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33 ルルド村でおつかいを

 バゼル村を南下すること半日と少し。


 ガタガタと揺れる荷台に私のお尻が悲鳴を上げ始めた頃、ようやく目的地であるルルド村に到着した。

 ようやく荷馬車の揺れから解放された私は伸びをして、すがすがしい空気を肺いっぱいに吸い込んだ。

 うう、お尻痛かった。さすりさすりとお尻を撫でていると、御者台から下りてきたバゼル村の青年も伸びをしているのが見えた。

 彼の名前はガイルさん。お昼を食べているときに教えてもらった。

 薄茶色の短髪にこげ茶色の目をした彼は、肩をぐるぐると回して体の凝りをほぐしながら、こちらに向かって歩いてきた。


「リンちゃん、大丈夫だったかい?」

「はい。送っていただいてありがとうございました」


 お尻はまだヒリヒリするけど、正直に言うのは恥ずかしいから我慢だ、我慢。

 お尻の痛みを顔に出さないように笑みを浮かべてやり過ごそうとしていると、横からルミナが何かを言いたそうにこちらを見ていた。

 何かと思って目を合わせると、ルミナはあろうことか私が今一番つっこんでほしくないところをつついてきた。


『だから、膝に乗れと言ったんだ』


 それ見たことかと言わんばかりの表情にイラっとくる。でも、ガイルさんが目の前にいるから言い返すことができない。


『荷馬車は慣れないと尻が辛くなると言っただろう?』


 ええ、言いました。

 俺の膝を実体化してやるから、膝の上に座れと言われましたとも。

 でも、私だって一応お年頃の女の子なんです。

 いくらなんでも、男の人の膝に乗るのは抵抗あるんです、察してください。

 うう……あとで絶対クッション買ってやるんだから。

 私が無言を徹しているのをいいことに、ルミナは更に言い募ろうとしたので「うるさーい!」と大声を出してしまって慌てて口を閉じる。

 やってしまった。

 向かい合うガイルさんのぽかんとした表情を見て、急いで手を顔の前でパタパタと振って虫を追い払っているようにみせた。


「む、虫が……さっきから顔の周りでうるさくて……」

「そ、そう?」

「ええ」


 はははと雑に笑って誤魔化した私は、話をそらせないかと荷台に載っている荷物に目を向けてみた。

 荷台に載った籠の中にはバゼル村特産の野菜や果物などがぎっしりと詰まっている。どれもつやつやしていて新鮮そうだ。

 バゼル村は農業を中心としている村のようで、こうして商人さんを通じて他の村と物産品のやりとりをしているらしい。


「荷物、これから下ろすんですよね?」

「そうだよ」

「私も手伝います」

「や、いいよいいよ!重いから自分でやるから」

「でも、送ってもらったのに何もしないのも……」


 とっても気が引ける。

 せめて何か手伝わせてほしいと食い下がると、ガイルさんは少し考えてから、腰につけていたポーチからパチンコの玉くらいの小さくて軽い金属の玉を十個ほど取り出した。

 それをちいさな巾着袋に入れると、私の手のひらにのせてくれる。


「じゃあさ、あそこの市場でレベナの実を十個買ってきてもらっていいかな? お金はこれで足りるはずだから」

「レベナ、ですか?」

「そう。黄色くて、丸っこい果物なんだけど……この村の特産品でね。ここに来るとよくお土産に買って帰るんだよ」


 ガイルさんが身振り手振りをいれて説明してくれる。

 文字は読めないけど、言葉が通じるなら私でもおつかいくらいはできるだろう。

 荷下ろしを手伝わせてもらえないなら、せめておつかいくらいはしてこよう。

 私が喜々として巾着袋を握りしめると、ガイルさんはまだしばらくかかるからゆっくり市場を見ておいでと送り出してくれた。



 ***



 私は巾着の紐を手首に通すと、すぐ近くの市場に向かって歩き出した。

 思えば、こちらの世界に来てからちゃんと村を見て回るのは初めてだ。ちょっとわくわくする。

 地面の上にシートを敷いて果物や雑貨が並ぶ市場の様子を物珍しそうに眺めていると、一緒についてきたルミナに声をかけられた。


『そんなに市場が珍しいのか?』

「珍しいのもあるけど、なんかバザーみたいだと思って」

『ばざー?』

「そう。品物を持ち寄って個人でそれぞれお店を出すの」


 学校でやるやつは自分には必要ないものを持ち寄って売り物として出していたけど。

 この雑多な雰囲気はどことなくあちらの世界のバザーと通じるものがあった。

 普段ならそこで会話が終了してしまうところだけど、ざわざわした喧騒の中なら話をしていても誰も気づかないかなと思って、ルミナに話しかける。


「ルミナ。あれ、何て書いてあるか分かる?」


 りんごのような果物の前に立って値札を指さしてこっそり聞けば、『ピリアだな』と返ってきた。こっちの世界のりんごはピリアというらしい。


「ルミナ、読めるんだ」

『…………俺をなんだと思ってたんだ』


 思わず呟いた言葉を聞きとがめられて、ルミナに呆れたような表情を向けられる。

 決して他意はなかった。

 ただ純粋に読めるんだなって思っただけだったんだけど。


「いや、特に何か思って言ったわけじゃないけど。国が違えば言葉も違うから」


 そう思って正直に返せば、『なるほど』とそれ以上追及されることもなかった。


「そういえば、地図とか売ってないかな」


 できればオルト村までの距離とか、次の村までの道のりとか知っておきたい。

 文字の読めない私には宝の持ち腐れだと思っていたけど、ルミナが読めるなら話は別だ。

 見かけたら早急にほしい。買えるかどうかは値段次第だけど。


『探してみるか』


 目的の見つかった私たちは、地図を目指して市場を散策することにした。

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