第十二話:鉱山の入り口
東へと進んだセイとリィナは、谷を抜けた先の険しい山道を進んでいた。木々は徐々に少なくなり、代わりに岩肌が露出した斜面が続くようになる。標高が上がるにつれて空気もひんやりとしてきて、鳥のさえずりすら聞こえなくなっていた。
「この辺り、ほんとに人が通ってたのかな……」
リィナが吐く息が白くなり、肩で呼吸を整えながらぼやいた。
「地図には載ってないけど、鉱山跡があるって情報が古文書に残ってた。父さんたちは、あえてそういう場所を選んでたのかも」
セイは短剣を手にして、軽く柄の部分をなでた。すぐにそれがわずかに震え、刃の奥に眠る“何か”の気配を伝えてくる。
その反応は、確かにこの山の中にある。
山道の途中、小さな獣道のような分かれ道があった。草に覆われていたが、何かが通った痕跡がかすかに残っている。
「……こっちかも」
ふたりは慎重に草をかき分け、道なき道を進んでいく。数分も歩かないうちに、大きな岩の向こう側に灰色の建物が姿を現した。古い石造りの構造物で、半ば崩れかけていたが、入口らしき場所ははっきりと残っている。
「見つけた……これが、鉱山の跡地?」
リィナが目を見張った。近づくと、錆びた看板が斜めに突き刺さっており、そこには“管理棟”という文字がかすかに読み取れた。
「中、入ってみよう」
セイが扉に手をかけた瞬間、短剣がびりっと鋭く震えた。
「……記憶がある。しかも、強い反応だ」
中に足を踏み入れると、薄暗い空間に埃の匂いが充満していた。床は石畳で、ところどころ苔が生えている。壁際には古びた棚が並び、その多くが倒れていた。
「ここ、もしかして……避難場所みたいに使われてたのかな」
リィナが足元を照らしながら進む。やがて、奥の部屋の一角に、崩れた机の陰から何かがのぞいていた。
「セイ、これ……手帳?」
リィナが拾い上げたそれは、革表紙の小さな手帳だった。ページは何箇所か破れていたが、いくつかの記述が読める状態で残っている。
『物資の補充完了。次の“記憶の鍵”は南部の礼拝堂にて受け渡し予定。リオ=ファングの指示による』
「リオ=ファング……父さんの仲間だ。確か、記憶の刃の保管に関わってた人物」
セイの声に、リィナも息をのんだ。
「じゃあ、この場所で“鍵”が一度保管されていた可能性がある……」
手帳の奥から、もう一枚の紙片が落ちた。それは、擦れて読みにくくなっていたが、こう記されていた。
『保管者は一名に限定。“影の男”には注意せよ』
「……影の男?」
セイとリィナは顔を見合わせた。旅の中で、そんな呼称を聞いたことはなかった。
鉱山の空気が、急に冷たく感じられた。
記憶の残響とともに、ふたりの旅は次の局面へと移ろい始めていた。




