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王都内乱

「はい、女王は一命を取り留めましたが意識回復は難しいかと」


エリゼ女王はドワーフの外交官との晩餐会でワインに毒を盛られた。エルフたちが両国の関係に亀裂を入れる為の陰謀。海軍予算の増加と陸軍予算削減に意を唱えた陸軍の仕業。


多くの憶測や陰謀論が囁かれたが、そのようなことはもはやどうでもいい。毒殺未遂で倒れたエリゼ女王には兄弟がいない。


ユーキ参謀は事件後その職を解かれ、新たに創設された女王補佐官に着任。軍の指揮権や政治議会における代理決定権を有する立場になった。


エリカは前線から引き戻され、強引に臨時女王に就任、ユーキは女王補佐官として軍務や政務を執行することとなった。


「父さん。今回の一件は、一体誰が仕組んだのですか」


「あいつ(エリゼ)は何時も顔色を変えず軍務や政務に励んでいた。敵は多かったがあまりその話をしなかったんだ」


エリゼは秘密情報は全て暗記し、読み終えた書類は全て焼却していた。おそらく、その中には、今回の事件に繋がる情報もあったはず。超人的な記憶能力に頼りすぎ、証拠を自ら焼却してしまうこともあるだろう。


治療経過を説明している医師によると、致死量の三倍はある劇薬を杯に盛られたと報告があった。

(普段から致死量のアルコールを接種してたし、毒に耐性でもあるのか、、)


医務室に入室してきたのは、いつもニヤケ顔で万年片想いの秘密警察長官が訪れていた。今回の件で長官は顔面蒼白、犯人の特定に躍起になっているらしい。だが、事件当日から一週間が経過したが全くと言っていいほど手がかりがないとのこと。


毒を盛れるとすれば、宮殿の執事や給仕ぐらいのものか。ただ、毒を盛る意図がわからん。

食事を提供する者たちは貴族階級でも、政治や軍と関係がほとんどなく、利権争いから遠い地方貴族を選んでいる。とすればやはり、、


「ユーキ参謀!一大事です!」


「なんだ?もう俺は参謀じゃないぞ!」


「失礼しました。ユ、ユーキ補佐官殿!先ほど宰相が銃撃を受け暗殺されました!それと、、」


俺は報告を受け、王宮南の城壁に走る。

城下を見下ろすと、政治家などの有力者が住まう南地区一等地の各所で火の手が上がっているではないか。


「あ、あれは銃声か?爆発音も?!」


「近衛兵!治安維持部隊も出動させろ!急げ!」


クーデターや革命鎮圧を想定した専門部隊が投入されたが、部隊が到着した時には既に実行犯たちは現場から逃走。行方をくらましていた。


「くそ!地下水道か?逃げられるぞ!」


ユーキのもとに次々と揚がってくる報告。

襲撃されたのは、海軍派の政治家10名、海軍の子息や親戚を持つ国会議員15名が射殺。または焼き殺された。

現場に居合わせた親族、屋敷の関係者はトータルで152名が死亡。おそらく、現場を見た口封じか。

また、女王毒殺未遂事件を調査していた秘密警察長官は寝室で撃たれ重傷とのこと。


「陸軍の仕業か?!」


陸軍に問い合わせても知らんの一点張り。

陸軍内、海軍内の不穏な動きを察知した参謀本部は無線でやり取りを記録していた。

特に慌ただしく、暗号で打電を送り続けているのは陸軍だ。


「治安維持隊!早急に議員や各大臣を国会に召集させろ!行け!」


安全確保と内乱鎮圧の名目で、全ての国会議員、陸海大臣を国会に召集し議場を近衛兵が取り囲んだ。


「大佐、療養中申し訳ない。直近まで共和国にいた君なら中央政府や陸軍と距離があったので信頼できる。」


「ええ、国の一大事にうとうと寝てられません。お声がけ感謝いたします」


負傷し休養していたエーベルト大佐は急遽現場に復帰、共和国防衛を担っていた戦車隊員たちで構成された戦車部隊で国会議事堂前の通りを塞いだ。


「誰も王都に入れるな!軍も入れるな!市民は戒厳令で外出禁止だ!」


王都は外部との連絡を完全に遮断。陸軍庁舎には将校と歩兵1000名、海軍庁舎には将校と警備兵があわせて500名ほど常駐している。

それに対し、王宮を守る近衛兵は3000名と治安維持部隊が1500名か。

万が一、王宮や国会に進軍してきても勝算は我々にあるか。

近衛兵と治安維持部隊には、旧エリゼ大隊の隊員たちが多く信頼できる。その点は一番の安心材料か。


「早急に、陸軍と海軍両者に対し取り調べとと証拠品の捜索、押収を行う。また、治安維持のため武装解除も実施する!急げ!」


海軍はこの申し出に即応じたが、陸軍は頑なに拒否。陸軍庁舎の門前には歩兵が常駐し、治安維持隊と一触即発。膠着状態はまる三日続いた。



「おいおい、陸軍の連中まだ拒んでんのかよ」

「はやく調査を受け入れりゃいいのにな。もう三日立つんだぜ。」


王都を取り囲む壁上にいた二人の治安維持隊員が雑談をしていると、他の隊員たちがどよめき始めた。


「お、おい!あれは!」

「ひ、飛行船だ!数は5隻!通常のよりも小型で高速の飛行船?!」


早く指令部と王宮に電話を!!

なに?有線電話が繋がらない?!

故障か?違う!何処かで断線しているぞ!


治安維持隊が伝令の早馬を出す中、高速飛行船が広場に着陸し、海軍陸戦隊が次々と飛びだしてくる。


「ユーキ補佐官!海軍陸戦隊が飛行船で王都壁内に上陸!これに反応した陸軍歩兵部隊が広場に出動。東地区で銃撃戦を開始しました!」


「な、なんだと?!海軍大臣、これは一体」


「私の消息と海軍本部の連絡が3日間途絶えたのだ。海軍基地からことを察した部隊が乗り込んできても不思議ではあるまい」


確かに海軍と陸軍は暴動の起こった当日、各部隊や基地に対して打電を打ちまくっていた。

それがいきなり音信不通になったら、不振に思った連中が動き初めてもなんら疑問はない。

だが、幾つかおかしな事がある。建造時期不明の高速飛行船、特殊部隊で構成された海軍陸戦隊の導入。

あまりに展開が早くはないか?


その間にも、陸軍歩兵600名と海軍陸戦隊320名が撃ち合い、民間人の死傷者も多数報告。

時間が立つに連れ陸軍は徐々に圧倒されていき、勝敗は2時間ほどでついた。


それも当然の話。海軍陸戦隊は元々敵地深くに侵入し要人暗殺。市街戦を想定した訓練を受けている。

塹壕や要塞線に立てこもる防衛戦術に重きを置いた陸軍とはわけがちがう。


「つい先程陸軍庁舎が陥落。海軍が陸軍の物と見られるクーデター計画案、エリゼ女王毒殺に使われた劇薬、そして暗殺関与の協力者帳簿を押収とのことです。」



暗殺協力者の帳簿を確認、その後、関与した国会議員や給仕全員が、暴動の夜に襲われ、死亡していた事が判明。


(これは陸軍による口封じか?)


証拠品が押収された陸軍庁舎に残っていた歩兵400名と高級将校20名はその場で陸戦隊員により射殺された。


(だとしても、この膨大な証拠資料を燃やさず、あっけなく射殺されるまで後生大事に保管するのだろうか?、、)


見かたによっては、悪の陸軍を正義の海軍が討伐したように世間の目から写るだろう。

それが狙いなのだろうか???

陸軍庁舎が占拠された当日。秘密警察長官の腹心で感の鋭い秘書官1名が行方不明となった。後日、本人の遺体とみられる残骸が豚小屋から見つかる。

故人のメモ帳には「軍事利権」と最後のページに書かれていた。




~ 事件発生から13日目 ~


「国会議員、各大臣の皆様。今回の事件。いや国家転覆を狙った陸軍のクーデター未遂は我々海軍によって阻止されました。我々海軍の揺るぎない正義が実行された事で平和が訪れたのです!!」


ワアアアアッッッ!!!

議場は海軍大臣の演説に拍手と歓声の嵐。

その日の投票で、陸軍大臣は議会の議決で更迭された。


「おお、来てくれたかバドゥー。」

「お久しぶりであります。ユーキ殿。」


議会に出席していたユーキの席に近づいてきたこの男。

バドゥーは旧エリゼ大隊で中隊長も勤め、エリゼからの信頼も厚かった。今は東エルフ共和国崩壊後、政務から離れ静かな田舎暮らしを満喫していた。


「悪いな来てもらって」

「いえ、暗殺未遂で女王の意識が戻られないと聞き二日間夜通し馬を走らせましたが当然の事です。」


「そういや、アルト司令官の嫁さんは元気にしているか?」

「ええ、私が今住んでいる田舎町の隣村に1歳のおこさんと静かに暮らされてます」


バドゥーと話している最中も、海軍大臣の演説に反応し何度も議会では拍手と声援が沸き立つ。


「にしても海軍大臣は演説の天才ですね」

「あぁ。次の宰相は海軍から出そうだな」


「それはそれでまずいですね」

「非常にまずい。いま海軍は陸軍を押さえつけられる立ち場にあり、誰も彼らの発言を無下にはできない。しかも海軍には好戦派が多いときた。」


事実、今回の帝国との戦争ももとを辿れば海軍の軍事行動が発端だ。そして、今戦争の主導権だけでなく、政治の主導権も握ろうとしている。


「陸軍は最大で20万。海軍は施設従業員合わせてせいぜい5万人。いざとなれば兵力で勝てなくもない。」

「本当に勝てますか?」


「勝てる。だが、海軍には巨砲を備えた軍艦、空から爆弾を降らせる飛行船がある。陸軍が海軍基地を物理的に制圧しようものなら相当な死傷者が出るだろう。」

「しかも、世論は海軍の味方ですか、、」


「これは長丁場になるな」

「ええ、覚悟しなければなりませんね」


エリゼ女王毒殺未遂事件と夜間の襲撃事件は、国会の採択により陸軍中央部の暴走によるものだと結論が下された。以降、海軍の発言件は強まり今後の情勢に大きく影響を与えることになる。




~ 王宮女王の間 ~


「父さん。そろそろ現状と政治情勢を説明して下さい。私は軍人なのでこういうのに疎いのです。」

書類の山に囲まれ、ハンコを連打しまくるエリカはため息混じりにそう言った。


「そうだな、エリカ。すまないそうだったな。」


エリカは元々、貴族や政治家の陰謀や利権が大嫌いで軍人の道を自ら進んだのだった。いきなり女王の座につかざるを得ない状況になってから、心底機嫌が悪い。

ユーキは記憶しているすべての出来事を詳細に説明した。


「なるほど、全ての出来事に海軍が関わっている可能性があると」

「そうだ。現状憶測の域を出ないが、あまりにも都合よく物事が進んでいる事は明白だ」


エリカは眉間にシワを寄せ、書類から目を外した。


「しかし、お母様は大変ですね。この量の政務と軍務に目を通し、軍の指揮や政治の場に顔を出すとは」

「あぁ、母さんは顔色一つ変えずに働いてた。偉大な人だよ。ただ、顔色を変えるのは決まって飲みすぎた翌日だな」


文句や愚痴は多かったが、仕事には情熱を持って取り組めるタイプの人だった。


「顔色と言えば、フリードベルク視察の時アルト司令の奥さんと一晩中呑んでた翌日。ありゃ酷かったな。」

「そうですね、私が塹壕から帰ってきた時は二日酔いで青白くなってましたね。」


娘と笑いながら話すのは何年ぶりだろう。

だが、ここにエリゼはいない。戦時中であったが、何処か毎日が楽しかったあの頃の記憶がよみがえる。


「父さん、涙出てますよ。」

「おお、歳のせいか最近涙脆くてな」


「ハンカチいります?さっき鼻かんだのでよければ」

「ありがたく頂戴いたします」

「嘘ですよこの変態親父」


下らない話でエリカを元気付けようと思ったが、やはりここは同年代に任せた方がいいのか藻知れないは。


「ではエリカ臨時女王。お仕事頑張ってください。あといい忘れてたけど、親衛隊指揮官にエルト君指名しといたからよろしく」


エリカ「は?!?!」


ユーキが退室間際に置いていった資料には、治安維持隊と近衛兵の統合。親衛隊の創設。

その親衛隊指揮官にエルトが就任するとかかれていた。


ドアが開き、黒い征服に薔薇を加えた髑髏の紋章。金色の軍刀を引っ提げた好青年が入室した。


エルト「我が女王、これからよろしくお願いいたします」


エリカ「は?!はぁぁぁぁああ?!?!」

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