南部奪還戦
(懐かしい南部の都市。俺が行ったのは、火薬原料を求めて調査に行った時以来だ。この地が敵に墜ちたままでは、戦争継続はおろか長期持久戦に持ち込まれ負けるのは確定だ。)
室内には、陸軍大臣と海軍大臣、そして今しがた呼ばれ入室してきた、選ばれた佐官クラスの軍人たちが着席した。
もはや一刻の猶予もない。
「諸君、我が国はこの由々しき事態を打開しなくてはならない。どうか死力を尽くして奮闘してもらいたい」
作戦案は、新造飛行船3隻で構成された空中艦隊部隊が南部諸都市後方に控える敵の主力部隊と補給網を空爆。前線は全て押し上げるのではなく、針のように一点を突破、正面に気を取られた南部諸都市後方から囲み混むように回り込み、殲滅するというもの。
「し、しかし数百キロを回り込むような包囲戦は今までに前例が、、、」
「王国に残された戦車50両、新型砲戦車2両で敵の後方に一気に回り込み、敵を殲滅するのだ!」
だが、地図にもあるように南部は街を出ればまわりが全て砂漠と乾燥地帯で安全に補給できるところなどどこにもない。
「あの土地は戦略的には、火薬の原料が産出されており重要です。ですが、灼熱の乾燥地帯ですよ?!あの地を大軍で移動するなど正気の沙汰とは思えません」
「そ、そうだ!正面の部隊は最悪後方に下がれるから良いが、敵の背後に回り込む戦車隊は砂漠で故障したら確実に干からびて死ぬぞ!」
大臣たちは実行すべきだと考え沈黙しているようだが、佐官の半数近くは反対している。
「では、我々が全責任を持ってその任務やらせていただきます」
エリカ、エルトの2名が名乗りをあげた。
お前らならやると言ってくれる。そう期待していた通りになった。あの激戦地、フリードベルク攻防戦で生き残った歴戦の兵はやはり顔つきが違う。
「よし、君たちに戦車隊を預ける。残りの者たちは正面からいくぞ。いいな」
陸軍大臣の一言で先程まで反対していた者たちは口をはいと動かし、足早に退出していった。
「すまないね参謀。彼らの大半はまだ戦争を知らない軍学校を出たばかりのヒヨコたちなんだ。だから、すぐ教科書通りに動きたがる。」
「わかります。兵は生き残ってこそ経験を次に生かせる職業ですから」
ユーキは戦車隊を王都壁外に召集させ、議場を退出した。壁外に兵が集まると、その場で作戦の細案が掲示された。
「いいか。君たちは1週間後に開始される飛行船による爆撃と陽動の正面突破隊の前進が始まるまでに、南部諸都市より南30キロ地点の砂漠エリアに潜伏し後方から敵の後方から奇襲をかける準備を整えること。当日は日の出から三時間以内に、南部大都市アラメインを制圧し本隊と合流、鉱山を押さえ、周囲の村や町を解放するのだ」
オオオオオオ!!!!
今回の選抜部隊は南部に故郷を持つものが多い。士気も高くて当然か。
「ではエリカ中佐、エルト中佐あとは頼む」
「ハッ!」
作戦案(参加兵力のページ)
真正突破部隊
歩兵50000名
馬車搭載の新型機関銃6門
砲兵3000名
軽量速射砲100門
飛行船部隊
飛行船3隻
乗員60名、各飛行船50キロ榴弾を90発
奇襲部隊(戦車隊)
戦車52両
戦車兵260名
随伴歩兵106名(各車両上に3名ずつ)
エリカ「ふむ、300名程度なら砂漠の民が使っている隠し井戸でも水分は賄えそうだな。」
エルト「ああ、ただ砂嵐と一面砂漠の風景で方角が心配だ」
エリカ「そこは、南部出身の土地勘ある兵が多いからなんとかなるだろう」
戦車には乾パンや干し肉など日持ちする食料と弾薬、30Lの水タンク二つと井戸汲み用のバケツが詰め込まれた。
作業が終わると、おのおの昼食を取りに王都壁内に戻る。
「エルト、昼飯何にするよ?」
「エリカが気になってたハンバーグの店行ってみるか。どうせこの後、作戦中は干し肉しか食えないし」
城壁に近い、旅人向けの大衆食堂。ここに、顔の大きさほどあるハンバーグが売りの店がある。エルトはすでに、店の予約をしていたらしく行列に並ばず、すぐお目当てのハンバーグにありつけた。
「お、おいしぃぃぃ!!」
「家畜用の飼料は使わず、牧草のみで育てた旨味のある肉って説明に書いてあんな」
エリカの笑顔を見たのはいつぶりだろう。最近まで、ずっと要塞の塹壕陣地で勤務してたこともあり、よく見ると少しやつれて見える気もする。
(作戦中は、おそらくずっとしかめっ面してるんだろうなー。美人がもったいない)
「おい!人の顔をじろじろ見てないでお前も冷めないうちに食え」
「うーい。」
~ エルゼ国要塞司令部 地下陣地 ~
グラント中将「ふむ、あと2時間後に戦車隊が王都を出発。防衛陣地を通り、大きく東側へ回り込み、1週間の移動の末敵の背後を奇襲か。」
「では、我れらの要塞砲で敵のゲリラ兵を吹き飛ばしてやりますか」
エルゼ王国南には大破した軍艦の砲塔をそのまま埋めた防衛陣地がある。この陣地防衛を任されていたグラント中将は、敵の大軍以外への砲撃は節約のため禁止していた。
「よし、各砲塔に伝令。最大射程の35キロ地点から15キロ地点一体に艦砲射撃を実施せよ!森に潜むゲリラ兵を吹き飛ばせ!」
~ 各砲塔 ~
カンカンカンカンカン!
「伝令!各砲台、最大射程の35キロ地点から15キロ地点一体に艦砲射撃を実施せよ」
地下六階から階段を駆け上がり、息を切らした伝令兵が指令書を広げ叫んだ。
「おお!ようやく撃ちまくれるぞ!」
「新しい司令官は節約思考だから腕がなまるぜ」
主砲装填いそげ!
砲撃開始まで後5分!
そこから各砲塔、2時間自由射撃!
「っしゃあ!早く砲弾あげろ!」
~ エルゼ王都 壁外 ~
「いやー、お腹いっぱい!幸せ~」
「何であのサイズのハンバーグ二つ食えんだよ。二キロあるぞ二キロ。」
「エルトはモヤシ男だからな、、この音は?」
「あぁ、たぶん昨日まで勤務してた防衛線の戦艦砲台だろ。俺たちが通る前に、前面の敵を掃除してるんだろ」
昼食を終え、すべての車両で乗員乗車完了。
「よし、予定時刻だ。魔力炉開け!戦車隊一列で前進!」
エリカはハッチから身をのりだし、旗信号を送った。
戦車隊は合図を確認。味方の要塞陣地から艦砲射撃の支援を受けながら、進路を広大な砂漠・乾燥地帯へ前進していった。
「そうか、わかった」
エリカたちが出陣してから四日後、エリゼ女王の艦隊が帰還。ユーキは帰還したエリゼに戦況を報告し、南部奪還作戦を三日後に発動する事を説明した。
「いやー、大変だったぞ。精霊たちの湾岸都市部に対して艦砲射撃を行い、通商網にダメージを与えたまではよかった。だが、まさか我々の戦艦に向けてゴーレムが50キロ爆弾を遠投してくるとはおもわなんだ」
「あー、道理で各所に穴ぼこが空いてるわけね。」
5隻の戦艦は比較的軽微な損傷のみで帰還したが、上陸船を積んだ貨物船が2隻沈んだ。
少なくない数の水兵と民間の船員が死んだ。
海軍大臣がメモ帳を開く。
「5隻の戦艦はこれから約1週間ほどの整備をおこない、先の戦闘で大破し、二日前に修理を終えた戦艦2隻が入れ替わる予定です」
「そうか。では全ての艦が戦線に復帰し、陸軍が南部の資源地帯を奪還次第、精霊王国の湾岸都市に上陸戦を仕掛けるぞ。」
エリゼ女王の考えでは、南部都市の奪還後そのまま陸軍は南下。海軍は湾岸都市に上陸し北上。北と南から精霊王国を挟み撃ちにするつもりらしい。
(だが、火薬のストックは半年分もない。南部の資源地帯を奪還しても、大規模作戦を展開し続けるのは正直厳しい)
軍艦の艦橋から降りる際に、港湾都市の奥に大きな施設が見える。
あれは、大型の水素発生器だ。飛行船が浮上するのに必要な水素を作り、安全面から、飛行船が出港する一時間前から水素発生器を稼働、飛行船に水素を充填する。工場から内陸に向けてかなり広い滑走路が延び、青々とした芝生の絨毯が遠くまで広がっていた。
「そう言えば、エリカやエルトたちはどうした?」
「あぁ、あいつらは今戦車で南部都市へ先行していますよ。最近、魔石の放つ高周波を利用して開発された電波信号機で現在位置はおおよそ把握してます」
「電信は凄いな。遠くにいても音声か打電が聞こえる。発電機が弱い小型の受信器は精度に難がある。だが、軍艦や飛行船、列車や要塞など、馬力の高い発電機を扱える所はかなりの精度で送受信できる」
今見た改修済みの艦には、電信機器が備え付けられている。当然、外洋で待機している損傷した艦にも、この後修理と同時に近代化改修と巨大アンテナの設置が行われる予定。
「これで、戦争が変わるな」
「ああ、火縄銃と騎馬で突撃してたあの頃が懐かしいよ」
取り巻きの古参の将兵たちも頷いていた。
現状報告と改修済みの戦艦の謁見を終えた女王と俺は馬車に乗り込み、王都へ向かった。
「そう言えば、空中艦隊構想の内容は見たか?」
「見ました。硬式飛行船を50隻揃えるってやつですよね。しかも、その予算のとりかたがねぇ。」
海軍大臣が議会で発言した、今回の帝国港湾都市上陸戦で、ガルマニアの銀行や議会から略奪した帝国金貨5万枚を海軍の予算として使うってやつ。上陸戦は海軍陸戦隊が全てを担い、陸軍の手は一切借りていない事を指摘して、議会の承認を半ば強引に得たんすよね。
「あぁ、当初の5万枚はあまりにも多いので昨日の裏交渉で海軍は4万で手打ち、残りは国庫に納めることになった。」
「しかし、硬式飛行船47隻を建造するには予算が多すぎると」
「あぁ、水素工場や飛行場、格納庫等を足しても金貨10000枚は余る。なぜなら、新造する飛行船の大半は既に軍事予算として財務庁が承認しているからな。」
それもそうだ、現在運用している3隻の他に現在6隻が新たに完成間近。半分作りかけの状態の物は5隻ある。
(海軍は何を企んでいる???)
気になることと言えば、先程見た軍港の建造ドックがシートで覆われていた。新規建造艦は報告書ではなかったはずだ。
「ま、その件の調査は任せたよユーキ参謀。」
「は?え、?えええぇぇー?!?!」
王都の城門を馬車がくぐるると、エリゼは馬車を止め、知り合いの洋服屋に行き、着替え終えるとそのまま飲みに何処かへ消えてしまった。
作戦開始当日。要塞線から騎馬隊と歩兵軍団が一斉に前進を開始した。最前線には飛行船が飛来し、敵の潜む小さな集落や森に爆撃を敢行。歩兵たちは敵の怪物たちに肉薄し、爆薬を詰め込んだリュックサックを投げつけた。
特に鋼鉄の鎧を着た怪物は動きが鈍く、決死の攻撃で撃破された。
「よし、正面突破隊は半日で100キロ前進。戦車隊は南部諸都市へ進撃。午前で3つの都市を解放!」
「残る都市はあと2つ。飛行船は、南部都市へ!」
~ 戦車隊 ~
「戦車5両大破炎上!」
「敵の本体が後方に陣取っているとは予想されていたが、まさか戦力の大半がこちらにいたとはな」
南部都市を塹壕で取り囲むように張り巡らされ、戦車隊は最南端の都市アルメイン6キロ地点で苦戦を強いられていた。
「エリカ隊長。中央より打電!突破部隊は想定より早く三つの都市を奪還!」
「了解した!重戦車で敵の陣地を吹っ飛ばせ!何としても前進するのだ!」
防御陣地はガルマニア帝国の防衛陣地に酷似している。精霊どもの軍団にエルフ将校たちが協力しているに違いない。
塹壕を越え、また次の塹壕を越える。
「見ろ!飛行船だ!飛行船が爆撃を開始したぞ!!」
飛行船による防衛陣地への爆撃が始まった。
「すすめ!敵が怯んでいるうちにすすめ!」
~ エルゼ王国王宮 ~
「それは本当か??」
「ええ、先ほど」
ついに、東エルフ共和国最後の防衛戦が突破され市街戦が始まった。一時間おきに電気信号が送られてきた。
現地に残った戦車隊は、空中戦艦の猛爆で壊滅。突っ込んできた敵の戦車で、友軍の防衛陣地は次々に蹂躙された。
5時間後、暗号解読班から最後の打電は議事堂炎上、残るは軍の庁舎と要塞砲陣地のみ。アルト司令官は自決。との報を受けた。
「これは、、、来るな」
「間違いなく、こちらに来ますね」
その日の夕焼けは燃えるような赤色だった。




