新兵は最前線の女神
戦争から16年後、二児の母で新女王に即位したエリザ2世はエルフの国と停戦条約を延長し、平和維持に心血を注いでいた。
一方、科学技術の研究を推進し、速射可能な薬莢を使ったボルトアクションライフル、蒸気機関車や蒸気軍艦等の新兵器も登場。機関車の路線はエルゼ国から北のドワーフ、東の旧フリードベルクまでを結んだ。
無線はまだ無い(泣)。
文明レベルは中世ヨーロッパから産業革命期の水準まで上がりつつあった。
~エルゼ王国 王宮~
宰相「来年度の予算説明は以上になります。エリゼ女王陛下」
エリゼ女王「うむ、ご苦労であった。」
来年度の予算委員会が終わり、エリゼは自室に戻った。
「聞いてくれよユーキ!王になったら平日から酒飲めると思ったのに、毎日書類に謁見の対応に、腹黒貴族どもの夕食会に!!」
女王の座についてから、戦線に出れなくて相当なストレスが溜まっているらしい。先の戦争は長期の停戦となり、既に20年近く経過していた。
エリゼは先の勲功と、先代の国王の遺言により6年前の冬、エリゼ2世として女王に就任した。
先日は娘が新兵として西方の駐留軍に配属されたと聞き、娘には何も言わなかったが浴びるほど酒飲んでたな、、、。
エリゼは軍人時代と比べて角がとれすっかり丸くなっていた。今までの好戦的な姿勢は薄れ、むしろ平和主義路線へと舵をきっている。
それもそうかエリゼは2児の母。人類とエルフの戦争が起こらないよう定期的な連絡会を相手の王家と行い、停戦期限の延長を続けていた。
とは言え、なんであれだけ酒飲んでシラフなんだ。
それはともかく、俺は戦友のアルトに速達で近況報告と娘の配属を知らせる手紙と旧エリゼ大隊の連隊旗、菓子折りつきで送らせた。
「拝啓 親愛なる我が戦友アルトへ
御子息の次男が今年従軍されると聞きお祝い申し上げます。私の娘も16になり貴殿の管轄する地区へ従軍致しました。機会があれば様子を見てやって下さい。
本国では、エリゼ女王が帝国との戦争をできる限りの努力で回避しようとしています。しかし、戦争賛成派の民衆議会の圧力が日々強まり、一部海軍でも不穏な動きが、、、。
一言で言いますと戦争が近づいているのです」
~ フリードベルク郊外 練兵所 ~
「駆け足!餓鬼ども!グラウンド50周だ!」
「おい!また手を抜いてるな!エルト二等兵!エリカ二等兵!お前らはプラス10だ!」
練兵所のクラウンドでは、昨日蒸気機関車でエルゼ国から送られてきた新兵たちと現地の新兵たちがさっそくしごかれていた。
「いいか!ボルトアクションは素早く!」
ズガガガガガーーン!
「おおお、流石教官!連射速度がまるでガトリング砲みたいだ!」
「お前らもこれくらいやれるようにな!にしてもまだあいつら走ってんのか?」
エルト「あーあ、陸軍なんざやめときゃよかった。時代は海軍!海軍にいってりゃなぁ。」
エリカ「いくらあんたが、アルト司令官の息子だからって、成績最下位に海軍は無理でしょ」
エルト「そーいうお前も教官の話まともに聞いてないよな」
エリカ「だって、戦列歩兵の戦術なんてアホでしょ。あんな横一列になって最新の銃のいいまとよ」
走り終わった二人は教官の許可をもらい、井戸で飲み水を汲んだ。
エルト「いいよなぁ、軍艦の30cm砲!でかくてロマンあるよな!」
エリカ「ちっさくて短いあんたには陸軍の7mm小銃のがお似合いよ」
エルト「んだとこらぁ!見たこともないくせに!俺の大砲見せてやろうか!」カチャカチャ
???「やめんかバカモンが!」ドスッ!
エリカ「アルト司令官!?」
そこにはエルトの父で東エルフ共和国駐留軍総司令のアルトがいた。
アルト司令「うちの愚息がすまない。御詫びと言っちゃなんだが、今夜うちで夕食でもどうだい??」
エリカ「いいんですか?!」
エリカは自炊があまり得意ではなく、軍用のレトルト食品に飽き飽きしていた。エリカは夕食の誘いを嬉しそうに受けた。
訓練が終わると外出許可を申請し、街の中央部にあるアルト邸を目指した。
アルト「ようこそ、我が家へ」
エルト「おう!来たか!上がれよ!」
エリカはアルト宅に上がり、食卓の席に着いた。
アルトの奥さんマリンの手作り料理を食べ進めているとアルトが話し始めた。
「エルト、エリカさん。五日前の例の件は知っているね?」
例の件とは、東エルフ共和国とガルマニア帝都の国境線で所属部隊不明の兵が銃を乱射し、両国に十数名の死傷者が出た件だ。
エリカ「存じております」
エルト「ああ、そういやそんな話してるやついたなぁ」
この銃撃が切っ掛けで、両国はお互いに責任を追求し、軍事的な野心があるのだとお互いに非難した。無論、エリカの母である女王や相手の国王は今回の火消しを始めたが正直何処まで抑止になることか。
これを受けて新設されたエルゼ国の海軍が勲功と軍内部での影響力増大を狙い、最新鋭戦艦五隻を伴い港を出航した。
あの艦の砲は敵の空中戦艦を撃ち落とすための強力な砲だ。もしエルフの南部都市に艦砲射撃を実施しようものなら、、、。
エリカ「すみません、それで我々に何を言いたいのでしょうか?」
アルト「あぁ。戦争が、もうじき大きな戦争が起こる。そうなればここ旧フリードベルクは人類側の最前線の都市になる。私の権限なら君たちふたりを安全な後方に、、」
エリカ「嫌ですアルト司令。私は最後まで戦いますよ!」
エルト「そーだぜ親父。俺は兄貴みたいに死なないから安心しろ!」
アルトの第一子は、戦争を望まない当時の両国政府によって揉み消された戦いで戦死していた。死因は訓練中の事故死として処理されていた。
アルト「わかった。これ以上は何も言わん。エリカさん若き日の母君に似てきたね」
アルトは何処か懐かしそうな表情でエリカの顔を見つめた。そのあと、腕を組みブラックブルーの下地に白いドクロが薔薇を咥えた紋章の古い軍旗を見つめていた。
アルト(なるほど、いざとなったら私も大隊員達のように潔く、、、)
アルトは昔の戦友たちを思い出していた。
懐かしい要塞戦、無茶な敵陣の破壊工作、この街での軍団総出の結婚式。
アルト(そうだな、最後の時が来れば私もあいつらのもとに、、」)
エリカ「マリンさん!アルト司令!夕食美味しかったです!今日はありがとうございました!」
マリン「ありがとね~、またおいでよ~。今度はお酒を」
アルト「ダメに決まってんだろ。エリカさん。帰りは気をつけて!」
夕食を終え、挨拶を済ませたエリカは宿舎へと戻っていった。




