第2の政変、10月革命
「カーリナか、、、」
カーリナは20数年前、ガルマニア帝国を一時掌握し人類を滅ぼそうとしたエルフの女。旧エルゼ帝国の王に陵辱され、エルフと人間のハーフとして生まれた生い立ちを持つ。
カーリナは今現在、ガルマニア帝国よりさらに北。氷の大地で兵を集め、復権のため兵隊と武器を今も集めているとのこと。
20年以上の歳月をかけ、その勢力は小国レベルに達していた。
陸軍上層部は、この密談を罠だと断定し交渉は行うべきでないと頑なに反対した。しかし、エリカ女王の意向はその逆で使えるものは何でも使うべきだと密談の実施を宣言した。
「気乗りはしないが、帝国が手薄な北方から進軍できる可能性もあると」
「ええ、ドワーフたちの国を通り西へ進軍。ガルマニア帝国北部高原から一気に侵攻できれば勝機は大いにあります」
現在、我々のエルゼ王国は帝国との間に険しいアルドー山脈を挟んで対峙している。敵軍は侵攻を開始すれば、まず間違いなくすべての戦力を山脈を越えのため東側に配置するだろう。
「やはり、カーリナと手を組み北方から進軍を行うべきか。アルドー山脈の要塞線の防備は固く、3ヶ月は必ずもつだろう。」
エリカ女王は溜め息をし、世界地図を広げさせ指摘した。
「いいですか。我が国には西に要塞線がありますが南にはない。南の都市が再び陥落すれば打開策どころか弾薬の備蓄もありませんよ。」
一応王都から南にすぐの台地に、旧式軍艦を埋めた大砲陣地があるが、この要塞を使う事になれば南の都市は既に陥落した敗戦寸前の負け戦になる。
陸軍研究部では空気から爆薬の原料を生成する新技術が完成したが、量産体制が整うのに約5ヶ月。工場が本格稼働するには1年。その頃には戦争が始まっている。
「やはり北方からの奇襲攻撃しかないか」
「交渉を行うのであれば、ドワーフたちから我々に硝石(爆薬の原料)を融通してくれるかの確認も同時に進めて頂きたい」
「しかし、親衛隊長官のエルトは重傷。海軍派に属した多くの外交官を拘留中。他に外交に長け、忠実な王権派の人物がいるのか、、、」
「適任は一人しかおるまい」
長老たちからは、親衛隊少将で元外交部頭領の父親を持つ、ヴァレリア女史が適任だという意見が多く出た。経歴は高等教育を終了後、戦前のガルマニア帝国に留学。エルフ語と古代史に精通。戦時下ではアルデンの森で突撃歩兵として戦車2両を破壊。23歳で大佐に昇進後、共和国崩壊まで国の治安維持活動に就くと。
「すまないヴァレリア女史。交渉のため、申し訳ないが私とドワーフたちの首都エルドラドに行って貰いたい」
「仰せのままに」
こうして、会議は終わった。ユーキとヴァレリア女史がカーリナとの交渉のため、ドワーフたちの首都エルドラドへ向かうことになった。
10月中旬、準備は整った。
主発当日、少数の見送り人が手を降る中、高速飛行船へユーキとヴァレリアが乗り込んだ。ユーキはエリカがしたためた勅書を手に、船室に向かう。
親衛隊管轄の飛行船は北に船首を向け、6発のエンジンを稼働。高速で北方の空へと飛び立っていった。
地上1000メートル、飛行時間6時間。
王都から300キロ近く離れた空中で、無線通信部が慌ただしく動き始めた。無線の内容を書きなぐった新兵が、ノックもせず大慌てでユーキの船室に飛び込んできた。
「先ほどエリゼ女王が崩御されました。2時間後にエリカ女王が正式に即位されるそうです」
エリゼの死は戦意や国の安定に大きな影響を与えることから、当分の間伏せておくとのこと。
「、、、そうか。エリゼが死んだか」
「ユーキ殿、御悔やみ申し上げます」
この報告を隣の船室で聞いていたヴァレリア女史。幼い頃、娘のように自身を可愛がってくれたエリゼ女王の訃報を聞き、静かに泣いていた。
~ 飛行船、貨物室 ~
「エリゼ女王が遂に亡くなったとさ」
「どーなるんだろうね、この国の行き先」
非番の船員が煙草をふかし、雑談をしていた。
カタッ、カタカタ
「おい、今何か音しなかったか?」
「船の揺れだろ、、、おい。あんな木箱の積み荷、今朝あったっけか?」
???「すみません!調理場ってどこでしたっけ?食材を取りに来たんですが、新人なもんで道がまだ覚えられなくて?」
「なーんだ、おばちゃんか。ジャガイモ落とすなよ。こっちだこっち」
???「オバ、、んだとコラァ。じゃなくてすいません、ありがとうございます。」
~ エルドラド首都 ~
「素晴らしい街だ」
「人間は狭いエルゼ国内で何度も覇権争いがあったそうですが、我々の国は建国から一度も内乱がありませんでな」
古い石造りの街並み、彼らドワーフの国は根っからの職人たちの集まり。戦争や覇権争いより、創造力を生かした物を作ることに力を入れてきた事がよくわかる。
ユーキたちは馬車に乗り換え、城へと向かう。ヒュドラの紋章が描かれた門を抜け、馬車が城に横付けされる。
「さ、ゴルゴン大公がお待ちです」
大広間を通り、玉座のもとへ向かう。
「ユーキか久しいな」
「お久しぶりです大公。3年ぶりですね」
大公は白髪長身で、長い髭を蓄えている。彼は金色の玉座に座り吸っていた葉巻を置いた。
「となりの貴賓室にいるぞ、いってきなさい」
「は!ではまた後程」
ユーキとヴァレリア女史はお辞儀をし、貴賓室へと向かった。
「おうユーキ遅かったな!」
「ユーキ大佐。ふけたな。」
貴賓室の皮椅子には二人の女性が座っており、度数の高い北国の酒を飲んでいた。
「んな?!?!」
「なーんだお前。若い女侍らせやがって。ババアが死んだと思って新しい嫁を迎えたのか?!」
「ユーキ女王補佐官の護衛兼外交武官のヴァレリアですエリゼ女王。お久しぶりです」
「あー!有能な元外交官の娘か!元気か!」
おいおいおい。ちょっと待て。
この場にカーリナがいることはわかる。
だが、何故訃報が報じられたはずの俺の妻エリゼ女王がここにいる!?
ユーキの隣に立つヴァレリアは驚きの表情すら見せていない。
「相変わらず感が悪いなお前の旦那。死んだのはこいつじゃなくて影武者だよ、影武者。」
「?!?!?!」
カーリナ曰く、毒殺未遂の前夜からエリゼは影武者に入れ替わっており、ドワーフたちの伝手を使い外交官ルートで国を出ていてのだ。
「ま、敵を騙すにはまず味方からってな。」
ユーキは色々と言いたいことがあったが、深呼吸し、本題に入ることにした。にしてもゴルゴン大公も人が悪い。生存していたのなら教えてくれればいいものを、、、。
「エリゼがいると言うことは、おおむね今後の動きが決まったということでしょう??教えてください。」
「なんだ、あっさりしてるな。まぁいい本題に入ろうか。」
簡潔に纏めると
1.帝国へ北方からの侵攻
2.戦後、カーリナの統治を認め外交を重視すること。
3.東エルフ共和国の残党で再び共和国を成立させること。
この3条件のもと、エルゼとカーリナは共闘関係を結ぶというものだった。
「それと、お前の友人アルト。あいつ生きてるぞ」
カーリナは葉巻を咥えて言う。
ガルマニア帝国側も一枚岩ではなく、カーリナの生存と帰還を強く信じている派閥がある。その連中が、自殺後蘇生に成功したアルトの身柄を拘束。今はカーリナたちがその身柄を管理しているらしい。
「つまり、人質か」
「まぁそういう意味もあるが、やつは防衛戦のプロだ。我々もその知識や技術は欲しい。何せ兵隊が足りんからな。防衛技術は必須なのだよ。」
カーリナは紫煙を燻らせた。
「正直言えば、お前らをこの場で殺したいよ。首を切って凍りつけにして、数百年は拝んでやりたい。でもそうも言ってられん。」
エルフたちは長命だ。そのエルフたちが第一次大戦後、今回の大戦が始まるまでの平和な 20年の間で爆発的な人口増加が起こった。
これがどう言うことかわかるか?
1000年近く生きる種族が、大量に生まれる。
つまり、生態系と食糧自給率に大きな影響を与えるのだ。
「そこで、帝国は考えたわけだ。増えたのなら減らせばいいと」
「なるほど、だから戦争を意地でも続けたいと」
隣に座るエリゼはグラスを置いて口を開く。
「それだけではない。我々の国で宰相が逮捕されたろ。あいつらは裏で海軍と帝国、この二つと繋がってやがったのさ」
なんと言うことだ。帝国は増えた人口を減らしたい。逮捕された宰相と海軍は利権拡大のため、戦争をしたい。2つの思惑が重なり、お互いの利害のため世界大戦を始めたというのか。
確かに、今回の戦争。口火を切ったのは海軍だ。そうか、全ての不可解な点がつながった。
「んで海軍を潰し、利権連中を叩きだし、制御下に置いたユーキの功績はでかい。だが、帝国側はどうかな。」
「誰も止められなくなっていると、、」
「その通り」
エリゼはグラスを飲み干し言った。
「そこで、このアバズレと手を組んで戦争を終わらせるのだよ!こいつなら王族の血統も入ってるし、信奉者も多い」
「このアル中ババアの言う通りだ。それに先の大戦でお前たちの科学力には常に圧倒された。今回の戦争も、継続することは良い案ではないからな。」
んだとコラァ!誰がアル中だコラ!
ンァア?!やんのかボケ!
兎も角、手を組む他我々に選択肢や解決方法が無いこともわかった。
「わかりました。おまかせ下さい」
「おう、よきにはからえ」
ユーキは酔っぱらい2人が大騒ぎする貴賓室から退室した。
「どうぞ、胃薬です。」
「ヴァレリア、君は気が利くね。嫁に貰いたいくらいだよ」
「今の発言、女王に聞かれたら命取りですよ」
表情は変わらないが、少し頬が赤いような。
まぁ、話し合いがうまく行った事を本国に報告しておきますか。
ゴルゴン大公との対話は翌日にずらしてもらい、一度飛行船に戻った。
「ユーキ様、本国から緊急の打電です」
「俺は今疲れている。読んでくれ」
陸軍第10師団と海軍の青年将校数名、海軍陸戦隊の小隊が王都に進軍、海軍庁舎を占領後国会を掌握。現在、エリカ女王率いる親衛隊は王都を脱出。
親衛隊は規則一条。「時の権力者に忠誠を誓うべし」この文言のとおり、女王のため戦闘を継続しています。
「な、何が起こっている?!俺は夢でも見ているのか?!海軍派は押さえ込んだはずだぞ?!」
~ 1時間前、王宮女王の間 ~
王都に爆音が響き渡った。都を囲む城壁が一部爆破された。南東に空いた大穴から、陸軍の第10師団と陸戦隊が突入。
国会議事堂は瞬く間に占拠された。
また、海軍派や反王権派の政治家が捕らえられていたバスティーユ牢獄が解放され、国会議事堂に掲揚されていた王族の旗が焼き払われた。
新しく立てられた旗棹には反王政派(左派統一戦線)の旗が揚げられ、街の至るところで人民統一戦線の歌が熱唱されている。
「なんだこれは?!」
「エリカ女王!今すぐお逃げください!」
王宮内では親衛隊が臨戦態勢に移り、各所で撃ちあいが始まった。
「反乱か?それともクーデターか?!」
「いえ、これは革命です!!」
革命という言葉を聞き、エリカは何処か
遠くを見つめた。
「そうか、ならば仕方ない」
数的劣勢は現状誰の目に見ても明らかだ。
この場で徹底交戦をするより、王都を脱出した方が良いとエリカは判断した。
かくして、10月に起こった陸海軍の一部勢力により革命が発生。議会は軍部に掌握され、王族の権限は消滅。エルゼ王家の遠縁で、政治の場から離されていたエドワルド家が王家に引き戻された。
軍部の操り人形としてウィリアム2世が王として即位した。即位したウィリアム2世の年齢は10歳のため、海軍長官のハイドリヒが執権として政治と軍を指導する地位に就任。
この一連の政変は後の世に、10月革命と呼ばれた。
エリカは北に向かう馬車の中から夜明けの空を眺めた。
「黄金の夜明けだ。新しい物語が今始まろうとしている。次こそは勝利を我が手に」
そう一言呟くと、重い目蓋を閉じ浅い眠りについた。




