革命か政変か
親衛隊規則一条。
「時の権力者に忠誠を誓うべし」
この一言が後の政治を大きく変えた。
季節は9月。西方唯一の足掛かりであった共和国が崩壊して約3ヶ月。エルフたちのガルマニア帝国は人類との最終決戦に望むべく100万名規模の大攻勢を準備していた。
人間とエルフの勢力圏の間には自然の要塞、アルドー山脈がそびえ立ち、山脈の冬季の気温は-20を下回る。
山脈の鉄道網を空爆で破壊したこともあり、敵軍団が山越えを行うには気温の上がる春。
つまり、自然の要塞が我々エルゼ国に、6か月後の3月まで戦争準備期間をあたえたのである。
「海軍大臣。おそらく帝国の侵攻は3月までないかと。」
「ふむ。であれば、ハイドリヒ中将。時間を味方につけるのだ」
「仰せのままに」
~ 王宮、エリカ女王の部屋 ~
「これは海軍に切れ者がいるわ」
「そうだね。だいぶまずいよ」
エリカは先日、正式に親衛隊司令官に就任したエルトに新聞記事の一面を見せた。
「エルゼ王都を解放した誉れ高き海軍は、この度志願兵を募り陸戦隊拡充を行うか、、」
「本来、海軍陸戦隊はお母様の意思で創設された、要人暗殺や敵地潜入を行うエリート部隊。数ヶ月の訓練で本来の特殊部隊スキルを身につける事など不可能。つまり、海軍の意図は、陸戦隊の一般部隊、つまり通常歩兵の拡充を始めたのよ。」
「だよなぁ、、既に王国中の新成人たちから3万人近い応募があったとか。革命でも起こす気なんじゃないか??」
「あり得るわね」
「現在の勢力は、陸軍は最大で20万。海軍は施設従業員合わせて5万人。その海軍に新たな募集兵が加われば8万人か。」
「そうね。でも物事はそんな単純じゃない。陸軍の大半は西のアルドー山脈付近の要塞線、南部都市の防衛に従事している。だから、陸軍が即動かせるのは6万弱。」
「それに対して海軍8万ねぇ、、うちの親衛隊は頑張って15000名かぁ、、!?!そうだ、国防動員法を使えば、海軍の属さない参謀直下の国民突撃隊が組織できる!そうすれば、数は20万人近くいくぞ!」
「エルト、お前はアホか。国民突撃隊は最後の手段だろ。それこそ崩壊した共和国も末期に組織したが、成人の16~65歳まで動員したとて素人の集まり。なぶり殺しにされるわ。」
「せめてお母様が健在で、私が軍人のままなら暗殺や斬り込みができるのに、、」
(本当にやりかねないから怖いんだよなぁ。もっとしおらしくしてればただの美人なのに)
エルトは喉元まで出かかった言葉を飲み込んだ。
こうして、2人は持てる知識と経験を引き出し、多くの案を出したが所詮は若造の絵空事。実行したとしてもどれも勝算は薄く、最悪王政が妥当され、海軍中心の軍事国家樹立に繋がりかねない。
「お二人ともお困りのようで」
エリカ・エルト「秘密警察長官?!?」
「そんな驚かなくても。私はこの通り生身です。霊ではありませんよ。」
銃で頭を吹っ飛ばされ、腹に複数発弾丸を喰らい、最近まで行方不明になっていたと聞いたが生きていたのか。
「では、こちらをどうぞ」
「これは?!?!」
すぐに燃やせるよう、薄い紙で印刷された作戦案。
「ユーキ参謀。いや、現女王補佐官殿が作成した斬首作戦です。」
海軍大臣、補佐のハイドリヒ中将。黒幕を支援する海軍派の政治家6名のリスト。
「爆殺計画か、、」
「ええ、陸軍から離れ新しいポストを手に入れたアルト君のもとに、そのうち海軍から仲良くなりたいと考える者たちがちかよってきます。そこで、うまいこと彼らを引き出してドカーンとねwww」
こいつ、実行役が他人の俺だからって楽しそうにはなしやがって。でも、一番確実なのはこの手しかないか、、、
「海軍の技術供与を受ける名目で集め、その利権をちらつかせる事で政治家や大臣もろとも爆殺☆あー、なんと劇的なのでしょう!?」
(このひと(長官)、前頭葉やられてて発言に自制が効かなくなってない??)
少なくとも、現状打破の可能性は大いにある。海軍は陸軍と距離を置いた全ての組織、利権にがめつい。そこをつくのは最善策といえる。
「協力しましょう」
エリカの一言で決まった。
親衛隊規則第一条。「時の権力者に忠誠を誓うべし」
エルトは早速、海軍の中将クラスから協力関係の打診を受けそれを快諾。親衛隊航空部門創設案と飛行船の導入を打診。これに、利権政治家が反応し海軍に協力するよう圧力をかけ始めた。
「ここまでは筋書き通りと」
(でも、なんで海軍は我々とあそこまで親衛隊にすり寄ってきたんだ?秘密警察長官は何を掴んだんだ?)
~ 三日前、海軍基地 ~
「大変です!エディン技術少将!空襲です!お逃げください!」
「空襲だと???」
海軍基地の軍艦や高射砲が一斉に対空砲を撃ち始めた。
「なんだあれは?!?!」
空には20隻近い空中戦艦。もうスピードでこちらに飛来し、爆弾を投下し始めた。
近くの輸送船3隻が積み荷に引火し、轟沈。
水素工場の第一プラントが誘爆、轟音が響き渡る。露天の飛行船やむき出しの弾薬が誘爆、辺り一帯がヒノウミに包まれる。
「あれは、帝国の第三軍軍旗?!」
我々海軍が帝都を蹂躙した際、応戦した部隊の旗だ。くそっ。報復攻撃にきたのか??
噂には聞いていたが、共和国防衛戦で激戦地になったアルデンの森。あそこには神話時代の生物たちが眠っている。まさか、飛行船の動力源、魔石として使ったのか??
敵の大艦隊は爆撃を行い、悠々と引き上げていく。
「陸軍は何をやっている!!南部の防衛戦はどうした!!!」
「それが一切の連絡がなく、、」
海軍のスパイからも連絡がなかった。つまり、おそらく奴らは南部の砂漠を通らず大陸の東海岸沿いを飛来してきたのか。片道1か月近くの距離をよくもまぁ執念深くやってきたもんだ。
「このままでは海軍の威厳に関わる!!大戦艦ノーチラス号は無事か?!」
「はい、艦ドックで爆撃による被害は軽微と。」
「よし、41cm砲で応戦しろ!奴らを吹き飛ばせ!」
エディンは燃える海軍基地内を駆け、ノーチラス号の指揮所にむかった。
「対空砲弾装填!前部2基、6門すべての砲を仰角最大!」
「了解!全部2基装填!右砲戦!主砲旋回!」
ボイラーが唸りをあげ、2000トン以上の重砲が旋回を始めた。命令が下り、距離測定の照準後第1砲塔左1門が発砲。続いて間隔を明け、1門ずつ射撃を開始。
~ エルフ空中戦艦部隊 ~
「閣下、作戦は成功です。」
「ああ、皇帝も喜ばれるはずだ、、、なんだ??敵はあんな離れても砲撃を続けるのか?」
「人間はおろかですね。この距離、この高度。届くはずもないのに、、、閣下伏せてください!」
「!?!?!?」
"ズドーーーーン!!!!"
空中戦艦の艦隊上空50メートルで41cm砲弾が炸裂、その断片が容赦なく艦隊に降り注ぐ。
続いて、艦隊の左舷5メートルで炸裂。小型の艦が爆発の衝撃で自壊し始めた。
残りの4発も至近で爆発。艦隊にダメージを与える。
海軍基地のノーチラス号内では、歓声と雄叫びが響き渡る。
「敵艦隊高度をあげ始めたました!」
「次弾装填!最後の砲撃だ!よく狙え!」
この戦闘結果は以下の通り。
王国海軍
水素プラント1区画、海軍基地1/3消失。
飛行船5隻爆発炎上。弾薬1ヶ月分喪失。
死傷者2580名。
帝国空中艦隊
砲撃により、1隻墜落。
8隻に損害も航行可能。戦闘能力喪失。
死傷者180名。第三軍司令官右腕喪失重傷。
「なるほどね、つまり海軍はこの空襲を情報統制で外部に漏れないようにした。そんで、資金と協力者が必要と」
「そーいうことです。」
業務が終わったエルトは会員制のクラブに呼び出され、事の顛末をエディン技術少将から聞いた。
「でも、あんた海軍の人だろ。俺にそんなこと話していーのかよ」
「ええ、ユーキ参謀にはお世話になったし、エリゼ女王には昔負傷した際大変お世話になった。あの方たちと海軍を天秤にかけたらそれはねぇ、、、」
~ 王都郊外、旧王族別荘 ~
「実施したのか??」
「ええ、3人暗殺しました。海軍も焦ってうごくでしょうね。」
二週間近く身を隠していたユーキに秘密警察長官は紅茶を啜り、海軍派議員3名の暗殺を報告した。彼いわく、海軍に一泡吹かせたい陸軍が事態終息後に全ての事実と潔白を国民に公表することを条件に、今回の暗殺を引き受けてくれたとのことだ。
「これで海軍は親衛隊に急速に近づくか。」
「ええ、なんならクーデターの実行を親衛隊と共謀し、陸軍を打倒したいと思うでしょうね。」
急いで軍拡を行い始めた海軍にスパイを送り込むのは容易だった。内部はかなり混乱してるらしく、情報が時間を立つごとに漏れ出てくる。
「というか、これは正気なのか?」
「やるんじゃないですか?追い込まれたネズミは何でもしますし」
王都から6キロ離れた地点には大きなボルム川があり、深さもかなりある。そこに、老朽化した巡洋戦艦オーロラ号を突っ込ませ、クーデターの際王宮や国会茂呂とも砲撃で吹っ飛ばす計画案が見つかったとか、、、。
王都に砲撃とか国家反逆罪で死刑一択だ。
海軍は、旧式軍艦の整備だといい大砲を新しいものに積み換えてる作業中らしいが。やりかねないのが怖いところだな。
「海軍は空襲で打撃を受け、資金的にも世間体的にもかなり焦っているのだろう。であれば、近日中に事を起こしかねないな」
「ええ、その前におそらく親衛隊と結託するために秘密会議を行うでしょう」
「そこに爆弾抱えたエルトを送り込むと」
胃が痛い。そもそも、エリゼがもっと回りに相談して海軍の増長を防いどけばこんなことにならなかったのに。あのアル中め。
エリゼの意識がかすかに回復傾向に転じたことから、長官は機嫌がいいが、この人も大概ヤバイやつだよな。
「予想よりも早く進みそうですよ。参謀」
長官は窓から入ってきた伝書鳩にくくりつけられた電文をよみ、そう言った。
「だから、もう参謀じゃねぇつの」
電文内容
「親衛隊と海軍大臣、中将利権政治家による秘密会議。明日午後六時」
「仕方ない。暗殺用の爆弾を容易。エルトに実行2時間前に渡す。あとは有事に備え、新型のロケット砲戦車をボルム川付近の茂みに待機。親衛隊は武装させ、何時でも動けるようにさせておけ」
ユーキはエーベルト大佐と親衛隊上級中将らに、国家非常事態にのみ治安維持活動として、国会議員でも嫌疑があれば逮捕・勾留を可能とする"ワルキューレ防衛法"の使用を宣言。
「いいか!政敵の暗殺後、速やかな政権運営を行うため元治安維持部隊に権限があった"ワルキューレ防衛法"に基づき、残った海軍派の議員を逮捕勾留せよ。」
「あー、エルト君にはこれをお渡し下さい」
「これは?」
長官がユーキに手渡したのは、火がいらない新型の爆薬。ちょっとした電気で発火し、黒色火薬の20倍近い爆発力を生み出すそうだ。
「なんでこんな物騒なもんもってるんですか?」
「ドワーフたちが、エルゼ国南部の資源地帯奪還が不可能になったときに備え、黒色火薬にかわるものを研究。その副産物だそうです」
小型のネジ巻き時計を細工し、指定時刻に電気が流れるようにすれば完成品になる。その加工とセットはこちらに任せるとのことだ。
「できる限り、足がつかないよう細工してくださいね。爆薬の予備はあと二つありますのでこれもお渡しします」
なるほど、長官が爆弾の完成品を手渡ししてこなかったのは暗殺に失敗した時、時計細工が一番足がつきやすいからか。
「わかった何とかする。 では明日の午後六時に合わせ、各自行動を開始せよ。作戦名はワルキューレ作戦だ」
こうして、海軍関係者を標的にした暗殺作戦が動き始めたのであった。




