新兵は突撃する3
ズドドドドドドっ、カチンカチン
「弾切れだ!弾を持ってこい!」
「補給が遅いぞ!」
「エリカ!これ以上は無理だ!戦線を後退させよう!」
「うるさい!もう既に7キロも後退したんだ!これ以上後退すれば市街地に砲弾が降り注ぐぞ!」
エリゼ帰国から約一ヶ月が経過、東エルフ共和国の諸都市はほぼ陥落し、残るは首都のフリードベルク市のみとなった。
一時は敵を首都から26キロ地点まで押し返したが現在は19キロ地点に後退。残った最後の要塞砲も昨日完全に蒸気機関が破損し、完全に機能停止。援護砲撃は通常兵器のみとなった。
「ユーキ参謀。もはや国力的にも総力戦体制維持の限界を迎えています」
アルト司令は死傷者報告書を提示した。
「我々ドワーフの部隊は本国から後退命令が出た。今日の午後より汽車も使用し本国へ帰還する。武器は必要最低限以外は全て置いていく事にした」
ドワーフの指揮官は撤退することを説明。
「そうか、サルマト宰相は大丈夫か」
「はい、アルト司令の言うように戦費もかさみ、同盟国からの支援も少なくなった現状から申しあげますと、、、」
サルマト宰相の顔が真っ青になっている。胃潰瘍の発作も出ているようだ。無理もない。エルゼ国とドワーフの国は、西方への足掛かりになる東エルフ共和国の瓦解が近いと踏んで、支援の打ちきりを検討している。
現在は少量の弾薬と医薬品が送られてくるが、これも何時まで続くか。
市街地には、コンクリート制の防御陣地と建物を利用した防衛戦が張り巡らされたが気休め程度。幸い、希望する民間人の国外退避は前日に終了していた。
「アルト、奥さんはどうした」
「マリンは前日の汽車に乗せ、エルゼ王国に避難させました。三人目を身籠ってますのでできるだけ遠くに、、、」
「そうか」
窓の外に見える機能停止した第一砲台では、いざと言うときに自爆処分できるよう爆薬の詰め込み作業が行われている。
エルゼ国の精鋭10万と東エルフ国の24万人で前線を維持、、できるはずがない。
東エルフ共和国の各諸都市の制圧に分散配置されていた帝国の大軍団が、あと数日もたたぬうちにこの地に終結するだろう。
戦力差は三倍以上。しかも、昨日から空中戦艦による空襲が開始。
鉄道網は敵にも利点があるから爆撃こそ受けていないが、前線に近い西地区では空襲による大火災が発生。その地区に最後まで残ると決めていた住民1401名が焼死した。
塹壕地帯に敵軍の空爆と砲撃の嵐が巻き起こる。そして、空高く吹き飛ばされた血肉と土の雨が延々と降り注ぐ。
「もうだめだ、おしまいだ」
「待て!逃げるな!」パァーン
エリカは逃亡した新兵を射殺。もはや、戦線の崩壊も間近となっていた。
正午を過ぎた辺りから、命令を受けた10数万のドワーフ兵たちが後退を始めた。
「中隊長、今まで世話になったな。これを」
「そうか、ありがとう。ご苦労だった」
エリカは餞別の酒を渡され、他の兵士たちも戦友同士で互いに贈り物を渡しあっていた。
「君たちもヤバくなったら早く後退するんだぞ」
「ええ、できる限りこの地で頑張ります。」
こうして、ドワーフ軍12万3千名が戦線から後退していった。
この日の夜は不気味なほど静かだった。戦線では盛り上げ役のドワーフたちがいなくなり、酒の配給もとまった。敵も後方支援が滞っているのか、夜襲や一斉砲撃がほとんどない。
フリードベルクの司令部ではサルマト宰相、エルト司令官、ユーキ参謀の三者会議が連日連夜行われていた。今夜は、各部門の局長クラスを集めた会議が行われていた。
人口統制局長「ドワーフの軍団が後退し、連合軍の兵は現在後方支援を行っている予備役をあわせると最大で40万人であります」
総力戦研究員「東エルフ共和国の食料備蓄は後半年分、弾薬備蓄量は日の使用量を現在の半分にすれば一週間弱の量です。」
先週辺りから、北部の都市が陥落したことで暖房用の木材や肉、小麦の流入が止まった。
兵隊たちの食事はキャベツスープに肉が少しとカッチカチの乾パンのみ。賢いやつが見れば、食料の供給元が押さえられた事がわかる。
兵器局工場長「工場の三割が空襲で消失し、日の弾薬製造量は一日の使用量の五時間分。銃器製造は全盛期の六分の一ほどです。」
ユーキ「なるほど、部隊の前進どころか安定した前線への弾薬供給も難しくなったか」
前線では、我が軍の砲撃が弱まった事で敵の工兵たちが精力的に活動し、陣地を幾つも構築していた。
アルト「しかし、攻勢をかけず戦線の維持だけであればいずれ弾薬備蓄量は増加します」
サルマト「防衛戦もよろしいですが、このままでは敵の全軍がこの地に終結し我々は三倍以上の兵力と対峙することに、、、」
現在、海軍の奇襲作戦が成功したことで帝国側の物資補給が大幅に遅れ、大規模な空襲や前線での砲撃が起こっていない。
エリゼ女王には海軍による第二次敵首都砲撃を要請したが、どこまで上手くいくものか正直わからない。
おそらく、敵は一度軍の大半を解散させ状況が落ち着いたら再度結集するに違いないが、それでも我が方はドワーフが抜けて予備役含めての40万人、対する敵は正規兵が60万名以上。
兵器に関しては、一ヶ月前の大攻勢でロケット弾はほぼ底をつき、配備された砲1000門の大半が使用限界まで発砲し、そのほとんどが寿命を迎えつつある。
敵が一斉に突っ込んできたら、間違いなく火力不足で押しきられるだろう。で、あれば籠城戦以外の方法はあるまい。
「戦線の縮小を実施する。現在首都から19キロの範囲に配置された全ての兵を15キロ地点の最終防衛ラインまで後退させろ。」
首都から15キロの地点には堀があり、石垣がそびえ、水深10メートルの水がはられている。ここまで交代し、敵軍を迎え撃つしかない。いわば、異世界版の大阪の陣といったところか。
「しかし、そこまで後退すれば敵の長射程砲の範囲に西地区が全て入りますが、、」
「お前たちは、2週間以内にここが陥落するのと数ヶ月の持久戦ならどちらを望む。敵は十中八九捕虜なんぞとりはしないぞ」
指導者会議の結論は、15キロ地点の最終防御ラインへの後退。長期持久戦の実施となった。
「なんだと?!ふざけるな!!今敵は疲弊しているんだぞ!チャンスだろ!そんなときに後退だと!!」
「エリカ落ち着け、疲弊しているのはこちらもそうだ。これ以上の犠牲を出してこの広範囲の戦線をカバーできるわけがないだろう!」
「触るな!殺すぞエルト!ここはわたしが!私が前線に立ってガハッ」
部下たちは動揺する。
安心しろ、みぞおちを殴って気絶させただけだ。こいつは多くの傷ついた仲間に必ず助けると約束してきたんだ。そのほとんどが目の前で死んでいった。エリカは、エリカ中佐は精神的にまいっているのだ。
エルト中佐はそういうと、後方の軍病院にエリカを送るよう部下に命じた。
諸君、さぁ陣地を後退させるぞ!
(撤退戦か。苦手なんだよなこれ)
「伝令!各塹壕での後退開始を確認!」
「我々エリゼ中隊がしんがりを勤める!」
エルト指揮の下、部隊の撤退が始まる。
ウォォォッ!!敵がこの機会を逃すまいと前進してくる。塹壕内では銃剣や拳銃を使った近距離での乱戦が勃発した。
「急げ!後退しろ!」
「死ね!薄汚い人間の豚やろう!」パァーン
悲鳴や雄叫び、怒号があたりに響き渡る。
「敵だ!19キロ地点に照準!撃てぇ!」
命令の行き違いで、乱戦状態に陥った前線に砲弾が撃ち込まれた。
「嘘だろ!誰か砲撃を止めゴフッ」
「うぁぁぁ、足がっ!足がぉぁぁ」
敵味方を巻き込む砲撃が起こり、エルトは爆風で吹き飛ばされた。その他多くの中隊員も誤射により戦死した。後退作戦は進み、多くの損失を出しながらも15キロ地点の最終防衛ラインまで後退することができた。
「エルトォォ!生きてるか!このばか野郎!お前、何でぇぇ」
「その声はエリカか。悪い目が見えなくなっちまって。あれからどれくらいだ」
包帯で頭を巻かれたエルトは頭部の衝撃と多量の失血で失明、右手を欠損していた。どうやら、気絶していた間に軍病院に送られたていたらしい。
「あれから、二週間は寝てたんだぞ。どれだけ心配をしたと」
「悪かった。でもエリカが無事でよかった」
フリードベルク中央にある軍病院は、敵の長射程砲の射程圏内に入っていないが、すぐ近くの西地区には多くの砲弾が着弾。今も火災が続いているらしく、木材の焼ける匂いがする。
「エリカ、悪い多くの部下を死なせてしまった」
「気にするな。私があのまま戦線にいれば多くの部下を道連れに徹底抗戦を行っていただろうさ。むしろ、謝るのはこちらのほうだ」
エリカの顔は見えないが、握られた私の手に涙が降ってくる感覚はわかる。
私たちは心身ともに疲弊している。
微かに香る血と硝煙の匂い、エリカは先程まで戦場に出ていたのだろう。
窓ガラスの揺れ、地面が微かに揺れている。
かなり近くに着弾しているのか。
「大ニュースだ!大ニュースだぞ!」
アルトが意識を取り戻し、二週間目の朝。
エリゼ女王帰国から三ヶ月たったある日。
病院内に誰かの大声が響き、歓声が段々と広まり始めた。二日前、エルゼ国の連合艦隊五隻と民間船30隻が再度敵国の首都を急襲。夜間の艦砲射撃を実施し、民間船団が海軍陸戦隊を上陸させたとのこと。
どうやら敵の首都港湾地域を占領したらしい。
「これで、敵さんが降伏してくれればなぁ」
「アホか、敵は前線から兵を引き抜いて首都防衛に力を入れるはずだ。だからと言って、完全な撤退や降伏なんざするはずがないだろ」
エリカの言うように、まわりの負傷兵の会話を聞くにフリードベルクを取り囲んでいる敵の包囲が段々と薄くなっているとのことだ。
また、気になる噂も広まり始めている。
エリカは皮をむいたリンゴを俺の口に突っ込み言う。
「あとは第一要塞再稼働のため、近々本国から蒸気機関のスペアパーツが輸送されてくるそうだ。」
「まじか、それは嬉しいニュースだな」
兵員の追加は見込めず未だにジリ貧な状況であることに変わりはない。しかし、第一要塞の再稼働の報せは多くの兵に勇気と希望を与えてくれた。
だが、これは戦後に聞いた話になるが、蒸気機関のスペアパーツ輸送は真っ赤な嘘。この時、再稼働の目処はおろか再建の計画すら存在しなかった。このニセ情報を広めたのはユーキ参謀その人で、情報がスパイに広まれば敵軍に恐怖を与え、友軍に広まれば士気を高めると踏んだ。いわゆる情報戦、フェイクニュースというやつだ。
「もはや、プロパガンダと心理戦に頼るほかあるまいて」
「西地区が砲撃を受け、半壊してしまった今。士気高揚は必須ですからね」
指令室にいるユーキとアルト司令は、戦線の維持と士気高揚を目標とし、あくまで通常兵器による戦線の維持を貫く姿勢。
指令室から見下ろせる中央では、今まさにサルマト宰相による予備役に向けた、継続戦争の実施を演説をしている。
「我々の故郷、東エルフ共和国に栄光と繁栄を!野蛮で専制的な独裁帝国に死を!」
「おおおおおお!!!!」
演説がうまく行っている様子を眺め、二人はため息をついた。
アルト「にしても、サルマト宰相の顔色も悪いですが、ユーキ参謀。あなたも顔色が死人みたいになっていますがどうかしました?」
ユーキ「ははは。じつは私の嫁がね、、、」
~ 帝国港湾都市、占領地域 ~
「ふっははは!この地は久しぶりだな!!」
「女王!危険です!どうかお下がり下さい!」
「なーにが危険なものか!艦砲射撃で更地になっているではないか!」
エリゼ女王も帝都港湾都市跡に上陸し、先の大戦から実に21年ぶり。敵帝都を目前に自分の連隊旗を風になびかせていた。
話しを終えたユーキが胃のあたりを押さえ、処方された医薬を紅茶に溶かし、飲み干した。
「マジですか、昨日の伝書鳩にそう書いてあったんですか、、、」
「あぁ、あのワガママ女王自ら軍艦に乗り込んで敵地になぐりこみに行きやがった。五十過ぎのババアの癖に、気力、体力、見た目も30代のままとか化け物かよ」
「それ、聞かれたら火炙りにされますよ」
「ははっ。違いねぇ」
ユーキ参謀は脱力し、戦争にボロ負けしたナポレオン皇帝のようにだらんと椅子にもたれかかった。
海軍による大戦果の方が入った日の深夜、事件は起こった。
フリードベルク市街から、北に60キロのシベリー高原で謎の大爆発が発生。真夜中の出来事だったが、猛烈な閃光が空を昼のように明るく照らし、それはフリードベルク市街からも確認された。
「な、なにごとだ?!」
「な、まさか、、古代兵器か?!」
爆発が起こった方角は、先の戦争で古代兵器の巨人が封印された石棺がある方角と距離。
しかも、大爆発後からあたりの魔素濃度が急激に上昇したことから、古代兵器が復活したのではと、軍内部は大騒ぎになった。
「エラいこっちゃ、えらいこっちゃ」
「ヤバイぞ。古代兵器なんぞ今復活しようもんなら」
大混乱に陥る軍部とユーキの元に、エリゼ女王直属の諜報員が衝撃的な報告書を運んできた。ユーキは報告書を読み終えると血相を変え、国会議事堂に乗り込み、サルマト宰相のいる部屋へ入った。
「サルマト宰相!何故黙っていたのですか!」
「おやおや、相変わらず血気盛んですな。我々東エルフ共和国存続のための最後の切り札が必要だと思いましてね」
私が計画書をサルマトの目の前に叩きつけた。
サルマト宰相が元帝国軍の長官であった時、彼に使えていた科学者10名。先の大戦時から長らく行方不明になっていたその科学者たちは、密かに匿われ、極秘のプロジェクトを北のシベリー高原で行っていたのだ。
そして先程の大爆発で、長年の研究の成果が実を結んだのだ。
「これは、正気の沙汰じゃない。何てことをしてくれたんだ。世界を破滅させるつもりか?!どうなんだ!答えろ!」
サルマトと科学者たちの研究。それは魔素を限界まで増幅させ、高濃度の魔石に圧縮、一定の条件が整うと魔石が大爆発を起こすという新型爆弾だ。
「サルマト、まさかお前。あの古代兵器の巨人をコンクリート壁で覆い、立ち入り禁止区域に指定したのも全てこの計画を行うためだったのか。」
「ええ、全ては復讐のため。勘の良いエリゼ女王は我々の計画を把握していたようですがね。」
爆弾のコアに使う膨大な魔素を封印された古代兵器から抽出する技術。エルフの魔力を持ってしても、自然界の物だけでは新型爆弾一発に必要な魔力を集めるのに千年以上はかかるだろう。それを古代兵器を使い、集めた魔素をセットした新型爆弾がすでに三発完成し、先程の実験分を除けばあと二発あるだと。
「ご安心下さい。我々は人類に対してあれを使おうなどとは思ってもいません。あれは憎き帝国への威嚇と牽制用ですよ」
サルマト宰相は澄まし顔でそう言ったが、何処までが本心か正直わからん。
サルマト宰相は過去帝国に裏切られた経験と今回の負け戦が重なり、精神的にも錯乱状態に陥っているようだ。
そんな状況でまともな判断なんかできるものか。
報告では、昨日の大爆発で敵軍に制圧されていたシベリーの中核都市は跡形も無く消し飛んだと聞く。敵はおろか、捕虜になった味方の兵士や一般市民も全て爆発の巻添えに、、、。
この計画を知っているのは、現状俺とサルマト、エリゼと科学者たちだ。帝国は今回の一件で兵器の存在を察知することだろう。
しかし、古代兵器から膨大な魔力抽出を可能とした技術が流出するのは戦略上非常にまずい。
「サルマト殿、先程は取り乱してしまい申し訳ない。今後の展望を是非お聞かせ願いたい」
「ええ、いいでしょう。」
サルマト宰相は、作戦案と特別部隊の行動表を提示した。
「な、なんと言うことだ?!」
ユーキ参謀は驚いて言葉を失う。シベリー高原の地下には先の大戦から温存されていた高速空中戦艦があるだと。しかも、それに爆弾を積み、帝都に特攻、帝都ごと吹き飛ばすつもりか?!
この攻撃を行えば、確かに帝国を葬り去る事ができるだろう。だが、爆発による魔素汚染が将来の新たな戦争の火だねに繋がることは明白だ。
「憲兵大尉。サルマト宰相を逮捕しろ」
「ハッ!」
「いいのですか?私がいなくなれば東エルフ共和国は瓦解し、西方の足掛かりが、人類の拠点が消失しますよ?あと、私が突然いなくなれば自動的にクーデターが起こり、より過激な軍事政権が誕生しますよ」
確かに、現状の東エルフ共和国はサルマト宰相のカリスマ性と強硬派の軍人たちが折り合いをつけることで国政が維持されている。
強硬派軍人の指導者は6名か。
ユーキ参謀はただちに憲兵大尉に命じサルマト宰相を軟禁し更迭処分。そして特殊部隊を投入、強硬派軍人の暗殺、穏健派軍人の支援、政権転覆を実施した。
対クーデタープランの作戦が、まさかこんな形で実施されるとは思ってもいなかった。東エルフ共和国は文字通り、傀儡国家になり主導権はこの場で一番階級の高いユーキ参謀に一任された。
別働隊であるエリゼ中隊の生き残りが特別任務にあたらせた。
エリカのいる部隊は、さらに特殊な任務をおった。現在、フリードベルク市は三方向を敵軍に囲まれている。そこで、地下水道の水量が減る午前中にその中を通り、敵の包囲網を突破。
新型爆弾の回収と科学者の捕縛、空中高速艦の奪取を目的とした特殊作戦を開始した。
「先遣隊から送られてきた爆心地の情報から推測すると、爆発規模は15キロ圏内は確実に爆死、建物は全壊か」
しかも弾頭の重量が200KGとか、どんだけ軽くて運びやすいんだよ。危険すぎるから即刻回収してきてくれ。
一週間の進軍、部隊は目的地にたどり着く。
「エリカ中佐。ここが地下への入り口かと」
「よし、突入開始!」
地下施設に特殊部隊員が雪崩れ込む。
極秘施設なのに警備兵は一人もおらず、室内は小さな居住スペースのみ。
だが、土壁を蹴ると回転扉になっており、中には研究者と思われる10名がいた。彼らを直ちに拘束され、金庫からは極秘資料を回収。持ち運び不可能な機材は爆破処分し、完成した二発の爆弾を運び出した。
「な、なんだこれは」
「い、生きてるのか?!」
まさか巨人の肉体を培養し、そこから直接魔力を取り、半永久的に動く軍艦の動力炉も開発していたとはな。チート級の兵器が二つも発見されたことで、現場は大興奮。
作戦は驚くほど早く終了し、午後には新型爆弾と設計図、科学者をのせた高速空中艦がフリードベルクに到着した。
「ユーキ参謀!作戦無事完了いたしました!」
「エリカ中佐、そして特殊部隊員の諸君よくやった」
その日は、ささやかな祝勝会が催された。
しかし、ユーキ参謀はあまり乗り気ではないようだった。何かがおかしい。こんな単純に物事が進むのだろうか。一人ブツブツと何かを言っている。
午前1時30分、臨時就任した穏健派軍人のビーゴ宰相から緊急の連絡と戒厳令発出の知らせが届いた。
ユーキ参謀の悪い予感はあたった。
サルマト元宰相が軟禁先から脱走。科学者と新型爆弾一発を乗せた高速空中船が離陸。
船体は加速し、西方へと飛び去っていった。
「や、やられた」
科学者たちはわざと特殊部隊に捕まり、内通者を使ってサルマトを奪還。ある意味、準備を全て我々に整えさせ、それを強奪し目的地へと向かったのだ。なんてやつらだ。
「サルマト宰相。いえ、我らがサルマト長官よくぞ御無事で」
「ふは、ふはははは!帝国よ、ようやく我が積年の怨みを晴らしてくれる!」
サルマトは魔力バーストでさらに船体を加速させ、高速で西の空へと飛んで行く。
「サルマト氏、復讐計画に水を差すようで申し訳ないです。復讐の野望ここまでです」
「物陰に誰か隠れているのかね。そのかわいらしい声からして、ユーキの娘。あとアルト君の息子もいるのかな?」
「サルマト氏、あなたは執念深い男だ。俺たちがそんな危険な奴を野放しにしておくとでも?」
視力を失ったエルトは、魔力探知スキルを活用した義眼を右目に装着。資格ではなく魔力で周囲の状況を感知している。
パァーン、パァーン。
「くふぅっ、よくも。この私を!餓鬼ども!これでも喰らいなさい」
狭い高速船内で拳銃の撃ち合いが始まる。
当然現役軍人のエリカとアルトが優勢、科学者や取り巻きたちの足や腕など死なない部位を的確に撃ち抜く。
「おのれ、おのれ、おのれぇ!!悲願を!復讐を果たすまで私は死ねないのです!君たち若者には悪いがここで死んで貰います!」
「しゅ!手榴弾だ!隠れろエリカ」
ズドーーン!
狭い船内に手榴弾の鉄片が飛び散る。
サルマトは立て続けに手榴弾二発を投げ込み、後部格納庫で爆発が起こる。
「これで、私の勝ちです!ヒャハハ」
サルマトが黒煙の上がる部屋に制圧射撃を行いながら突っ込んだ。
「ん、ん、なっ、なんだと、、」
火薬ダルに火がついている。あれは導火線。く、パラシュートは全て使われている。
「や、やられましたか」
スドドォーーーン
高速空中船が大爆発を起こし、木から落ちる木の葉のようにもみくちゃになりながら、地面に激突した。
その遥か上空。
「エルト、すまないな退院もまだしてないのにつれだしてしまって」
「お前の無茶振りにはなれてるからいいよ。それより学者さんと例の爆弾は?」
「学者は連れ出せなかったが、爆弾にはありったけのパラシュートつけて落とした。これで、無用な争いの種子が消えたんだよね」
「多分な」
水平線の向こうに朝日がみえる。
パラシュートで脱出したエリカとエルト。
彼女らはゆっくりと地面に着地した。




