第16現象 学生ヒーロー科 1年生
日本の現象発現は海外よりも遅く、今から22年前に遡る。最初の現象発現者は水を体から出すことのできる者だった。
それ以降、突如として各地で発現者が現れたことで「非科学現象組合」という組織が日本にできた。
今では学生も現象を持っていたら「学生ヒーロー」としてヒーロー活動ができる時代になった。僕もそのうちの1人だ。
地元を離れて東京に1人で引っ越した。最初は不安があったけど、高校生活が思った以上に充実したことで不安は解消されていった。
僕のヒーロー登録は既にあの時で済んでいたらしいので、スムーズに事を運んだ。僕の場合は特殊だったので「非科学現象組合」に直接出向くことになった。
非科学現象組合は東京タワーの近くに本部が建っており、ヒーローのみ非科学現象組合のパンフレットを渡される。ここには非科学現象組合の階層の詳細が載っている。
なんでヒーローにしかパンフレットを渡さないのかと言うと、最後の欄が該当する。ここに載っているのはアンチヒーローや悪人を閉じ込める無限監獄「深層拘束監獄」があるからだ。
非科学現象組合は64Fある高層ビルだが、全長で見れば富士山より高い。それは「深層拘束監獄」が関係している。
深層拘束監獄はB1から始まり、下を見ようとしてもどこまで続いているのか分からない。ただ分かるのは、ここは単なる監獄ではなく、世界各地のアンチヒーローや悪人を収容している場所になっている。
ここの地下の最下層にいるとされているのが、かの有名な最悪最凶の元ヒーロー「黒神」。
黒神はアメリカ在住時、現象が発現した。それ以降現象発現の波に乗るように悪いことに手を染めて大犯罪者にまでなってしまった。
とある時期をキッカケに悪事を辞めて、自ら非科学現象組合の「深層拘束監獄」に収監されに行った。
なんで自首したのか未だに分かっていない。だが分かりたくもない。彼は今、何を考えているのだろうか。
地下と思われる場所にて…
黒神:地上界がざわつき始めたか
蟻塚:あはは…、我々の計画は順調だ
ダーク:その未来は遠くない
雨宮奏視点に戻る
僕は非科学現象組合の3Fにあるヒーロー登録局に向かう。ここはヒーロー登録・認定・ライセンス発行を行う場所である。現象の測定から健康診断、コスチュームの申請までヒーローになるまでの手続きがここで全部できる。
2Fは現象相談・市民支援センターになっている。現象に関するあらゆる相談を受け、市民の問題やサポートをするフロアになっており、専門の相談役やカウンセラーが常駐して安心して相談できる環境を提供している。
僕の現象は
現象名:反響
分類:物理型現象
危険度:Ⅲ
発現したての頃は、無意識にガラスを割ってしまう程使い慣れていなかったが、とあるヒーローとの出会いをきっかけに改善されていった。
登録は無事済んだ。
この後行く場所があるが時間があるので、ゆっくりしようと思う。
僕のヒーロー名はアリア。現象が口から音波を出して音を奏でることから付いた。少し可愛すぎな感じがするけど、僕は好きだよ。
このヒーロー登録局には現象発現者以外の人もたまに来る。学生が多い。理由はヒーローになりたい・もしかしたら現象発現してるかもっていう人だ。
ヒーローは原則として現象者に限られるため、非現象者(市民)はなることができない。仮に大金持ちで機械を体に装着して戦う事ができても、現象ヒーロー保証が付かないので、怪我したら自己責任。
ヒーロー登録してないのに活動したら悪人判定で「深層拘束監獄」に投獄されることになる。
殆どの学生はヒーローになれば儲かる・楽になれると考えているが、実際そんなことはない。子供が夢見てなれる立派な職業とは呼べない。
儲かるのはトップの中のトップのみ。例えるなら日本人が2億人(2087年現在)が全員ヒーローをしていたなら、この2億人のうち1,000人は儲かると言ってもいい。
それ以外のヒーローは毎日が地獄のような日々、普通に会社員やっていたほうが楽なほどだ。事務所を設立してスポンサーがつけば別だけどね。
その点「LAST HERO JAPAN」はアンチヒーローを複数捉えている実績があることで、スポンサーを貰っている。今では地元で一番のヒーロー事務所に成長している。
時間になったので、僕は目的の場所に行く。僕の通う高校にはヒーロー科というのがある。東京じゃ珍しくないが、人数は少ない。それだけ現象発現者がいない証拠だ。
現象は生まれ持っての才能とかじゃなくて、突然発現するから人工的に増やすことができない。たとえ、現象者が子供を生んでも子供が現象を受け継ぐことはない。
その子どもの親が現象者でも現象が発現する確率が上がるわけでもない。なんで突然発現するのかは未だに解明されていない。
ヒーロー科と言ってもヒーローだけが通うわけではない。元々の高校にヒーロー科という科が追加されただけだ。
ヒーロー科のクラスの人数はどうなっているかと言うと、僕を入れて5人しかいない。この学校のヒーロー科は5人だけど、他の高校は10人のとこもあれば1人のとこもあるらしい。
先生曰く…
現象者は決して多くなく、その中でも学生ヒーローを志願し、適性審査を通過した者だけがヒーロー科へ入学できる。
ヒーロー科の授業自体は普通科と何も変わらないけど、実技が実際の現場に行って先輩ヒーローのパトロールに同行したりする。
殆どの授業が実技で
・パトロール同行
・現場の避難誘導
・災害対策訓練
・後方支援
・先輩ヒーローの補佐
などがある。
学生ヒーローは学校に通いながら、学校の授業の中でヒーローをするものだ。だから放課後や休日、個人の判断によるヒーロー活動はしてはいけないんだ。だけどヒーロー科には特典みたいなのもあるんだ。
まず1つ目は寮の費用が無償なところ。高校の寮の費用が一切かからない。
2つ目は学生ヒーロー手当があること。学生だからって言っても、ヒーロー活動してるのには変わりないことから非科学現象組合から月々5万円のお給料が出る。
だから学生のうちに現場を学んでお金を十分に貯めることができる。
当然普通の学生の一部は批判する人もいる。ヒーロー科だけズルい…と言う人がいるのだ。
僕はヒーローになりたくて来ているが、そうでない人達もいる。出稼ぎでヒーローになる人もいる。家族を養う為に自分の命一つ犠牲にするって人だっている。だから「ズルい」って感覚は僕には分からない。
そういえばこの2年で新たに現象危険度が変わったことは言ってなかったね。現象危険度は現象者の強さを簡単に表す指標みたいなもの。
あくまで指標だから、一番下のⅠでも本人の現象の使い方ではⅠ以上にできる。今まではⅠからⅤの段階だったけど、Ⅶまで繰り上がった。これによりヒーローやアンチヒーローの危険度が変動し始めた。
Ⅰ日常レベル
Ⅱ警察対応レベル
Ⅲヒーロー対応レベル
Ⅳ都市災害レベル
Ⅴ国家危機レベル
Ⅵ国際危機レベル
Ⅶ世界滅亡レベル
これの他に悪人・アンチヒーロー・フェラム限定になるけど別の危険度もある。上からSSS+で下はC−まである。
当然ながら「黒神」は現象危険度レベルⅦで危険度SSS+。
だけど彼が何を犯したのかメディアでは放送されていない。意図的にメディアの放送を遮断して捕らえたのだ。
だが、被害は絶望的でアメリカを含む国連のトップクラスヒーロー達が束になってやっと抑える事ができるくらいの被害だった。
僕は思う。非科学現象組合もきっと思ってるが、あの深層拘束監獄で未だに捕らえられてるのは逃げれないからじゃない。彼の気分で脱走していないだけだ。
正直、深層拘束監獄が黒神を抑えるだけの戦力があるかと言われるとそうでもない。他のアンチヒーローを捕らえるだけで精一杯にも見える。
だから彼が監獄から出たときは、終わりを意味している。その前に僕らヒーローが力をつけて必ず食い止める。
話がそれたので戻そう。
僕のクラスは僕を含めて5人。僕は未だに馴染めていない。それは彼らも同じ、違う場所から集まった人達だからだ。
同郷や近しい地域に住んでいたなら話も合うのだろうけど、こうも全く違う他県から集まることは珍しいらしい。
僕はいつものように教室に入る。ヒーロー科の教室は他の教室と違って拠点兼教室になっている。だから机や椅子といった堅苦しいものは無くて、ソファーとローテーブル。大型モニターや作戦用ボード、ロッカーがある。
僕はこのヒーロー科に暮らして2週間経つが、まだクラスメイトの事をよく分かっていない。ある意味、一番話しやすい人は白雪氷華さんだった。
いつもソファーで本を読んでいる子で、話しかけると…
白雪:あぇ…その…、よ…よろしく。
白雪氷華 身長154cm
北海道出身
ヒーロー名フロスト
現象名:氷結
分類:物理型現象
危険度:Ⅱ
氷を生成・射出する遠距離型。
本人は人見知りでシャイな部分がある。実技でも連係を取る時、僕が標的を見つけても…
白雪:ふぇっ、りょ…了解しました!
通信機越しでも話すのが苦手らしいヒーロー科クラスの紅一点。
次はいつも誰かに話しかけないと気がすまなそうな人。
難波大和 身長170cm
大阪出身
ヒーロー名ビースト
現象名:加速
分類:生体型現象
危険度:Ⅰ
自身の移動速度やパンチ、キックの速度を加速させる近距離型。
関西人なこともあって、大阪の話ばかりしたり、一方的に話しかけてきては次の人に話しかけるフランクな奴。
この人はよく分からない。本当に分からない。入学してからひと言も話さない沈黙を貫いている人。
鉄城鉄真 身長186cm
愛知出身
ヒーロー名タイタン
現象名:鋼鉄
分類:生体型現象
危険度:Ⅱ
褐色肌と高身長が特徴的。運動能力抜群で現象使わない素で強い。
実技では近距離のビーストこと難波大和よりも前線にいることが多い。現象を活かしてみんなを守るタンクになるが、フィジカルが強いので壁をタックルで破壊したり、敵をぶん投げ飛ばしたりする。
あまりにも沈黙になるので怖そうに思えるが、白雪が任務で敵に囲まれたら真っ先に助けに行ったり、大和が近距離で敵を抑えていたら連携を組んで戦ってくれる。
学生ながら頼れることで、ヒーロー科みんなの兄貴分になっている。
最後に、教室の隅っこでヘッドホンをつけてフードを被ってる奴がいる。
神代零 身長174cm
東京出身
ヒーロー名ヴェイル
現象名:幻影
分類:精神型
危険度Ⅲ
分身を作る
この中ではトリッキーな現象。普段は現象を使わず1人でいることが多い。任務も1人だけ別のとこでサボることが多く、手を焼いている。
孤高の一匹狼みたいな部分があるが、同じクラスメイトなので仲良くしたいところではあるが。
改めて僕の紹介もしておこう
雨宮奏 身長165cm
鹿児島出身
ヒーロー名アリア
現象名:反響
分類:物理型現象
危険度:Ⅲ
口から音波を放つ。近距離中距離に適して1人でも複数人にも使える万能型。音波で索敵をしたりできるのでサポートよりになるかな。
とまぁ…紹介も済んだことだし、今日の予定は実技から始まる。今までの任務は訓練で僕らの現象の力や能力を把握する時間だった。
今回は改めて現象を確かめるべく体力測定が始まる。「LAST HERO JAPAN」も種目は途中であるが測定した動画が2年前に投稿されており、注目を浴びていた。
僕らがやる種目は非現象者の体力測定と現象者の体力測定が合体したものだ。
・圧力測定
・20mシャトルラン
・50m走
上1つが現象者専用測定で下2つがみんなも見たことある普通の測定。
先ずは現象を使わない普通の測定から始まる。50m走、中学の時は現象を使うことがなかった。だけど高校のヒーロー科に入って初めて現象を使って測定する。
大和:ワイが1位に決まってる!
鉄城:…
白雪:転ばないよう…頑張ります。
神代:チッ…
機械の合図とともに一斉にスタートする。一番先に走り出したのは以外にも鉄城だった。大和の加速は一気に速度が上がるわけではないので、少し時間が経ってから首位にたつ。
僕も音波を後ろに飛ばして反動で前に飛ぶ。白雪は自分のレーンの地面を氷にしてスケートみたいに滑ろうとするが、うまくいかずコケてしまう。
白雪:ひぃ!痛いです…
神代は普通に走る。
50m走結果
1位難波大和 2秒08
2位鉄城鉄真 5秒50
3位雨宮奏 6秒72
4位神代零 8秒00
5位白雪氷華 12秒29
大和:ワイが一番や!
大和の加速は中盤から後半にかけて一気に速くなる。それはパンチやキックにも影響するが、自身の耐えれるスピード内にしないと関節がぐちゃぐちゃに曲がるらしい。
鉄城に関してはただのフィジカル。フィジカルで速いだけのバケモン。
次は20mシャトルランだ。
中学の頃も嫌いだったけど、現象を使えるようになってからも嫌いだった。けどヒーローって体力勝負なとこがあるから最低100は行きたい。白雪みたいに遠距離型は50あればいい方かな。
これも大和が難なくトップに行くだろう…そう思った。
始まると全学生が聞きたくないシャトルランのドレミファソラシドが流れる。最初は歩き程度でどうにかなる位ゆっくり始まる。
大和はこの間に足を速く動かし、ゆっくり前に進む。地団駄しながら加速していき、後々の為早めに準備していた。
50を過ぎた頃だったか、白雪が少し息を荒げていたが流石学生ヒーローってだけあって、あまり動かない遠距離型でも体力がある。
大和と鉄城は余裕の顔を見せていたが、神代は白雪以上にバテていた。案外体力無いんだね。
僕はというとそこまで疲れていない。元々音波を口から出すから肺を鍛えていたこともあって、持久力は少し自身がある。
70過ぎたあたりで神代がダウン。まぁ50でバテていたのを根性で+20できたのは凄いことだ。彼の分身は彼の身体能力と同等の力を引き出すから、体力面は課題になるだろう。
82くらいで白雪がダウン。神代とは12程差をつけてダウンした。依然、大和と鉄城は息を荒げる事なく余裕の表情をしていた。僕もそろそろキツくなってきた頃だ。
大台の100を越した辺りで僕は止める。これ以上声を荒げると現象の音波にも影響する。だが先ほどと変わらず2人は悠々と走っている。
難波大和は加速で有利に思えたが、加速するだけで自身の体力が上がるわけではない。それに加えて、加速というものはいつか減速する。最初こそ素早く動いていた足は段々回転速度が落ちていくのが分かる。
それに比べて鉄城は何も変わらない。鉄城は「LAST HERO JAPAN」のメンバー兼非科学現象組合の社員の伊月さんの親戚にあたる人物で、ラルニさんの体力測定動画で見せた伊月さんのフィジカル無双でわかる通り、鉄城も同じようにフィジカルバケモンなのだ。
まぁ、前線のタンクが一番体力あるのは頼もしい限りだ。
130を過ぎた辺りで大和は失速する。足の回転の加速は一気に減速していき、急ブレーキの様に止まる。
鉄城は息を荒げることはなく学校のチャイムがなる時間を区切りにシャトルランを止めた。
結果は
神代 70回
白雪 82回
雨宮 100回
大和 130回
鉄城 357回
鉄城に関しては現象いらずのフィジカルバケモン。僕が100回と運動してる割には少ない方だった。
次は圧力測定に入るが、次の実技の時間の前に休憩を挟む。
そうそう、先に言わないといけないことがあったんだけど、僕らのヒーロー科には先生というのは居なくて毎回教室の大型モニターに予定が表示されるんだ。
だから次は休憩が20分あって、その後の実技で民間のヒーローが圧力測定の記録と補助をしてくれるらしい。




