使っていただくあなたの部屋に案内します。そこで、今後のあなたのこの世界での暮らし方についても、簡単に説明を」

こんな立派なお城の部屋を用意してくれているなら、少しは気も紛れるかもしれない。

ぼんやりとしたお城での生活だったけれど、プライベートな空間が用意されているという事実は、素直に僕を安心させた。

それに、こうして丁寧な受け答えをしてもらえたのは、随分久々のことのように感じるし、グアンじゃないけれど、どうにもならないなりに、少しはマシな待遇に思えた。

(我ながら単純だな......)

大きな体躯だけあってか、一歩一歩が大きいサグレナさんに置いていかれないように足を動かす。

先程グアンと通った階段に差し掛かる。

肖像画に写る幼いころのお嬢様...の、無邪気な笑顔は、最初にこの絵を見たときに感じたものとは、違う不気味さを覚えた。

先ほどはその容姿に、そして今は、先ほど僕に見せた笑顔が肖像画の中の表情と重なり、平気で人を殺める狂気を、その笑顔に感じていた。

背筋にゾクリとした感覚が走る。

つい先ほどまでの、楽観的な考えを否定されているとすら思えた。

蛇に睨まれた蛙のように、肖像画から目を離せないでいたけれど、コツコツと階段を登るサグレナさんの足音で、その呪縛は解け、慌てて背中を追いかけた。

無言が続き、何とも言えない気まずさを感じながら、城に入った時に通った道を引き返す形で進む。

気が付けば、僕たちの入ってきた扉の前に来ており、そのままサグレナさんは扉を開け、外へと出ていった。

(どうしてだろう...離れに従業員が住むための寮のようなものがあるのかな?それとも、裏口を回った方が早いとか?)

勝手に自分の中で答えの候補を出し、ぼんやりと歩みを進める。

「さぁ、着きましたよ」

くるりと振り返り、僕にそう告げるサグレナさん。

「え?......」

辺りをきょろきょろと見渡してみたけれど、物置のような古びた小屋のほかには何も見当たらなかった。

「も、もしかして、あれですか?」

恐る恐る、その物置小屋を指差して尋ねる。

そんなわけないじゃないですか。

そう言ってくれると信じたかったけれど、やはり現実は僕には厳しいようだった。

読んでいただきありがとうございます。

週二回(火・木 21時)更新を予定しております。

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