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LAST HERO JAPAN  作者: 悟
夏希編
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6/18

第6現象 現象の対処

 いい「呼吸法」があるはずだ。そう思って奏少年に試してもらうことにした。今は体を慣らすことが大事だ。日常的に使い分けができるなら保護の対象に入らないし、今まで通り学校に通うこともできる。


 胸式呼吸から試した。胸式呼吸は胸郭を広げ、吐くときに閉じる。呼吸する時の一般的な方法だ。


奏:ふぅ…、やっぱり呼吸するだけでも出てしまう。


 まぁ、これは確定させるためだ。普段使いしてる呼吸法では難しいなら声優が多用する「腹式呼吸法」を使う。息を吸いながらおなかを膨らます、肺を左右に広げるから上下に広げる感じに切り替える。


 僕も昔は声優を目指していたこともあり、日常的に使うことができる。胸式呼吸法は集中力アップで腹式呼吸法はリラックスやストレスを緩和することができる。


奏:はぁ…、少しだけ抑えれてる感じがするけど完全に抑えれる訳じゃない。


 胸式呼吸よりは音の振動も微量だけど、日常的に使うなら支障が出るかもしれない。迷ったな、一般的な呼吸法では奏少年の音を抑えることができないのか。



 ん…、まてよ。少し頭によぎった事がある。僕の「風鈴の籠」を使えば極限に抑えれるのではないか?僕次第では普通の声を残したまま、音だけを止めることも…


奏:エアスフィア、なにか思いついたの?


 少しやってみたいことがある。

 僕は伊月さんに連絡してとある物を特注で依頼した。その間は奏少年の話を聞くことにした。


 奏少年はこの力が自分で使えるようになったらヒーローになりたいらしい。ヒーローは18歳の高卒からだから、まだ無理だけどヒーローになりたい人向けの支援活動が非科学現象組合で毎年行われてるから参加したい。


 いつか自分と同じ様な思いをした現象発現者をエアスフィアみたいに助けたい…そう言ってくれた時には涙が出そうになった。


 会話を聞いている時に伊月さんが鳥居から出てきた。


伊月:頼まれていたものです。


 僕が用意したものは口につけるマスクのようなものだ。口を覆うこのマスクは普通につければ何も変わらないけど、マスクの中に僕の「風鈴の籠」を少量付与する。


 マスクを常につけるというデメリットはあるが、普通に声を出すことができる。これはまだMark Iだけど、いつかヒーローになるならそのまま改良して使うこともできるようにしてある。


 

 コレをつけて話してみて。


奏:ん…、あ、あ。あぁぁぁ!


 どう?


奏:話せる、振動しない。


 よかった。奏の音は僕の「風鈴の籠」で抑え込めたみたい。


伊月:これなら保護する必要もないですね。日常的に過ごせると見て、こちらも支援します。


 ふぅ…よかったよ、これで普通に過ごせるんだから。このマスクをつけて音を慣らせば外しても抑えることができると思う。その「慣れ」は僕じゃなくて奏少年が努力していくしかないよ。


奏:うぅ…、ありがとうエアスフィア。


 いいんだよ奏少年、君がいつか僕らと同じ土俵に立つときを待ってるよ。


奏:いつか僕がヒーローになったら、エアスフィアの事務所に入りたいから枠空けといてね。


 

 僕は奏少年と別れたあと、伊月さんと霧島の観光を終えて鹿児島市に帰るのだった。


 家兼事務所ではましろとラルニがリビングで配信をしていた。僕はそのまま裏庭のリノベーションに戻った。


 依頼の達成で報酬を得たが、それはすべて奏少年に寄付することにした。僕はただ人助けをしただけ。


伊月:報酬は良かったんですか?


 今はこれで満足してるし、収入も安定してるからいいかな。いつか…奏少年がヒーローになったときにでも返してもらうよ。


伊月:そうですね、彼は良いヒーローになれると思います。


 奏少年のその後はというと


 あの日以来学校に通えている。友達といつも通りヒーローについて話したり、自身がヒーローになりたいと言っているらしい。ヒーロー名はまだ考え中だけど現象設定はできている。


 現象名:反響(レゾナンス)

 分類:物理型現象

 危険度:Ⅲ


 声を弱めに広く出力して相手の居場所を特定する「探知(サーチ)」

 声を強く狭めて出力して相手を吹き飛ばす「衝撃波(インパクト)」

 不安や恐怖といった感情を抑えたり、士気をあげたりする「感情共鳴(ハーモニック)」


 奏少年の現象は支援活動に大いに役立つ。高校を卒業したら真っ先に僕の事務所に来るようにすると「非科学現象組合」も了承していた。



 配信を終えたましろとラルニ、そして伊月さんが裏庭に集結した。一体なんなのだろう。


ましろ:ナツキ、君は…僕の師匠でもあり、このチームのリーダーでもある。


ラルニ:なら、ラルニちゃん達よりも強いって証明が必要だよね〜。


伊月:是非私たち3人VS夏希さんで勝負してくれませんか?


 

 そう来たか。

 確かにチームのリーダーとして強くなければいけないのは分かる。他のグループヒーローも個人でつよいチームもあるけど、多いのはリーダーだけ強いチーム。だけどリーダーだけ強いワンマンチームにはしたくない。


 絶対的な強さと言うよりは、この子たちは頼れるリーダーが欲しいんだ。僕がいつも低い腰状態だから、頼りないと思われていたのかもしれない。ましろの修行も兼ねてこの挑戦を受けてみようと思う。


 いいよ、3対1ってことね。場所はラルニの時のバーチャルで?


ラルニ:そう!今度のバーチャルは実戦を兼ねて街のフィールドだよ♡


ましろ:ダークヴェンダマイズの時の様な戦いを想定してシミュレーションをしたいんだ。


伊月:私もこのチームのマネージャーとして力を把握しておきたいのです。



 時間はどのくらいにしますか?


伊月:30分ですかね。


 街ってことは建物が多い感じですね。障害物にも武器にもなりうる。変幻自在の戦い方ができます。バーチャルということもあって街を壊してもシミュレーションなので迷惑もかけない。


 ついでに伊月さんがどうやって戦うのか見てみたいところがあった。



ラルニ:もうすぐ始まるよ〜♡


ましろ:配信もバッチリです。


伊月:最初の位置はランダムとなっております。


 「開始!!」



 とうとう始まってしまった。

 僕VSましろ・ラルニ・伊月の戦いが。まず対処しなければいけないのは伊月さん一択だろう。現象が他二人と比べても異質で、戦闘でも使えるし、ましろとラルニの補助にも使えるのが厄介だ。


 あっちの3人もまずは合流が先だろうな。なら僕は見つかりやすいように大通りに出よう。見つかる前提で戦いやすくて障害物の少ない大きい交差点までついた。



 するといきなり後ろに鳥居が出現した。これは伊月さんの現象:参道!


 姿は見えない、遠くでも僕を見ていたら出せるということか。だが入らなければ転移はしない。


 ん…、何か吸われるような気がする。伊月さんの鳥居は、敵の場合強制的に吸わせて転移させることができるのか。


 仕方なく身を委ねて転移することにした。着いた先は、建物の中だった。大きいデパートの4階付近に転移させられた。転移後に鳥居は消えてなくなる、さっきの場所に行かせないための一方通行ってわけか。


 バーチャルとはいえデパートの中は明るい。もちろん、物を壊せば壊れるのは当たり前だ。これも実戦の為のホログラムなのだろう。


 

 僕が少しデパート内を歩いてるところ、それはすぐにやってきた。後ろから足音が1つ2つ…3つ4つ…、参加者は僕とましろ、ラルニ、伊月さんの4人。だけど4人目の足音が聞こえる。どうやってるのかは分からないが、その程度では僕を紛らわせることは不可能だぞ。

 

 まだまだだ…

 目を閉じた一瞬だった。一瞬で鳥居が出現して、先程の交差点に着いた。確かに人の気配はあったけど、攻撃してくる動作はないし、わざわざ外に出す必要もない気がする。


 あれは…ラルニのドローンか、なんでこんなところに飛んでるんだ。このドローンは本人を映してこそ本領を発揮するものを。待てよ、このドローンは僕を見ている。もしかして伊月さんの参道って…


 そう思った時にはまた別の場所に転移していた。仮説は当たっていた。伊月さんの参道は対象の姿を直接見る・ドローンや監視カメラで見ると転移させることができる。


 本人が行ったことのない場所はいけないと言っていたが、あらかじめラルニのドローンを四方八方に拡散させて、ドローンカメラで場所を見れば「行った」判定になるというのか。



伊月:何かお考えですか?


 直接出てきてよかったのか?ましろやラルニの姿がないようだけど。


伊月:これも作戦のうちです。


 なら、遠慮なく伊月さんをぶっ飛ばすとしようかね。僕は伊月さんに向かって殴ろうとした。バーチャルの世界だから別に痛い感覚はない。


 こんなんで終わるのかと、拍子抜けなところはあったが、せっかくのチャンスなので確実に仕留めていく。

 

伊月:甘いですね…夏希さん。


 目の前に鳥居が出現した。即時展開の場合は近くに転移するときが条件であるが、それでは何も状況は変わら…


 僕が伊月さんを殴ろうとしていた右手が鳥居に入ると、何故かその右手は自分の目の前に出てきた。反動で止まることができず、自分で自分を殴ることになった。


 これは、ミラーってやつか。転移先を同じにすることによって起こりうる技。僕が伊月さんに近づけば、多分発動する。



ましろ:困惑中悪いけど、下向いてたら視界がお釈迦になるよ!


 今度はましろが出てきた。ましろの現象は初撃を受けなければいい。すまないが、こんな簡単な攻…


ましろ:おりゃ!


 僕はましろの初撃を受けてしまった。僕がましろに集中してるときに、伊月さんがいつの間にか転移させたのだろう。転移時は少し頭の回転にラグができる。


 一瞬の思考が止まることで、ましろの初撃から数撃まで受けてしまった。だが、ましろの連打はコンボが続けば強くなる事から、ましろがコンボできない位置まで移動すれば。


 いや、ダメだ。移動しても伊月さんの現象で強制移動させられる。後ろに下がっても前に転移させられると、ましろの連打が続いてしまう。


 ならば…「風鈴の籠」


ましろ:やるねぇ。


伊月:視界が遮られたら見えません、よく考えましたね。ですが…



 風鈴の籠で強制的に僕だけ中に入り、一人の空間を作ったが上に鳥居ができていた。


 僕の「風鈴の籠」は原則として空と地面には弱い。風の壁が上下にはないから侵入させる。だが、そこから来たのはラルニの…「ラブリィ・ビート」?!


 攻撃も転移させることができるのか伊月さん。そうなればまずいことが起きる。「風鈴の籠」は内側の壁は強固なのだが、外から強いダメージを与えると風が途切れてしまう。


 「風鈴の籠」が解除されると僕を中心に鳥居が展開されていた。僕は彼らの視界を避ける為に「風鈴の籠」を発動させたのに、逆に僕が見てない隙に鳥居を作られてしまった。


 すべての鳥居はラルニに続いており、僕を中心に「ラブリィ・ビート」が放たれる。


 普通のヒーローならここで負けてしまうが、僕には「浮遊」があるから問題ない。とりま浮遊を…


 僕が浮遊をした時、地面に激突してしまった。そうだった、伊月さんがいれば浮遊した所で転移されられてしまう。


 「風鈴の籠」をもう一度出そうにも、ラルニの「ラブリィ・ビート」のせいで簡単に解けてしまう。


ましろ:もう手はないって感じ?


伊月:少し物足りないですね。


ラルニ:やっほ〜!ラルニちゃんも鳥居からそっちの景色見てるけど絶望って感じ?


 今の状況を表すなら…「詰み」。将棋の王が飛車や角、銀や桂馬に王の移動先を制限させられてるようだ。


 1手あれば…なんて、王の前に歩を1つ置いたとて、この状況が変わることなんてない。ならば奥の手でダークヴェンダマイズにした時のあれを使うか…


 いや、あれは極力使わないと決めたんだ。僕の現象は風おこし。それ以上でもそれ以下でもない。落ち着け、何か策があるはずだ。


伊月:では…勝負ありということで…


 待った!

 まだ終わっちゃいない。


ましろ:どうして?今のナツキは詰んでるんだよ。



 僕は周囲の風を集めて竜巻のようなものを展開する。名を「風喰(かざはみ)」


 「風喰」は僕を中心に高速で回りだす。それにより伊月さんの鳥居をすべて消して、伊月さん本人も「風喰」に巻き込ませる。


 伊月さんの鳥居は制約として、展開するのに集中力が必要だ。今はこの高速で動く竜巻にのまれる事により、鳥居を展開できない状態にする。


 だけどこの竜巻は竜巻じゃない。「風喰」は風を喰うと書いて「風喰」。周囲の風を巻き込んで回転するので不規則に動く。


 僕の周りを右回転で回っているのなら、周囲の風は逆向き、縦・横・斜めに動いている。


 この「風喰」を展開した時、転移先のラルニも巻き込んだ。伊月さんの現象は確かに有能だけど、それだけ転移先を展開しすぎると逆に利用される。


ましろ:まだだ!


 この状況においてまだ、手があるのか。

やはりましろ…君を弟子にとった甲斐がありそうだ。

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