9月の政変 ワルキューレ作戦
秘密会議は親衛隊側からの希望で、王都にある旧陸軍庁舎(現親衛隊宿舎)の地下会議場で行なわれる事になった。
ここは、15年前に空爆にも耐えられる地下司令部の必要性から作られた部屋。
少し古いものの、装飾はどれも一級品で秘密会議を行うにはうってつけの場所だ。
「ご参加は海軍大臣、補佐のハイドリヒ中将。海軍派の政治家のかた6名の予定でしたが、ハイドリヒ中将は本日体調不良で欠席だそうです。」
「そうか、下がってくれ」
会議開始15分前、エルトは着席し一人お茶をすすっていた。相手は誰一人として姿を見せていない。彼は一見落ち着いているように見えるが、内心作戦の失敗を想像し、かなり焦っていた。
「これはこれは、エルト殿。遅れて申し訳ない。うちの腹心、ハイドリヒが突然体調不良を訴えてな。彼は急遽予定を外すことになってしまった。」
「そうでしたか、問題はありません。ささ、どうぞお掛け下さい。」
エルトはハイドリヒ以外の主要人物らが着席するのを見て安堵、右手で爆弾の信管、タイマーを作動させた。
「皆様、申し訳ない。待ち時間にお茶を飲みすぎてしまった。少々お手洗いに行きます。開始時間を5分ほど送らせて頂いてもよろしいですか??」
「ええ、司令官も初任で緊張されておりますでしょう。我々はお待ちしますよ」
エルトは会議室を出て、扉が閉まるのを確認。その後、全速力で階段を駆け上がった。
会議場は地下室で密閉されており、爆風の逃げ道はない。爆発が起これば室内の人は間違いなく一人残らず即死するだろう。問題は閉じ込められた爆風は唯一の逃げ道であるあの扉を吹き飛ばし、地上への階段を猛烈に吹き上げることだ。
爆風に巻き込まれれば、間違いなく臓器損傷で即死。
(巻き込まれたら死ぬ!急げ!走るんだ俺!あと3分!3分で全てが吹き飛ぶ!!)
ここで、ある問題が起こった。
そう、爆弾の時限信管だ。
この爆弾の爆薬は秘密警察長官から供与され、信管はユーキの知り合いが営む小さな時計屋が細工したものだった。足がつかないよう、時計仕掛けの信管は様々なパーツを寄せ集め、昨日作られた急造品。この時限信管が誤作動を起こし午後6時を待たずして爆発したのだ。
"ドドーーーン!!"
エルト「?!?!?!」
爆発音は近くの国会議事堂内でも聞こえ、爆発の震動は王宮のグラスを揺らした。
~ 国会議事堂内 ~
「ええ~、本日の議題はここまでで」
"ドドーーン!!"
「なんだ今の爆音は?!」
「敵襲か?まさかクーデターか?!」
議事堂内では混乱が起こり、議案審議は一時中断した。「みなさん、落ち着いて下さい。情報が入り次第お伝えいたします。」国会議長は場の混乱を沈めるため、警備員に外を確認させた。
「議長!親衛隊が議事堂一帯を取り囲んでいます!」
「なに?!」
空気を察した海軍派議員の顔が一気に青ざめると同時に、議場の扉が勢いよく開かれた。礼状を持った隊員たちが雪崩れ込む。
「おい!ここは神聖な政治の場だ!軍人が土足で上がり込むとは何事か?!」
国会議長は声をあらげ、親衛隊員たちに問いただす。
「いやぁ議長どの。国家非常事態につき、ワルキューレ防衛法を執行。議会の制限と危険分子の逮捕勾留が認められました。」
元治安維持隊所属、現親衛隊少将ヴァレリア女史が礼状を高らかに掲げ言った。
「くそっ!この雌ブタめ!殺られるまえに殺ってやる!」
反王政派の議員が自身を捕まえにきたと早とちりし、拳銃を構えた。
「おい!貴様議会に銃を持ち込んでたのか?!」
議長が叫んだ瞬間、ヴァレリア女史は長い金髪をなびかせ指を指す。親衛隊員たちはそのさきに向けて一斉に発砲。銃を取り出した議員を蜂の巣にした。
「いいですか殿方。我々はもはやただの治安維持を行う部隊ではありません。法の執行部隊なのです。舐めてると痛い目見ますよ。」
撃たれた議員は正確に頭部のみを破壊されている。この光景を目の辺りにして反旗を翻すものは誰もいない。
「では、皆様にお伝えします。先ほど何者かにより海軍大臣が爆殺されました。そこで海軍派議員の方を優先的に保護し、国会は我々で警護致します。」
海軍派議員たちは、保護と言う名目で次々と親衛隊に誘導され国会から退出していった。
政敵がいなくなった頃、二人の男たちが国会に姿を表した。
「皆様お久しぶりです。」
「あ、あなたがたは?!」
そう。エリゼ女王暗殺未遂から2週間近く姿をくらましていたユーキ女王補佐官と秘密警察長官が公の場に現れたのだ。
「生きていたのか」
「死亡説、重篤な状態だとか噂されていたが」
ユーキは各議員に、エリゼ女王毒殺未遂事件と暴動の夜について、証拠と目撃証言が詳細にかかれたレポートを配布し演説を始めた。
「諸君、全ては権力と利権を求め増長した海軍の陰謀だ。諸君、我々は今帝国との戦争中だ。争っている暇はないが不正と秩序を乱す存在は法によって裁かれねばならない。」
ユーキは演台を握りこぶしで叩き、声を張り上げて問うた。
「我々は団結し、国難を乗り越えるのだ!国のため!偉大なる女王のため!全ての障壁を打ち破り!今こそ立ち上がり、武器をとるのです!」
拍手が議場を包み、エリカ新女王から賜った海軍の予算と権限を減らし、陸軍予算を当初のものに戻す勅令。その採択が決議された。勅令は議員からの反対を一切受けず、国会を通過し翌日からこの勅令をもとに新たな法案が作られる事だろう。
「これで海軍の力を削げますね」
「ただ、問題がある。東の軍港、海軍の根城はまだ手付かずだ。帝国の空襲を受け、完全に復旧していない今のうちにかたをつけなければならない」
~ 王都を東に6キロ地点 ボルガ川 ~
ボルガ川の茂みに待機していた戦車隊。
そこには、超重戦車2両と両岸に設置された榴弾砲6門、機関銃陣地を指揮するエーベルト大佐の姿があった。
「エーベルト大佐。海軍のオーロラ号が臨戦体勢に移行しています!!」
「そうか、相手は旧式とはいえ戦艦。撃ち合いは正直避けたかったのだが、、、」
オーロラ号の主砲は20cm砲3門がゆっくりと旋回を始めた。また、片舷5門の12cm速射砲とガトリング砲が6基も王都方面に向けられた。
「時は来た。機銃陣地掃射始め!榴弾砲も発砲開始!」
大佐の命令で機関銃が一斉に火を吹いた。軍艦の主砲を囲う防御シールドは雨風を防ぐためのもので薄く、大きな缶詰に銃弾を撃つように貫通していく。
シールド内で逃げ場のない海兵たちはこの鉄の棺桶の中で次々となぎ倒され、砲塔内で血の海に沈んだ。
戦闘開始直後に戦艦の主砲は沈黙したが、軍艦の両舷に取り付けられた副砲が応戦を始め、両岸に設置された榴弾との撃ち合いが始まった。
「敵が榴弾砲と機銃に気を取られている隙だ。いいか!外したら次はない!よく狙え!」
茂みに隠れた超重戦車の30cmロケット砲がオーロラ号の土手っ腹に照準を合わせた。
「撃てぇ!」
1号車がロケット砲弾を発射、発射炎は車両を覆い、凄まじい爆音とともにオーロラ号手前2メートル地点に着弾。爆発により15メートル程の水柱が上がった。
衝撃は旧式の船体に亀裂を生じさせ、艦内で一部浸水がおこった。これには海軍側も驚き、停止していた軍艦の動力炉を稼働し、退避を始めた。
「くそっ!1号車がはずした!逃げられるぞ!」
2号車の射手はタバコを吐き捨て、照準メモリを3つ上げて狙いを修正。砲の引き金を引いた。2号車から発射された口径30cmロケット砲弾は軍艦の中腹に命中。
ロケット砲弾は時間差で爆発し、船体は衝撃に揺れた。艦内に発生した火災が通路に並べられた弾薬に次々と引火。
命中から5分もたたずに、軍艦は爆沈した。
~ 海軍軍港 司令部 ~
ハイドリヒ「ええ、おそらく大臣は暗殺され、オーロラ号も爆沈。なので、略式的に海軍長官の地位についた私が指令を出します。」
「ええ、皆様の言うようにおそらく我々の権限や力は弱まる事でしょう。なので、今は中央には従う姿勢を見せた方が得策かと」
~ 王宮、女王の間 ~
「海軍大臣や利権政治家の排除を完了したそうですね」
エリカの表情は曇っている。
それもそうだ。
暗殺を実行したエルトは地下室から地上に吹き上げた爆風と炎を半身に受け、左足と左腕の骨折、半身にやけどを負い全治6ヶ月。
今は軍病院で皮膚移植の手術を受けている。
「では、私から報告いたします」
エリカはこの作戦を進めたユーキと秘密警察長官を侮蔑の眼差しで眺め、報告を聞く。
作戦決行から二日がたち、当初の予定どおりリストに上がった危険因子は暗殺を除き、政治の場から取り除いたことになる。しかし、予想外の出来事も。
海軍大臣が死亡し、先日海軍内の序列2位のハイドリヒが海軍長官に就任。そのハイドリヒ長官が海軍の監査や中央からのコントロールを受け入れ、軍の指揮権を女王に委任。暗殺未遂や暴動の実行犯を全て引き渡すことを提案してきた。
「わかりました。その提案を女王の名で受け入れます。」
ハイドリヒの提案は議会でも承認され、女王の権限のもと中央政府のコントロール下に入った。
「ガルマニア帝国側の侵攻は雪解けの3月と予想されている。それまでに全ての軍を掌握し、戦争準備に注力できるのは大きい。」
「そうですね。ただお父様の予想通りに物事が運ぶとも限らないですよ。」
エリカは一枚の手紙をユーキに渡す。
「こ、これは?!」
「ええ、私が生まれる前。20年以上前の戦争で死んだとされていたエルフさんからだそうですよ。」
まさか、ガルマニア帝国北方で遊牧民たちをまとめ新たな勢力を作っていたとはな。
~ 手紙の内容 ~
差出人 カーリナ
「我が宿敵のユーキ、エリゼへ、あなた方と共に帝国の打倒を試みたい。ドワーフの首都エルドラドにて待つ。良い返事を期待する」




