暗殺と終戦
秘密会議が始まると会議室は爆音の軍歌で満たされ、盗聴対策のため周囲の部屋もすべて施錠された。
「時が来たら俺がエリゼを葬る」
ユーキ参謀は開口一番静まり返る作戦室でそう言い放った。
おそらく、エリゼは世界征服を目指していた。
間違いない、あの雪山行軍のときエリゼが大事に持っていたあれは『西方生存圏の確立』と書かれた古い手記だった。昨晩思い出したのだ。その手記には古代兵器を使いエルフ達を絶滅させ人類の繁栄圏を西方に確立する占領計画が書かれていた。
今思えば、先代の王は持病こそ患ってはいたが死にいたるようなものではなかった。まさかとはおもうが急逝した理由は、、、まさかな。
諜報員の調べによるとユーキ暗殺未遂事件は敵国による暗殺として処理し、国威発揚のプロパガンダと真相に気づいた厄介者を口封じするための一石二鳥を狙ったものだったとのことだ。
「諸君、最期の聖戦だ。我々人類が勝利を得る前に道を正さなければならない。このままではさらなる戦争を誘発させる危険がある。我々が悪魔となり偽りの天使を屠るのだ」
作戦発動は3日後、憲兵隊と予備役の3000名体制で王宮を封鎖。名目はクーデターの阻止と女王の保護。暗殺後、女王の死亡は反戦左派による銃撃と処理する。
「幸運を祈る」
「はっ!」
間違いない。エリゼは新型魔力爆弾を使用するつもりだ。数時間前、軍の倉庫から小型軽量のものが何者かに運び出された。あれは1つで大きな町を消滅させることができる。
それから翌日昼過ぎ、野戦憲兵隊から午後の帝都空爆で使用する通常爆弾にカモフラージュされた魔力爆弾発見の報告が入った。爆弾は押収され、仕組まれた陰謀を未然に防ぐことに成功した。
パンツァーファウスト作戦が発動してから3日間目。激闘の末、中央方面軍の奮戦により南方方面主力の戦車隊は帝都まで数キロの地点に到達した。
中央軍の損耗率は40%とほぼ壊滅状態だが防衛ラインを辛うじて維持していた。帝国は中央軍撃集団滅のため各地から戦力を掻き集めた事で、北方方面軍も敵の防衛ラインを容易く突破し、現在帝都北15キロ地点に迫っていた。
アルトは朝早く司令室に顔を出していた。
「ユーキ、いざと言うときはこれを使え」
アルトはユーキに小包を渡し、フラフラと揺れながら司令室を退室していった。
(体調を崩したのだろうか???)
今私がアルトに掛ける言葉はなかった。
戦場では数多くの若者たちがその命を散らしていた。エーベルト大佐に続き昨日の報告ではエルト青年も戦死していた。
(そうだ、俺が戦争を止めなければならない。)
「ユーキ国王代理、エリゼ様との面会時間です」
憲兵隊大佐が執務室のドアをノックした。
「時は来た。今道を開かん」
ユーキは新調した軍服に見を包みエリゼの元へ向かった。
〜 女王の間 〜
「どうしたユーキその格好は。将軍、いや国王級が着る軍装だぞそれ」
エリゼはお前には似合わんと言わんばかりのニヤけ面をした。
「お前も旧エリゼ中隊時代の野戦将校服を着るなんてどうしたんだ??戦場にでも行くおつもりか??何時まで破天荒なフリして我々を欺くつもりだ?」
エリゼの顔から表情が消え、彼女は玉座から立ち上がると剣を鞘から抜いて言った。
「ケジメだよ。お前と出会う前の私に戻るための儀式とでも言うべきだな。もっともこの制服の元はドクロ部隊の軍服だ。黒色はなにものにも染まらない決意の証。真金の魂だ。」
「なるほど相手の色に染まらない黒色で心を捨てるつもりが。まさか身内でも殺すつもりなのか」
「ふん。それはそうとユーキよ今までご苦労だったな。もう休んでいいぞ、冷たい墓の下でな」
目の前からエリゼの姿が消えた。違う、下か!
ユーキは咄嗟に後ろへ跳んだ。
まさかあの高身長が、こんな凄まじい速度で接近してくるとは‼
初見だったらまず間違いなく死んでいた。20年前、カーリナとの闘いを間近で見たことがあった。あの時の記憶が無ければ瞬足の切込みに対策できなかった。
ユーキは気づく。ジャケットには先程の斬撃で切り込みが入っていた。あの技が当たればまず間違いなく右下腹部から左肩にかけて切られ、文字通りの真っ二つになっていた。
ユーキはさらに後ろに跳びレボルバーを撃つ。
「やはり筋はいいな。だが忘れたのか??私に銃は効かん」
そう、長年エリゼは宝珠を身に着けていた。あれの効力で神の加護を受けている、飛び道具は効かない。怯ませる事はできてもそれは数回程度だ。
「んだよそれ。インチキじゃないか!」
「ふん。戦争に卑怯もインチキもあるか!勝てばいいのだ。あとそうだ、言い忘れてたよ。新鮮なうちに渡しておこうと思ってたんだ。ほら。」
ボトッ、、、ゴロゴロゴロ。
「そんな、お前、、噓だろ」
「見ての通りだ。私は悪魔ではないから嫁と子供はまだ生かしている、まだな。」
目の前に転がったのはアルトの首だ。エリゼはアルト首を俺に向かって蹴り転がした。エリゼは悪役に似つかわしくない表情をしながら口を開いた。
「昔からこいつは女たらしの賜物か、感が鋭く、違和感を察知したら直ぐ余計な事まで情報を集め行動を起こす。有能過ぎた結果がこれだ。当然ユーキ、お前も今からこうなるのだ!!!」
ユーキはアルトの首を広い、部屋の片隅に置いた。
「エリゼ、お前を玉座から引き摺り下ろす。そして俺が国王代理として民と国を導く。」
「抜かせ馬鹿者が!猫も被れなければ隣人も疑えないヒヨコ風情が生意気を抜かすでないわ!」
エリゼは咥えていた葉巻きを投げ捨て一気に間合いを詰めた。ユーキはレボルバーを連射するが止まらない。
大振りの剣をかわし、エリゼの長髪を掴んで後ろに引き倒した。だがエリゼは後ろにバク宙しながら髪を斬り落とし、体制を立て直してから再び斬り掛かってきた。
「グッッ、ギギ、、」
ユーキの左肩をエリゼの剣が貫通、刺さった剣を回し徐々に心臓の方に向けて斬り下ろそうと力を込め始めた。
ユーキは懐から短剣を取り出した。魔女殺しの短剣、神をも殺す威力を持つとさた妖精王の秘宝。
何処で手に入れたのか、アルトが今朝俺に渡してくれた小包の中身だ。
ユーキはエリゼを引き寄せると力いっぱい抱きしめ、耳元で囁いた。「愛しているよ、心の底から」その瞬間エリゼの力が一気に抜け、深く突き刺した長剣から手が離れた。
「負けた、負けたよ、、、私の負けだよ、、」
エリゼはそう呟きユーキの背中に手を回した。
ユーキは右手の探検をエリザの背中に深く突き刺し、心臓を貫いた。
この1時間後、南方方面軍と北方軍集団がガルマニア帝都へとなだれ込み戦争は終結した。
エルゼ王国方面では、帝国の残党が未だ戦闘を継続していた。
戦闘が終結し、血と硝煙の匂いに満たされた戦場跡地には冷たくなったエルトの遺体を背負い、いくつもの野戦病院をまわるエリカの姿があった。




