11月の憂鬱
エルゼ王国に新しい王が即位した。
しかし王の即位は、王権派や王室を支持する貴族、国民たちを黙らせるための策略に過ぎず、王に権限はない。
「王国と言うには程遠い、軍事独裁国家だな」
「ええ、我々は彼らのマリオネットですね」
新しく即位した王はため息をついた。
彼のもとに送られてくるのは、議会で通った法案。
これにハンコを押すのが一日の職務。
「議会では左派が勢力を拡大していると聞く」
「そうですね。我々御飾りの王室は、用済みになったら廃絶される可能性が高いかと」
議会では左派の反王権派が幅を利かせ、政治理念に新自由主義、平等、博愛などたいそうなお題目を掲げている。
その裏で、左派政治家を操るのは海軍長官ハイドリヒとマルモン元帥(元陸軍第10軍団師団長)。新政権の実態は、エリート軍人たちが左派をコントロールしている。
「エルゼ王国の後継を唱う左派軍事国家の爆誕か。」
新王は今までの穏やかな田舎暮らしを思い出し、二度目のため息をついた。
〜ガザリア王国首都近郊〜
「にしても、田舎から担ぎ出された元王族は災難だったろうな。まさか、地方で暮らしていたらいきなり王に祭り上げられるとは。」
そう言いながら、エリゼは葉巻をふかし、地図に目を落とした。
「だが、エリカの親衛隊2万と陸軍の一分が北部へ後退。散発的な戦闘はあるものの軍の消耗はなしと聞いた。これはデカイ。」
左派と反乱軍の追撃を振り切り、エリカ率いる軍団はエルゼ王国を北上、先日ドワーフのガザリア王国国境線まで到達。ゴルゴン大公の命で入国許可証はすでに発行。正式に国境を跨ぎ首都エルドラド近郊に進駐、現在野営地を建設中。
追撃してきた反乱軍は、ドワーフたちとの関係悪化を恐れて、国境10キロ手前で引き返した。奴らもドワーフの技術や軍事支援がなければ帝国との戦争に勝てないことはわかっているからだ。
エリカの軍団
親衛隊2万人
(内 : 戦車兵100、歩兵17000、砲兵900
飛行船の船員や整備兵2000)
陸軍の一部(主に精鋭の第1師団から7000人)
(内: 歩兵5000名、工兵や通信兵など2000名)
保有火力
戦車20両、飛行船2隻、野戦砲100門、重砲300門、軽量砲500門、馬車や荷車に弾薬満載。
「よく混乱の最中に、ここまで大砲の数と弾薬を確保できたな。」
ユーキは関心しながら報告書を読み上げる。
「エルゼ王国北部の武器庫を襲撃。ついでに牧草地帯の農家からありったけの馬と荷運び業者を金塊で雇い、物資を確保したそうだ」
「流石エリカ、優秀だな」
ユーキはコーヒーを一口飲んだ。
エルゼ王国で政変が起こった事で、ユーキはエリカ女王補佐官の地位を返上。エリカがこの場に到着次第、女王の座をエリゼに返還し、ユーキは再び参謀の地位に復職する。
「ユーキ、また参謀として働いてくれか?」
エリゼはユーキの顎に手を触れ、静かにいった。
「ええ、我が女王。仰せのままに」
ユーキはすぐさま臨時参謀本部を創設。情報の整理を開始した。先ほど入った電報では、海軍のエディン技術少将が海軍から離反。強奪した軍艦はドワーフのガザリア王国東にある小さな湾内に停泊したとのことだ。
現地の諜報員からは、対空火器で針ネズミのようになった準新型戦艦2隻が錨を下ろしているとのこと。
エディンが送ってきた電報によると、新型の大型戦艦は奪取できず、その代わりに速力と雷撃能力、対空能力の高い高速戦艦を奪うことに成功したとのことだ。
そしてありがたいことに、戦費に使える金塊、武器弾薬をありったけかき集めてきてくれてらしい。暗号文の最後には1隻のみ建造された極秘の試作潜水艦も含まれるているとのこと。
「海軍の中にも王権派の人間がまだ多くいたことに感激を隠しきれんな」
エリゼは少し嬉しそうに鼻先をかいた。
「俺もです」
エルゼ王国で政変が起こった二日後。一番に首都エルドラドの王宮に現れたのはエディンたち海軍の面々だった。
「エディン。お前が来てくれて私は嬉しいぞ!」
「我が女王。受けた恩を忘れるはずがありません。今後もよろしくお願いいたします」
王宮には続々とお偉方が集まり始め、入国手続きと軍備再編に手間取っていたエリカ、エーベルト大佐。そして、王国の官僚職についていたバドゥーも姿をあらわした。
将校クラスの面々を見ると、旧エリゼ大隊が復活したかのような懐かしさも感じる。この場にはいないが、全身をギプスで固定されたエルトはエルドラド到着時に病院送りになったと親衛隊員から聞いた。
後で御見舞いに行くか。
皆が揃ったところで、エルゼ王国で起きた出来事を詳細に聞き、情報に齟齬がないかを再確認した。
どうやら先の報告通り、反王権左派と海軍、陸軍の一部が手を組み、革命政権を樹立。遠縁の元王族が政界に引っ張り出され、飾りとしての王に祭り上げられた。
「あの一族は王権争いに嫌気がさして首都から遠ざかったのに、可愛そうな話だ。」
「当主はかなりご高齢だと聞いたが、年齢的に大丈夫なのだろうか」
「もしかしたら亡くなることを見越して、一族の一番若い幼子を王に据え、本格的な操り人形を作ろうとしているのでは」
会場内は色々な憶測や噂が飛び交ったが、ラッパの音が響き渡る。形式的な式典が始まった瞬間、会場に静寂が訪れた。
「エリカよ、誠に御苦労だった。女王の位には私が再びつく。本当によく頑張ったな」
「お母様。無事でよかったです。わかりました、その代わり私は軍務に復帰させて頂きたいのです。」
「うむ、許可しよう。」
エリカはこの場で親衛隊司令官に任命された。
軍団の引き抜きと親衛隊の大移動。殆ど無傷で多くの物資を輸送させた功績から、軍に最も貢献した者に送られる黄金十字章が送られた。
また、海軍の引き抜きに成功したエディンや陸軍のしんがりを務めたエーベルト大佐らにも同じ勲章が与えられた。
この日を堺に、今後の動きについての下準備が着々と進められた。帝国側は少なくとも3月の雪解けを待たずして奇襲、電撃的な侵攻をしてくる可能性が高い。
これは、カーリナたちからの情報。帝国は空中戦艦等の戦力を総動員して山を越えの拠点を現在急ピッチで構築しているとのことだ。
また、海軍基地が爆撃された事件から、南部砂漠方面に敵の前哨基地が構築された可能性が高い。間違いなく多数の軍団が南方からも北上してくる可能性してくるであろう。
エルゼ率いるエルゼ王国残党が、正式にドワーフ領内にて臨時政府を樹立した11月8日。帝国軍の4ヶ月も早い南方方面からの侵攻が確認された。
エルゼ王国を掌握した革命政権は陸軍から支持されておらず、粛清による恐怖政治を行うも帝国が侵攻してくるまでに粛清した人員の穴埋めができていない。
「ユーキ、これは相当まずくないか。」
「ああ、まずい。エルゼの革命政権は軍を掌握しきれていないばかりか防衛戦のド素人ばかり。塹壕戦を逃げ腰の愚か者がすることと否定するなど正気じゃない」
「少ない兵で大勢の兵を迎え撃つには、身を隠しながら敵兵を撃破する塹壕戦しか方法がないのに、奴らの頭の中は騎士道の時代で止まっているのか??」
「このままでは南方からの攻撃でエルゼ王国の軍備はますます疲弊し、帝国の本隊が西方から雪崩込んでくれば王都は瞬殺か、、、」
まずいな。これは帝国の罠だ。
海軍の長官や左派議員らが陸上戦のなんたるかを理解してるとは到底思えない。国力と兵力は、国土と人数があってこそだぞ。
「我々も早急に帝国首都を制圧する作戦を発動しなければならない」
エリゼが固めた握りこぶしで机を叩き、言った。




