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内乱前夜

「報告は以上です。」


「うむ、下がれ」


南部都市奪還作戦は無事終了した。

戦車52両のうち、8両大破。死傷者3068名。

負傷者4200名。

少なくない損失だが、南部都市奪還により火薬資源の安定供給はまもなく再開する予定だ。現場に行き届くまで、多少のラグが発生するのはしかたない。


ユーキ参謀に精神的打撃を与えたのは、やはりアルドー山脈を隔てた西方で唯一の足掛かりであった東エルフ共和国が陥落。友人のアルト司令官の戦死だろう。


さきほど、共和国から最後に発車した機関車から多くの負傷兵が降車するなか、参謀はアルト司令の姿を探していたが、いるはずもない。


「あ、あれは」


左足と右目を失った戦車隊エーベルト大佐。


「その声は参謀どの。この度は申し訳ない」


声は弱々しく、左目も光を失っているのか焦点が定まっていない。


「アルト司令からこれを預かりました」


渡された小包には、遺書と毛髪。アルトと俺たち家族の写った写真が入っていた。


「立派な人でしたよ。司令と話したのは、市街の最後の防衛戦が突破される数時間前に話しました。」


「そうか。退避中、遠くから爆音は聞こえたか?」


「いえ、とても静かでした。」


おそらく、アルトは新型爆弾の使用を躊躇ったのだろう。自分の息子が育ち、妻と暮らした街を破壊することはできなかった。彼らしいと言えばらしいのか。


俺は大佐の労をねぎらい、今後の生活を保証することを約束した。


「山脈を越え、敵の大軍がきますね。」


「ああ。だがおそらく、敵も体勢を立て直すのに半年はかかるだろう。それまでに新兵器の飛行船は20隻、必要な装備も回復するはずだ」


ユーキは大佐を見送ると、軍庁舎の私室へ戻っていった。




~ 海軍特別技術部 軍港施設内 ~


「エディン技術仕官!お戻りになりましたか」


「うん。で、試験の結果は?」


「良好です。43cm試製砲は量産体制に入ります。早ければ今月中にも試験航行が可能かと」


エディンはシートで覆われた建造ドック内に入る。そこには、超大型戦艦が形になりつつあった。


「いいか。極秘の話だ。東エルフ共和国が陥落した」


「それは本当ですか?」


「ああ。おそらく敵は30cm要塞砲も鹵獲したはずだ。今まで海軍が用意に行ってきた砲撃がこれで難しくなる。そこで、こいつの出番というわけだ。」


新造戦艦 ノーチラス

43cm3連装3基


おそらく、これから我々の技術を真似て作られる30cm砲より遥かに遠くから砲弾を撃ち込めるゲームチェンジャーになる戦艦。


「おそらく、共和国最後の抵抗で帝国側も激しく磨耗。半年の戦争準備期間が必要になるはずだ。それまでには完成を間に合わせてください」


「了解しました。」




~ エルゼ王国宮殿、女王私室 ~


「なるほどねぇ」

エルゼは密偵から送られた書類を炉にくべた。


海軍は今回の戦争を始める口火を切ったわけだが、ここまで巧妙に物事を進めるとはな。大戦艦の建造から飛行船艦隊の創設。

水素工場に、燃料アルコール製造用の作物の栽培。そして、鉱山資源の管轄圏の拡大。


小国レベルの軍事経済圏を確立し、海軍の身内は全てそこに就職、コネクションを形成か。


要塞線には海軍の砲台が配備され陸軍にも大きな借りを作らせ、政界内でも支持層を大きく膨らませている。


スパイ行為を行い更迭された宰相と比べれば、我が国に被害をもたらすものではないが、軍事産業の拡大は戦争の長期化を誘発するか。


「頭が痛いな。」

コンコン。ドアを叩く音が聞こえた。


「俺です。」

「ユーキか、入れ」


寝巻き姿のエリゼが何かの書類を暖炉で焼却していた。エリゼはこちらを見て手招きをした。


「色々ご苦労だったな。今日は久しぶりにここでやすめ」


ユーキはエリゼのベットに倒れ混み、エリゼは部屋の鍵を閉めた。





~ 南部都市アルメイン ~


佐官クラスの将校たちには、宿の部屋が割り当てられエルトはエリカの寝室にいた。


「そうか、親父が、、、」

エリカはエルトに共和国の崩壊とアルト司令の戦死を伝えた。


「辛かったら言え、二ヶ月ぶんの有給を使ってもいい」


数ヵ月の塹壕勤務と長期遠征、父親の死でやつれた顔が蝋燭の火で浮かぶ。


「少しだけ、一人の時間を無くせればいい」


エルトはそう言うと、私の胸に沈んだ。





~ 翌日、王都参謀本部 ~


「そうだ、今すぐ南部都市の駐屯部隊を除いた全ての兵科を西部方面の要塞線に移すべきだ。」


「しかし、それでは捕虜の管理が、、」


「奴等は炭鉱で働かせればいい!西部の守りを固めいつ如何なる時でも防衛できるよう戦力を集中するのだ!」


参謀本部では議論が白熱していた。

南部を奪還したものの、依然として西方と南方からの驚異は健在。精霊たちが再び南方から進行してくる可能性は薄いが、西方の帝国は侵攻のタイミングとこちらの出方を伺っている。


「聞けば、共和国首都陥落の一つの要因として、こちらの射程外から敵が砲撃してきたと聞くが?」


「長距離砲だと??まさか、そんなものが」


噂には聞いていたが、エルフたちが全長20メートル級の怪物長距離砲を試作していたのは知っていた。サンプルの不発弾が一発、信管を抜いた状態で公開された。


「こちらの防衛戦は塹壕と地下陣地のみで、爆撃や通常の砲撃には耐えられるが超高速で突っ込んでくる砲弾には弱い」


彼らの言うように、我々の防衛陣地はコンクリートや鉄筋で補強されてはいるものの、厚さは二メートルにも満たない。

サンプルの砲弾の尖端は焦げているため大気圏を突破し、飛来してきたのか??


「諸君、参謀の意見としては兵と兵器の分散配置を押したい」


海軍の軍港や飛行船基地は、王都から東の海岸線にあるため除外する。だが、陸軍はどうか。西の要塞に戦力の大半を置き、西部への守りを一点に集中した場合、最悪敵の砲爆撃にさらされ壊滅するだろう。


「最大の問題は鉄道網です。」


そう今回、山脈から我らの王都に伸びる線路は急いで破壊した。しかし、山脈に敷設されたものは無傷。機関車、車両、鉄道の資材は全て運びきることができず、それらは敵の手におちたと考えられる。


「大軍が山越えを行うには、良いインフラになるだろうな」


戦時中の混乱で、鉄道網の破壊まで手が回らなかったのは痛手だ。


「ですが、フリードベルク包囲戦で敵はかなりの損失を被ったのも事実。いくらインフラが残っていてもすぐにはこれまい」


そこで名乗りをあげたのが海軍だった。彼らは完成した飛行船も合わせた8隻で爆撃を行う事を提案してきた。


「ここは、海軍の手を借りましょう。」


万が一の事態も備え、海軍の飛行船艦隊に爆撃を要請。山脈に延びる路線の橋、洞窟、土手など修復までに時間がかかるところを徹底的にやってもらう運びになった。


~ さらに翌日の王都参謀本部 ~


「やはりこう来るわな。」

海軍側は爆撃要請を受ける代わりに、翌月から一年間の時限立法。

軍全体の海軍予算を陸3.5海6.5の割合にする法案の可決を議会と陸軍にせまった。議場は荒れたが、女王の権限でその場はおさまった。


「誰も反対できないのをわかってて海軍はふっかけてきたな」


この法案は速やかに可決、財務庁の予算科は大騒ぎになったとか。


「だが、これで当分は敵の大攻勢に怯える必要はなくなったわけか。」


海軍はかなりの額を溜め込んでいる。何を企んでいるのかが全く外部に漏れてこないところ、かなりの情報統制を行っているのだろう。もし、今王国を支えている唯一のまとめ役であるエリゼ女王が倒れたら海軍と陸軍の対立は激化するだろう。


「た、大変です参謀!」


参謀本部会議室に血相を変えた近衛兵が飛び込んできた。


「暗殺未遂です!女王が今危篤状態です!」


なんということだ。恐れていた事態がついに現実に起こってしまった。

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