47 小さくなったルミナ
少し目を離した隙に、ルミナが子供になっていた。
これだけいうと何のことだかさっぱりだけど、私にもまったく分からないので他に言いようがない。
「ルミナ!? 本当に、ルミナ!?」
「ああ……」
「ホントにホントに本当に、ルミナ!?」
「そうだと言ってるじゃないか」
ルミナは面倒くさそうに言ってそっぽを向いた。
うん、仕草は大きなルミナと同じだ。間違いなくルミナだと確信する。
「ルミナ……どうしたの、そんなにちっちゃくなっちゃって……」
そう自分で言ったところで違和感に気づいた。
そういえば、先ほどから町の中で大きな声でしゃべってても誰も私を振り返る人はいない。まぁ、声に驚いて振り返る人もいたけど、奇異な目で見られている感じはない。
普段なら、あの人何一人でしゃべってるのかしらっていう痛々しい視線を向けられるんだけど。
そういえば、さっきのガラの悪い男の人が言っていたじゃないか――なんだ子連れかよって。
ルミナは小さく息を吐いて、ばつが悪そうに首の後ろをかいた。
「あのガラの悪いやつをどうにかするにはこれしかなかったんだ」
「これ?」
「全身の実体化だ」
「いつも手だけしてるやつ? 他の人にもルミナのこと見えてるの?」
「そうだ。まぁ、手だけの時は見えるようにはしてなかったが……前に言っただろう? 手だけ実体化させるのと体全体を実体化させるのは訳が違うと」
……………確かに言ってたかもしれない。
だから、ぎゅーはいいって言われたんだったと数日前のことを思い出す。
「さすがにそのままの形では実体化できなかったから、力を圧縮せざるをえなかったんだ」
「なるほど、圧縮したから子供の姿なんだ」
「…………不本意だがな」
心底嫌そうな顔でルミナがため息をついた。
なるほど、理屈は分かった。まさか圧縮すると子供になるなんて思いもしなかったけど。
どうやら、あのまま一人だと無理やり連れていかれそうだったから、ルミナは全身を実体化して誰にでも見えるようにして助けてくれたようだ。
本当にこのハイスペック幽霊様はやることが規格外すぎる。
「ルミナ……本当にありがとう!」
私は両手を広げて子供姿のルミナをぎゅっと抱きしめた。
「なっ……!」
明らかに慌てた様子のルミナが面白くて、ぎゅうぎゅうと抱きしめる腕に力を込める。
「こらっ、リン! 慎みを持てっ!」
悪ノリがすぎてしまったようで、最後は一瞬の隙をついて腕から逃げ出したルミナに頭にチョップを落とされた。
私はぶたれたところをさすりながら、へらりと笑った。
「ごめん、ルミナ。なんか可愛くて、つい」
「…………だから嫌だったんだ」
「?」
「子ども扱いするな」
言われていることがわからず首を傾げる私に、ルミナはがくりと肩を落とした。
「…………もういい。じゃあ、行くぞ」
何か吹っ切れたらしく、顔を上げたルミナはにやりと笑みを浮かべた。
その悪だくみを思いついたような顔に、私は一歩後ずさる。
「ど、どこに?」
「買い物に行くんだろう? さっきのやつもまだその辺にいるかもしれないから、このまま少しつきあってやる」
そうして私の手を強く握って歩き出す。
手を引かれて前のめりに歩き出した私は、目を白黒させながら小さくなったルミナと買い物をすることになった。
***
周りの目を気にしないでルミナとあーでもない、こーでもないと言い合いながら買い物をするのはとても楽しかった。
帰る前にどこかで飲み物でも飲んでから帰ろうという話になって、一昨日行った高台に行くことになった。
霊体だから実体化しても食べ物は食べられないと言われたけど、気分だけでもと思って果実水を二つ買って一つをルミナに手渡す。
ルミナは複雑そうな顔をしながらも渋々受取ってくれた。
そうして再び訪れた高台で、石を積み重ねて作られたベンチに腰を下ろした。
「あー、楽しかった!」
「そうだな」
「ルミナ、ありがとね」
「?」
私の言葉にルミナは首を傾げる。きょとんとした顔がとても可愛らしい。
「だって、前に実体化の話をしてくれた時に『正直やりたくない』って言ってたじゃない」
「……よく覚えてたな」
「えへへ……だから、ルミナに無理させちゃったんじゃないかと思って」
「あー……気にするな。確かに疲れるし、長時間この状態は維持できないが、無理はしてない」
「そっか。やっぱりずっとこのままっていう訳にはいかないんだね」
残念そうに言えば、ルミナは困ったような顔をして私を見上げた。
「…………リンは霊体の俺よりもこっちの方がいいのか?」
「そんなことはないけど……」
だって、ルミナはルミナだ。
多分、それは大きくても小さくても変わらない。
だけど、今日一緒に商店街や市場を見て回って、周りに気兼ねなく話ができるこの状態がとても楽しかったから少し残念に思っているだけだ。
私は持っていた果実水を横に置いて、小さなルミナの体をそっと抱き込めた。
「少しだけ……今だけ、こうしていてもいい?」
ルミナの肩に顔をうずめて聞けば、ルミナが息をのむのが伝わってきた。
実体はあっても霊体なせいか体温は感じられない。けれど、全身で抱きしめた感覚がルミナがここに存在することを教えてくれる。
ルミナはちゃんとここにいる。隣にいてくれる。
それはこの突然連れてこられた異世界で、くじけそうになる私の心を何度も支えてくれた。
いつか成仏してしまう人だけど、傍にいてくれるのが嬉しかった。
ルミナがそろりと私の背中に手をまわして、その小さな手でぽんぽんと背中をなでてくれた。
「安心しろ、リン。俺はずっとお前と一緒にいる」
「…………うん。ありがとう、ルミナ」
私はひときわ大きく力を込めてぎゅっとその感覚を体に刻み込むと、ルミナの体を解放して立ち上がった。
ひんやりした風が吹き抜けて、私とルミナの髪を揺らす。
眼下に見える街並みが赤く染まっている。もうすぐ日暮れだ。
私はルミナに手を差し伸べて笑みを浮かべた。
「さ、帰ろっか」
「ああ」
そんな私の手を握り返して、ルミナも優しい笑みを返してくれた。




