内政への疑問と陰謀 (作戦開始まであと3日)
「これはすごいな」
「全くですよ」
昔からよく世話になっていたドワーフ技師。ドワーフは名前を持っているが基本「おい」とか「お前」とかで呼び合うので名前はよく覚えていない。
噂話とか嫌味の言い合いとか、名前から始まる対立や差別的な環境を作らない為の知恵なんだとか。
確か名前はガルアディンだったはず。
彼が本国に戻り開発した電気式蓄音機、これがとにかく凄い。音質はよく、士気を高める勇ましい軍歌のレコードが街中で流れている。帝政への忠義や忠誠を歌うオペラ曲も人気だ。
これはエリゼ女王肝いりの宣伝省が温め続けていたプロパガンダ政策の一環でもあった。人をコントロールするには、目と耳に訴えよ。その言葉通りに街中には宣伝省のポスターが貼られた。
「我らは進む!私達は支える!」
「裏切り者と怨敵に鉄槌を!」
バルジ輸送作戦の第二陣が出発し、パンツァーファウスト作戦が発動するまで残り3日。この日の昼過ぎ。アルトと久しぶりに司令室を抜け出し、外で昼食をとった。
「この街の色の変わりよう。恐ろしいですね」
「それもそうだが、何故エリゼは今になってこんな大規模な宣伝を始めたんだ???この戦争が始まる前からやってりゃ軍部の暴走を未然に止められたはずなのに」
俺はムシャムシャとフライドポテトを食べながらそ言うと、アルトは何か知っているかのような口振りで話し始めた。
「知ってて全てを黙認していたのではなかったのか??お前まさか騙されてるのか?? 今までおかしいと思わなかったのか??極秘の資料を読んですぐ人目に付く前に焼き捨てる女が近くにいて何も感じなかったのか??」
アルトは溜息を吐きながらナイフとフォークを置いた。
「いいか、今ここは個室で壁も厚いから言う。これは親友として、戦友として言う。お前あの女には気をつけろ、用済みになったら、、、」
アルトはそこまで言うと、なーんてねっ!と再びナイフとフォークを持ち食事を始めた。
(そうだ、俺は今までゲーム感覚で仕事に取り組んできた。エリゼとは結婚こそしたが、彼女が日頃何を考えているのかなんて深く考えたことがない。イメージとしては呑んだくれで仕事ができる上司だが、あの姿もシナリオ通りに演じていたとしたら、、、)
その時、俺はふと思い出した。俺たちがまだ20代の頃、この地を占領する前の雪中行軍。エリゼが風を引いて倒れた時、テント内で見た極秘の計画書類。
内容はなんだっけ、かなりヤバイ事が書かれていた気がする。それに、あの日以降エリゼは手元に書類を置かず読んだら全部その場で焼却していた。
「ま、まさかな。ははっ、そんなことないだろ」
その他にも心当たりはある。解任されたホフマン少将は先日何者かに殺害された。しかも帝都への無差別爆撃は後方の誰かから指示されたという証拠もあった。
「参謀。すまないのですがこの話はここで、、」
アルトは今、奥さんと新しく生まれた幼児と暮らしている。厄介事にクビを突っ込みたく無いのだろう。
エリゼの諜報能力と秘密警察の凄まじさと彼らの仕事の凄惨さはよく知っているからだ。
「お、ここの肉美味いな。北方のシベリー牛だから身が引き締まってら」
作戦開始まで残りを3日と11時間を切った。




