政変の前兆
戒厳令と都市封鎖は解除されたが、不穏な空気は未だ残っていた。
表面上はうまく事態を終息させたように見えるが、海軍が陸軍を無理矢理押さえ込む形となった。陸軍は今のところ目立った動きはないが、彼らが本気で反旗を翻せばクーデター所の騒ぎではない。
幸い、王室側に味方する王党派議員たちは今回のクーデター未遂事件に関わっておらず、政治的発言件は健在。
親衛隊に吸収した近衛兵や治安維持部隊も当然関わっていない。つまり、海軍や政治界からの圧力がかかっていない今のうちに新しく創設した親衛隊に、議会の承認を取り付け、うまいこと陸軍から選りすぐりの兵たちを引き抜き、戦力の増強をはからなければならない。
「今俺のすべき仕事は、エリカやエルト君たちにできる限りの選択肢を残してやること。有事の際、自由に動かせる軍団を作ることだ」
「はは。わたくしバドゥーもお手伝いさせて頂きます。政治家への根回しはお任せ下さい。」
バドゥーは共和国で官僚職を勤めた経験がある。王党派議員たちとの会合で、親衛隊の発足とそこに生まれる利権やポストを説明し懐柔。また、エリカ臨時女王とのコネクションを欲しがる新参者を取り込む政治工作にも成功した。
~ 親衛隊庁舎予定地 ~
旧近衛師団庁舎前に、エルト司令官以下、20名の高級将校が集められた。エルトの訓示が終わる。多くの隊員、関係者が顔馴染みだ。
「すまないエーベルト大佐。休めるのはまだ先になりそうだ」
「いいんですよ。私はベットの上で静かに死ねるとは微塵も思って生きてませんし。それに、死んだ娘に新女王はよく似てましねね、、、」
エーベルト大佐は出世のため、娘さんと過ごす時間がほとんどなく。娘さんが急逝した時にそれを物凄く後悔していた。
そういった個人的な感情からも、現場復帰を望んだのだろう。
「親衛隊の戦車指揮官。任せます」
「は!司令官。慎んでお受け致します。」
ユーキも遅れてこの場に現れ、エーベルト大佐との軽い面談を終えた。その足で、ユーキは王宮に設けられた自室ではなく、ひさしぶりの自宅へと戻った。
女中3人が久しぶりに帰宅したユーキに驚く。
「お久しぶりですユーキ様。急ぎ夕食の準備をしますので、自室でおくつろぎ下さい」
「あぁ、頼むよ」
ユーキは廊下をフラフラと歩き、自室のベットに倒れ込んだ。久しぶりの自宅。落ち着くな。そう考えながらうとうとしていると部屋のドアをノックする音が聞こえた。
「誰だ?飯の時間か??」
夕食の仕度はこんなに早く終わるのだろうか?
「私ですよ。入っていいですか?」
その声は。ドアが開くと暴動当日に重症を負った秘密警察長官が入室してきた。
「長官?!重症のはずでは?!」
「ええ。ですが、我がエリゼ女王の受けたダメージに比べればこんなもの屁でもない」
いや。前頭葉の半分がダメになって、腹部に6発喰らったら普通人は死ぬよ。ほんとエリゼラブ過ぎて、死ぬに死にきれんモンスターってところか。
「さて、今回は何も退院したことを報告しに来たわけではありません」
(いや、絶対退院してないだろ。頭の包帯から液体流れ出てるし)
「海軍軍令部の犯行と断定できる証拠品を集めて参りました」
長官は証拠品の写真と資料を提示した。
なるほど、陸軍から出た暗殺協力者の名簿は海軍でしか使われていないタイプライターとインクで製作たれたもの。劇薬に使われた素材は、海軍の炭鉱から検出されたに酷似か。
「あと、暴動当日に使われた銃弾や爆弾の特徴から海軍関連の工場製品である可能性が高いですね。」
銃や爆弾は、基本的に陸海同じ規格のものを使っているが微妙に作りが違うと。
「しかし、こんなあからさまな証拠を奴らは残すもんかね」
「おそらく、海軍は今回の一件で政界への陸軍の影響力を完封し、主導権を握るという絶対的な自信の現れといったとこでしょうか。」
「なるほどね。仮に気づいた者がいたとして、あの一件は命の危険を感じさせる脅しになるか。」
「ええ、ただ奴らは近々我々を消しに来ますよ。その後は、政治の事を何も知らないエリカ臨時女王を利用するでしょうね。」
長官は、海軍の利権が広がっている事を指摘した。水素工場に、燃料アルコール製造用の作物の栽培拡大。鉄や石炭などの鉱山資源を隣国に輸出など。
軍事経済圏は小国レベル。そこに海軍の身内や政治家の親族が要職に就任。巨大なコネクションとネットワークを形成か。
「殺されるね。これを阻もうとしたら確実に」
「ええ、事実エリゼ女王は虎の尾を踏んだ」
相手が何か仕掛けて来るまえに、こちら側から反撃しなければならない。ユーキは覚悟を決め、長官に手の内を明かす。
「実は、数日前から海軍と距離のある国会議員らに根回しを始めた。近々我々王党派から出される法案が通過し、親衛隊が正式に創設される。」
「流石元参謀殿。それで、その後の動きはどうされるのです?」
「ああ、それはn「ギャアッ!侵入者!」
廊下の方で女中が絶叫する。銃声が我々の部屋にも聞こえる。
ガタン!ドタドタドタ!!
廊下を複数人が駆け、手当たり次第に部屋を開け、中を確認する音が聞こえる。
「くそっ。シェルター逃げるぞ」
ユーキが暖炉横の薪置きに隠されたペダルを踏むと本棚が半分回り、シェルターが現れた。
「長官早くしろ!こっちだ」
ユーキは長官を誘導し、本棚を元の位置に戻すレバーを引いた。二人が通路奥に進みシェルター内に入った時、部屋のドアが回される。唯一鍵のかかった部屋に確信を持ったのか、ドアが全力で蹴破られる音がした。
侵入者たちは、ベッドやクローゼットに向けて銃を手当たり次第に乱射。その後、ユーキの遺体を確認しようとしたが部屋に誰もいない事に気づく。
「くそっ!逃げられたか。これ以上長居はできない。退くぞ!」
襲撃犯はユーキがいないことを確認し、急いで引き上げていった。
「足音がなくなった。おそらく襲撃犯はもういないだろう。」
「そうですね。こうなると思い、事前に部下を家の回りに張って置きました。おそらく、暗殺実行犯たちの追跡を始めている頃でしょう」
シェルターの外に出ると煙が立ち込めている。家に火をつけたか。証拠を残さないつもりなのだろう。
新婚時に建てた家は焼け落ち、思い出の家具も焼失したが、今は嘆く暇もない。ユーキは襲撃にあった日から、警備も万全な王宮で生活することになった。




