65 お墓参りとルミナの未練
翌日、村ではすっかり有名人となってしまったらしい私は、外に出るたびに色んな人に声をかけられた。
村長さんの家に行く前にちょっと市場を覗いていこうと思っただけなのに、歩くたびに売りものの果物や野菜をタダで渡されて、通りを抜ける頃には紙袋ぎっしりに詰め込まれていた。
結局、そのまま村長さんの家に向かうこともできず、一度宿屋へ荷物を置きに戻らなければならなくなった。
村の人のご好意はとてもありがたいんだけど、あちらの世界ではずっと地味に生きてきた人種なので、この好待遇がすごく居心地が悪い。というかいたたまれない。
子供たちが目覚めたらすぐにこの村を発とうと心に決めた。
そんな子供たちが目を覚ましたのは、救出から二日後の午後だった。
どの子もさらわれた時のことは覚えておらず、自分がなぜ寝かされているのかも分かっていない様子に私は安堵して胸をなでおろした。トラウマになっていないようで良かった。
きょとんとした子供を抱きしめて涙を流す母親の姿がとても印象的だった。
村長さんの家を出る前に引き留められた私とシルヴィアさんは、謝礼ですとお金の入った革袋をそれぞれ手渡された。
結構ですと断わろうとした私の横でシルヴィアさんが先にしっかりとお礼を言って受け取ってしまったので、私も受け取らざるを得なくなった。
それから村長さんはテト君の遺体が無事にお母さんと一緒のお墓に埋葬されたことを教えてくれた。
あとでお参りに行きたいからと墓地の場所を教えてもらってから、門のところまで足をのばして日雇いの御者さんを紹介してもらえないか聞きに行った。門番さんが言うには、明日の午後には人を確保してもらえるようだ。
思ったよりも早い出発になったので、明日の午前中にテト君のお墓参りに行ってこようと決めた。
旅支度の準備をして、その日は早めに就寝することにした。
***
翌朝。
いつものように日の出とともにルミナに起こされた私は、朝食を食べる前に外に繰り出した。
朝もやに包まれた村の中を北の外れまで歩いていけば、教えられた通り墓地らしき場所にたどり着いた。
こちらのお墓は腰くらいの高さの細長い石を立てて名前を刻むことで墓石としているらしい。オルト村の教会にあったお墓も確か同じ形をしていたように思う。
石に刻まれた文字をルミナに読んでもらってテト君とテト君のお母さんのお墓を探し出すと、その墓石の元にお花を二輪添えて黙祷を捧げた。
聞けば、こちらの世界では墓前に花を添えたりしないそうで、ルミナに不思議そうな顔をされてしまった。
テト君の笑顔とお母さんの穏やかな表情を思い出す。
どうか安らかにお眠りください。
私が目を開けると、隣に立つルミナは朝焼けの空をじっと見つめていた。
その表情からは何を考えているか読み取ることはできない。
ルミナは私の居場所になりたいって言ってくれたけど、成仏しなくていいんだろうか。
「……ねえ、ルミナ」
『なんだ?』
「ルミナもテト君たちが行ったところ、行きたい?」
そう聞くと、ルミナはこちらに視線を向けて、おどけたように肩をすくめてみせた。
『俺はお前と一緒にいたいと言ったはずだが?』
「そ、それとこれとは別にして――――ルミナは成仏したくないの?」
『お前と離れて成仏するくらいなら、俺は成仏しないでこのままお前と旅を続けていたい…………まぁ、正直死後の魂がどこに行くかについては興味はあるが、それだけだ。仮に成仏したとして、俺は生前いい行いをしてこなかったから天じゃなく地に落ちるかもしれないしな』
軽口を叩いているつもりにしては内容が重い。
どう反応したらいいか分からなくて黙りこくっていると、ルミナは私の頭をぽんぽんと撫でてくれた。
されるがままにルミナに頭をなでられながら、私は少し前のことを思い出した。
「前にさ」
『うん?』
「前に、バゼル村でルミナの未練のこと聞いたことがあったじゃない?」
『あったな』
「あの時……ルミナ、未練が何かはわかった気がするって言ってたけど、その未練ってこれのことだったの?」
『…………ああ。まだお前と一緒にいたい。それが俺の未練だ』
アメジストのような瞳がまっすぐに私を捉えた。
朝焼けに照らされていつもより明るく見える瞳の色に、私は目が離せなくなった。
綺麗な目。
私は無意識にルミナの顔に手を伸ばした。
けれど、いつものように私の手はルミナに触れることなく、彼の体をすり抜けてしまう。まるで私とルミナの距離を表しているようで、それがたまらなく寂しい。
「ルミナはさ……私がこっちの世界を選んだら、サリーナさんみたいにずっと一緒にいてくれるの……?」
『リンが望んでくれるなら、俺は永遠にお前と一緒にいてやる。絶対に一人にはしない』
すり抜けてしまった私の手を、ルミナが実体化した手で掴んで彼の口元に引き寄せる。
指先に何かが触れる感触に頭が真っ白になった。
ルミナの唇が、私の指先に触れていた。
まるで王子様みたいな動作に、私の頭は完全にその思考を停止した。
ぽかんと固まったままの私を見て、ルミナがしてやったりという感じでにっと笑みを浮かべる。
その表情に、私は我に返って言葉を返そうとしたけど、上手く言葉にならなかった。どう言ったらいいか分からない。
「な……ルミ……なに……」
『俺の気持ちは伝えたはずだ。気持ちを押しつけるつもりはないと言ったが、たまには全力で口説かせてもらおうと思ってな』
くくっと笑ったルミナはとても楽しそうだ。
カッとまるで火でもついたんじゃないかってくらい顔が熱くなる。
なに、この状況。恥ずかしすぎる。
なんなの、全力で口説かせてもらおうって。ルミナ、こんなこと言う人だったっけ!?
バクバクと早鐘を打つ心臓の音がうるさい。
落ち着け、私。落ち着くの!
依然として上機嫌に私の手を取ったままのルミナに軽く眩暈を覚える。
…………私、オルト村に着くまで心臓もたないかもしれない。




