第十一話:追憶と再会
翌朝、ふたりは村を出る前に、リィナの母の墓前にもう一度足を運んだ。風は穏やかに吹き、昨日と変わらぬ光景の中で、ふたりは言葉少なに祈りを捧げた。
「また来るね。今度はきっと、もっと笑って話せるようにするから」
リィナがそっと墓標に触れたその手は、どこか柔らかく、そして強さを宿していた。
村を発つ際、数人の村人たちが笑顔で手を振って見送ってくれた。その中には、かつてリィナの母と親しかったという老婦人もいて、彼女は小さな包みを差し出した。
「お母さんが好きだったお茶葉よ。よかったら、旅の合間に飲んで」
リィナは目を潤ませながら、それを大切そうに受け取った。
「ありがとう……必ず、大事にするね」
村を離れてすぐ、セイは進行方向とは逆の道へ目を向けた。草原を抜けた先、小さな町がある。
「……寄っていってもいいかな? 俺の方も、報告しておきたい場所がある」
「うん、もちろん。大事な人のことだよね」
セイは頷いた。ふたりは草道を辿り、小さな町の外れにある広場に立った。
そこには、一本の大きな木があった。その根元に、白い小さな花が咲いている。
「ここが、俺とメルがいつも話してた場所。旅立ちの朝、ここで『必ず帰ってくる』って、そう言ったままだった」
セイは鞄から小さな手紙を取り出し、花のそばにそっと置いた。
「……きっと、もうここにはいない。でも、いつかどこかで再会できるって、信じてる」
リィナは何も言わず、その隣に立った。ふたりの影が、花の上に長く伸びていた。
そのまま町を離れ、再び本来の旅路へ戻ったふたりは、次なる目的地について語り合っていた。
「次の記憶の反応、東にあるっぽい。山間の古い鉱山跡……らしいよ」
「鉱山跡って、荒れてそうだな。でも面白そう。父さんがそんな場所にも足を運んでたなんて」
「もしかしたら、そこで仲間と何か取り決めをしてたのかもしれない。記憶を“保管する場所”として選ばれてた可能性もある」
リィナは腰の短剣に目を落とした。
「ねえセイ、この旅が終わったあと、私たちってどうするんだろうね」
突然の問いに、セイは少しだけ足を止めた。
「どう……って?」
「ほら、全部の記憶に触れて、真実がわかって、それで終わったらさ。私はきっと、父さんの意思を継いで、何かを守る側になると思う。でも……あんたは?」
セイはしばらく考えてから、笑った。
「そのときは、リィナの隣にいるよ。守る側でも、旅する側でも。俺は、誰かの“記憶”を守れる人になりたい」
その答えに、リィナは少し驚いたような顔をしたあと、小さく頷いた。
「……じゃあ、隣にいてもらおうかな。これからも」
風が吹いた。
旅はまだ続く。けれど、この“寄り道”が、ふたりの絆を確かにした。
次に向かう記憶の地には、どんな真実が待っているのだろうか――そんな期待を胸に、ふたりは東の山を目指して歩き出した。




