第十三話:閉ざされた坑道
鉱山の奥へと進むにつれて、空気はさらに冷たくなっていった。崩れかけた通路、苔むした石壁、そして天井から滴る水滴が時間の流れを感じさせる。セイとリィナは無言のまま、慎重に足を進めた。
「……ここ、昔はたくさん人がいたんだよね?」
リィナの問いに、セイは頷いた。
「鉱石を採掘してたって記録がある。でも、事故があって閉鎖されたらしい。たぶん、そのときの避難場所があの管理棟だったんだ」
「でも、それだけじゃない気がする」
リィナは足元の瓦礫を踏みしめながら言った。「事故っていうのが、あまりにも都合が良すぎる。誰かが、封じたかったんじゃない?」
セイは短剣を抜いた。刃先が淡く光り、再び記憶の気配を示している。
坑道の分かれ道のひとつが、ほかよりも明らかに空気が重い。
「この先だ」
ふたりは慎重にその通路を進む。途中、崩落した壁や倒れた木材を乗り越えながら、ようやく広い空間に出た。そこは円形のホールのような形をしており、中央には石碑のようなものが立っていた。
「……なにこれ。祭壇?」
リィナが近づこうとした瞬間、セイが手を伸ばして彼女を止めた。
「待って。何かいる」
奥の暗がりで、カツン、と足音が響いた。
「誰……?」
ふたりが構えたそのとき、ゆっくりと姿を現したのは、黒いフードを被った人物だった。背は高く、顔は影に隠れて見えない。手には何か杖のようなものを持っている。
「……“記憶の刃”の使い手か」
その男の声は低く、どこか聞き覚えがあるような響きだった。
「お前は……“影の男”か?」
セイが問いかけると、男は笑ったように肩を揺らした。
「それは過去の呼び名だ。今の私は……ただの“管理人”にすぎない」
「管理人……? 何を、誰の記憶を……」
「すべてだ。ここに集められた記憶、その始まりと終わり。そして、お前たちの“鍵”もな」
男が杖を地面に突いた瞬間、石碑の周囲に淡い光が灯った。短剣が震え、刃の奥から強い“記憶の波”が押し寄せてくる。
「うっ……!」
セイが膝をついた。リィナも頭を押さえて苦悶の表情を浮かべる。
「これが、“全記憶保管庫”の力だ。刃に宿る記憶は、すでに私が封じている。お前たちの旅はここで終わる」
「……終わらせない!」
セイが立ち上がり、短剣を構えた。その刃が放つ光は、影を切り裂くように強く輝き始めていた。
「俺たちは、真実を知るためにここまで来たんだ。父の記憶も、守りたかったものも、その全てを……奪わせない!」
影の男が無言で杖を振る。空気が震え、視界が歪んだ。
その瞬間、短剣の刃が閃光を放ち、セイとリィナの周囲に結界のような光の膜が展開された。
「この刃……まさか……」
影の男がわずかに動揺したように後退る。
セイは刃を掲げ、前へ一歩踏み出した。
「俺たちは、まだ終わらせない。記憶を受け継ぎ、未来へ繋ぐ。そのために……戦う!」
光が爆ぜた。
坑道の深奥で、ふたりの旅はついに“戦い”の始まりを迎えていた。




