第7現象 独り言
この「風喰」の状況でましろだけが動いてきた。と言うか、ほぼ竜巻のようにぐるぐると回るこの空間で動けてるのが不思議だったが、「風喰」の唯一の弱点をすぐに見抜いたか。
風喰は周囲の風を喰う。いわゆる捕食しているのだ。だからこの竜巻は大きな風の「物体」として扱われる。
ましろの連打は物体にも作用することから、「風喰」を連打しながら移動することも可能だった。
ましろ:これで…終わりだ!
だが…
「風喰」の動きは不規則。ならば、軌道を変えることにより、ましろの連打の軌道も少しは変わる。おっしかったね。
その後は3人を「風喰」で拘束して勝つ。
僕は最強だったわけではなく、3人の連携を少しばかり上回っただけに過ぎない。
実践はこれが初めてのはずなのに、ここまで連係が取れるとなると末恐ろしい。特に伊月さんの鳥居を挟んでの攻撃や転移は支援よりも、対人戦で最強クラスだ。
一瞬の頭のラグでも、命取りになるこの世界。これなら、あのダークヴェンダマイズの観測をも上回るのかもしれない。
これが…僕のチーム。僕が率いて、守る仲間たち。
バーチャル空間はなくなり、家兼事務所に戻るのだった。
ましろ:あと少しだったんだけどな…
ラルニ:体も動かしたし、疲れた気分だよ〜。
伊月:ちょうどいい時間ですね、お昼ですので外食でもいきますか。
なら、近くのM−ROUND行こう。(マ◯ドナルドみたいなやつ)。今日は僕のおごりだから好きなものを頼むといいよ。
僕はラピン(ラパン)を運転する。助手席に伊月さん、後部座席にましろとラルニが座る。かわいい白色のラピンが道路を走る。
いつもなら歩いたり、浮遊したりしていくけど、こうやって行くのもなんか楽しいな。
さっきまで戦っていた空気から一変して、車内は楽しい空気になっていた。いつかこのみんなで旅行…行ってみたいな。
僕らはM−ROUNDの店内に入り、テーブル席に着く。時代は電子機器で頼む感じになっているが、僕は現金派。
ラルニ:ナツキはpuypuy使わない感じ?
ましろ:ナツキって結構古いとこあるよね。殆どの人が電子決済なのに…
伊月:「非科学現象組合」の報酬も現金受け渡しですもんね。
なんだかんだ現金の方がいいよ。支払いに時間は掛かるけども、カードやスマホよりも満足感?みたいなのがお札にはある。
ましろ:そういうものなのかな
そんな他愛のない会話をしながら、バーガーを食べていた。外出はしてるけど、このときだけは僕も顔の口部分だけ兜をとって食べていた。
帰りにコンビニでアイスを買って帰る。アイスって個性が出るよね。僕がいつも食べるアイスはアイスボックス一択。一つ一つが四角い形をしていて、1つ口に入れるだけで涼しくなる。レモン味が一番好きだ。
ましろが選んだのはTheアイスの王道、カリカリ君。だけど味は限定の抹茶味。ましろって和風なスイーツ系が好きなんだな。このカリカリ君抹茶味の中心には粒あん餅が入っており、ザクザク感と中のモッチリ感の新食感が楽しめる一品になっている。
ラルニが選んだアイスはピンクのいちごバー。食べ物もかわいい系が好きなんだな。そのいちごバーも、いちごと練乳の層がいくつも重なってできているから、いちごの酸味と練乳が交わることでコーティングされて味がマイルドになる。
伊月さんはあずきバー。渋い感じだけど食べ慣れてる感があった。硬いで有名なこのアイスだが、それをものともしない強靭な歯と顎で食らう様は格好も相まって、すごく怖かった。
ましろ:伊月さんカッコいい!
ましろ、君に伊月さんみたいにならないでほしいと思ってしまった。ましろにはそのまま可愛い姿でいてほしい。※男だけど
その後は家に帰る。伊月さんは今日は泊まるらしい。ラルニは配信があるので、途中で別れた。
夜…
伊月さんは事務所のパソコンで資料をつくっていた。僕も何か手伝えることはないかとパソコンを起動する。ましろは現代っ子だからサイバーメガネを活用して伊月さんのサポートをしているけど…
僕は社会経験がないままヒーローになったから、こういう事をしたことない。ましろのタイピングが早い、伊月さんも負けないくらいに早い。僕は…文字の位置を見ながらのタイピングになる。まるで文字を覚えたての赤ちゃんのよう。
ましろ:そのくらいだったら、やらないほうがいいし、ボクが出来るからナツキはじっとしといて。
伊月:ましろの言うとおりです。ナツキさんの無駄なタイピングはロスになるので、待機でいいです。
僕は、一応…パソコンの資格持ち(実践経験無し)なんだけどなぁ…。何の知識も思い出せず、年下のましろに言われ放題だった。
ましろ:戦闘では頭働かせるのに、日常になるとてんでポンコツになるよね。
伊月:良い言葉で言うなら親しみやすい・愛嬌がある…といったところでしょうか。
2人がタイピングしてる時に独り言のように口ずさんだ。
僕さ、高校卒業してから23歳になる今の5年間はヒーローしてたんだよ。親には安定しない職業だって言われて反対したこともあるけどさ、無理を言って一人暮らししながらヒーロー活動してた。
最初は誰も僕のこと知らないから、不審者とかコスプレお兄さんなんて言われて警察のお世話になることが多かった。今ではそれも笑い話になるくらい仲良くなった。
「永さん」って人が寝坊して大学の授業遅れる!と言って走ってた時にさ、ヒーローだから助けてみようかな…って思って助けたら、寝坊したたんびに僕を呼んではギリギリ遅刻しない程度に間に合う。
永さんを送り迎えしてたら、大学近くの人がさ、荷物持ってほしいだとか猫探してほしいとか言ってくるようになったんだ。
永さんの講義中の時間に色んな人と話して、手伝ってって事をしてたらエアスフィアって名前が広まっていたんだ。広まった…と言っても、無名から少し有名人の毛が生えた程度だけどね…
あの時に永さんを助けてなかったら今の僕って、まだヒーローやってたのかも怪しいしましろや、ラルニ、伊月さんと会えてなかったかもしれない。
誰かを助けることで、見返りってわけじゃないけどさ、何か返って来ると思うんだよね。そう思うと、これからもヒーローやっていこう!そんな気持ちになれる。
別に有名になりたいわけじゃない。事務所だって本当はこの大きさでいいんだけど、誰かを助けるためにはもっと人手が必要になってくる。僕の背中を追ってくる仲間がいる。
ごめんね、独り言言って…気持ち悪いよね。
ましろ:どこまでいきたいの?
………、とりあえず鹿児島1笑って楽しいヒーロー事務所になればいいかな。僕は別に世界を守るヒーローになる…、俺が日本を変えてやるんだ!…みたいな主人公には無れないからこそ、地元だけでも守れる力と組織が欲しいと思う。
伊月:いい夢ですね。必ず叶えましょう。
ましろ:だったら、ナツキは夜中のパトロール行ってきてよ。
僕は家を出て一人道を歩く。電灯はついたり消えたりしていて「電灯も頑張ってるんだ」と感じる。この時間帯は信号機が赤点滅が多いので、歩行者や自転車を運転してる人は十分な注意が必要だ。
はぁ…、僕はため息をつく。このため息はダルいというわけではなく、この先どうしようか悩んでいるため息。いっときはこのメンバーでいこうと思ってるけど、僕がずっとリーダーってわけにもいかないよな。
戦闘だけが取り柄で、裏方作業なんて何もできやしない。人に迷惑をかけるだけのボンクラ。ましろや伊月さんも優しく言ってくれただけで、内では罵ってるのだろうな。
涼しくて虫の声がよく聞こえる道を歩いて帰り着く。
今日も平和で何もなかった。事務所ではまだタイピングの音がカチャカチャ…と聞こえる。こっそりのぞくが、2人とも疲れた顔を見せないで手を動かしている。
声をかけようとしたけど「やらないほうがいい」って言葉を思い出す。ましろ本人は冗談のように言っていたけど…何もできない自分の弱さに冗談の槍が突き刺さるようだった。
なら…彼らの邪魔にならないように、風を使って空気の入れ替えをする。冷房の効いた室内だけど、ずっとつけてても悪影響で、頭が痛くなったりする。頑張ってくれるのはうれしいけど無茶だけはしてほしくない。
ましろ・伊月:ん?
気づかれそうになったから、僕は自分の部屋に戻る。こんなことしかできないリーダーを許してくれ。
朝…
僕はそっと目を覚ます。鳥の鳴き声よりも虫の声のほうが耳に響くこの頃、事務所に行ってみると案の定、2人は寝ていた。
2人を仮部屋のベッドに寝かせて、風で呼吸を安定させる循環を作り、深い眠りにいざなう。夜中まで起きていたら体に負担がかかり、呼吸がしづらくなるので、そうならないようにする目的がある。
伊月さんは顔色が悪かったのが取れてスッキリしていた。ましろはというと…寝ているから無意識なのか僕の手をつかんできた。
その手は引っ張ったらとれるけど、せっかくなのでそのままにすることにした。いっそのこと「添い寝」でもしてみようかな…
ましろ:んんん…、なんか…気持ちいい。ボクっていつ、ベッドに行ったっけ?なんか…頭付近が冷たいような…
ましろが目を覚ます。
ましろ:うぇっ!
上?
ましろ:なんで…添い寝してるの?
ましろさんや、夜中までずっと作業してたからベッドに移動させたんすわ。そしたら手をつかんでくるもんだから、鎧を外して兜だけつけて手を掴まれながら添い寝したんです。
ましろ:だから…寝てる時に温かい感じがしたんだ。
まぁ、添い寝がやりすぎたのは僕も分かってるよ。だけどね、僕はましろ達が大事なんだ。事務所がうまくいかなくても、ましろ達が元気に過ごせてたら十分だよ。
こんな労働出体を壊すような真似をしてほしくない。
伊月:お2人とも、朝からお盛んなのは良いですが、朝食ができてますよ。
伊月さん、もう起きてたのね。あと、ひと言多いけど。とりあえず資料作成お疲れ様。今日はもう自由にしていいからね。
伊月:嬉しいのですが…
どうしたの伊月さん。何か浮かない顔してるけど、資料にミスでもあったの?
ましろ:ボクらのチーム【LAST HERO JAPAN】の活動費が底ついた。
ん?聞こえなかったけど、活動費がない?パトロールとかで市からお金もらってるんじゃないの?
伊月:それは個人でヒーローをしていたらです。事務所を立ち上げた今は、ホームページを作成して新たに依頼表を提示しないといけません。
今までのパトロールって…
ましろ:無償だよ
マジかよ…。そう言えばラルニは?
伊月:ラルニさんはチームメンバーではありますが、配信とヒーロー活動は別なので…
そうだよね…お金借りづらい。
伊月:私の方でホームページを完成させますので、金策はありませんか?
ましろ:ボクらもラルニちゃんと同じように配信する?
それもいいが、すぐに収益化されるわけじゃない。できれば今欲しいところだが、市役所の依頼をこなしても事務所経営だから報酬は無い。
いま「非科学現象組合」の依頼があるかと言われると…
伊月:そう言えば、この事務所にヒーローとして入りたいと言う方がいましたよ。
物珍しいやつなんているんだな。いったいどこのどいつだ…。
僕はそいつの資料を見て立ち止まった。見たことある、いや…コイツ知ってるぞ。
伊月:お知り合いの方ですか?
知り合いも何も、こいつは僕がヒーローなりたての時にお世話になったヒーローであり、中学からの友人だよ。
ましろ:タッグ組んでたの?
あいつの現象は特殊だから、タッグではなかったな。だけどあいつ1人いれば複数人いるときの戦い方ができる。
伊月:具体的には…
実際会ってみたらわかる。あいつの名前は「フミヤ」。フミヤもましろと同様に実名で活動してるヒーロー。実力も申し分ない、だけどね…
伊月:問題が?
フミヤの現象は遠距離だからみんなの現象と噛み合うかどうかが心配。
ましろ:どのくらい遠距離?
どのくらいでも、距離に制限はない。だけど別に強い現象じゃない、危険度もⅠたから現象の使い手次第で変わるマジで特殊な現象。
すると携帯から一通のメッセージが届く。フミヤからだ。
フミヤ:とりあえず中央公園の方にいるからすぐ来て。
はぁ…、自己中なやつだな。僕はとりあえず中央公園に行く。今日は自由ということにして、ラルニは配信に、ましろはそのままゲームをして、伊月さんは一緒に面倒な奴の所に行く。
中央公園は結構広く、夏場は人工水たまり見たいな場所で子供達が涼しんでいる。たまにイベントもやっており、地元の人達で賑わういい場所だ。
今日も何かのイベントで沢山の人で盛り上がっているところ、フミヤがベンチに座っていた。
時間通りに来たぞ。
フミヤ:早速だけど、依頼手伝ってよ。
こっちは金…
フミヤ:金欠何だろ?報酬は山分けでいい。「非科学現象組合」の社員もいるなら話が早い。
伊月:どうしたんですか?
フミヤ:とあるアンチヒーローが檻を抜け出して鹿児島まで逃げてきた…




