35 絶望に沈んだルミナリス
おじいさんから告げられた言葉はあまりに衝撃的すぎて、その後は何を言われたのかよく分からないまま、ガイルさんと待ち合わせの広場まで戻ってきた。
ガイルさんはまだ来ていないようだ。
俯いて後ろをついてくるルミナに花壇の縁に座るように促すと、ルミナは言われるがままにそこに座って項垂れた。
「大丈夫?」
『…………』
のようにはとても見えない。
沈黙が重い。
俯いたまま黙り込んでしまったルミナを前にどう声をかけたらいいのかも分からず、隣に腰を下ろして何かを言ってくれるまで待つことにする。
『カイナルディアは……』
やがて絞り出すように放たれた声は、大勢の人が行きかう広場の中でも頭の中によく響いた。
『カイナルディアは……生前、俺が住んでいた国だった……』
「!?」
『しかも、百五十年前に滅んだだと……?』
ルミナは頭を抱えて前かがみに蹲ると、かたかたと震えながらぶつぶつと呟きだした。
『…………国は……みんなは……俺は結局……術の暴走を止めることはできなかったのか……?』
ルミナが言っていることの意味は分からない。
分からないけど、ルミナが酷く苦しそうだということだけは伝わってきた。
私はいてもたってもいられなくなって、ルミナの手にそっと自分の手を添えた。
霊体だから触れているという感覚はないけど、触れたところからルミナの絶望の感情が流れ込んできて、胸がぎゅっと締めつけられる。
私が触れたことに気づいたのか、ルミナの震えが止まった。
「何もしらない私がこんなことを言うのは無責任だって分かってる……でも……でも、きっとルミナじゃないよ」
何の根拠もない、無責任な言葉だってことは自分でもよくわかってる。
でも、ルミナと出会ってまだ日は浅いけど、私はずっと隣で彼のことを見てきた。
ルミナは国を滅ぼすような人じゃない。
確かに悪霊になって危害を与えていた。
でも、悪霊になりながらも彼の心の奥底にあったのは、憎悪ではなくて悲しみだった。
山を下りる時だって、私についてきてくれて山で生きるための術を教えてくれた。
今私がこうして生きていられるのはルミナのおかげに他ならない。
私にはそんな彼が国を滅ぼすとはどうしても思えなかった。
私の言葉にルミナが顔を上げた。
まるで捨てられた子犬のような表情に、私は彼に添えていた手で頭をなでる。
「きっとルミナじゃない……それでも納得できないなら、どうして湖に沈んじゃったか一緒に調べてみよう?」
『……ああ、そうだな……………………ありがとう……』
最後にぽそりと呟かれたありがとうは、とても微かなものだったけれど、私にはしっかり聞こえていた。
***
ようやくルミナが落ち着いてきた頃、首に巻いたタオルで顔の汗をふきながら、ガイルさんが広場へやってきた。
「ごめんごめん! 待たせちゃったかな」
「いえ、ちょうどいいタイミングでした!」
「ん?」
「あ、いや…………あ! これ、レベナってこれでよかったんですよね?」
紙袋に入れてもらったレベナを見せれば、ガイルさんは紙袋ごと受取ってその中から一つ取り出して私に渡してきた。
「はい、おだちん」
「いや、いいですよ!」
「いいからいいから。食べてみなって! ここのレベナは甘くて美味いよー」
半ば強引に渡されて、私は花壇の縁に座ったままレベナの皮を剥き始める。
剥いた感触も匂いもグレープフルーツそのままなのに、中の実はオレンジ色だった。
房から一つ取って口に放り込んでみると、オレンジっぽい味が口いっぱいに広がった。
「おいしいっ!」
というか、味はまんまオレンジだ。
見た目グレープフルーツなのが違和感ありありだけど、甘くて瑞々しくてとても美味しかった。
あとでまた買おう。
私の反応に気をよくしたのか、お土産にと買ったはずのレベナを半分私に分けてくれて、次の村まで行く商人のもとへ案内してくれた。
最初は突然来たよそ者に不躾な目を向けられたけど、ドリスさんの手紙を見せると、商人さんは私と手紙を交互に見たあと、荷台の空いている場所でよければと快く引き受けてくれた。
ドリスさん、何者なんだろう。
荷馬車が出る時間を聞くと明後日の朝だと教えてくれたので、今日と明日はこの村に泊まることにした。




