↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
はみんぐ・ふれあ  作者: JING
第七章「絶対運命を補完しない」
PR
42/48

第42話「卒業式を始めよう」

オープニングテーマ「HUMMING」

https://youtu.be/azhMg2sRa5g

 卒業式の前日、卒業生が一人も学校へ来なかった。


 欠席の連絡もない。


 高等部三年の教室は、机も椅子もきれいに並び、黒板には《自宅待機・式典参加不要》と印刷されている。


「参加不要?」


 先輩が紙を剥がした。


 管理刻印を焼いた雷綴は、まだ絶縁布に包まれている。両腕の感覚は戻ったが、ハヨンから大放電禁止の札を背中へ貼られていた。


「効率だけなら、そうなる」と蓮。


 仮枠へ入れた時門時計の中核頁と針を見る。


「卒業要件は単位と在籍記録。証書を受け取る動作は必須ではない。教授――」


 蓮は一度止まった。


「教授は、校印だけを最終同意鍵に使えるなら、生徒本人を講堂へ集める必要がない」


「式を最適化して、式をなくしたのかよ」


「校印を押す事務だけ残した」


 鈴華が教室の出席簿を開く。


「欠席ではなく、《参加不要》として一括処理されています。これなら欠席を選んだ記録も残りません」


「西能寺先輩と閑崎先輩は?」


 藍羽が聞いた。


 先輩と鈴華は高等部二年、蓮は高等部一年だ。三人とも、今年の卒業生ではない。


「オレは来たぞ」


「わたくしもおります」


「在校生として?」


 先輩と鈴華が顔を見合わせる。


「臨時返却班として来たな」


「わたくしもです」


「それ、式を手伝う理由でしょ」


 ひなたが言った。


「じゃあ、手伝う側としてどうしたい?」


「どうしたい、か」


 先輩は黒板から剥がした紙を見る。


「見送る側でも、式にはいたい。剣道部から外れた時、来年までこの学校にいられると思ってなかった。教授と委員会がくれた場所でもある。誰かの終わりを、なかったことにはしたくない」


「わたくしも、会計の締めを優先する予定でした」


「予定じゃなく、どうしたいか」


 ひなたはもう一度聞く。


 卒業式なんて面倒だと思う人もいる。


 家族が来られない人もいる。


 学校にいい思い出がなく、最後の日だけ出ろと言われたくない人もいる。


 出席が正しいとは限らない。


 鈴華は出席簿を閉じた。


「卒業生の名を呼ぶ側に立つか、裏で帳簿だけを見るか。わたくしも、自分で選びたいです」


「じゃあ二人、手伝う」


 ひなたは黒板へ大きな紙を貼った。


《卒業式 参加》


《手伝う》


《参加しない》


《まだ決めない》


 四つの欄がある。


 先輩は《手伝う》へ名前を書く。


 鈴華も隣へ書く。


「これを、三年生に聞いて回る」


「全員へ来いと言わないのか?」とオレ。


「言わない。来ないのも選べる式にしないと、意味がないから」


「でも、教授の固定へ従って来ないやつは?」


「一回、聞く。返事が同じでも、聞いたことは残す」


「臨時返却班の仕事だね」と蓮。


「違うよ」


 ひなたは首を振った。


「同じ学校の後輩としてやる。役がなくても、卒業する人へ聞きたいから」


 超常の道具を一つも持たないひなたが、紙を抱えて教室を出た。


 オレたちも続いた。


     *


 最初の家では、返事がなかった。


 固定中の卒業生は、自室で受験問題を解いている。もう合格した学校の、入学後に必要になる範囲。机の横には卒業証書を郵送で受け取る封筒が置かれていた。


「式へ出ない?」


 ひなたが玄関越しに聞く。


「参加は不要です」


「不要かじゃなくて、出たいか」


「参加は不要です」


「分かった。いまは《まだ決めない》へ名前を置いていい?」


「卒業後の学習を優先します」


「それは《参加しない》?」


 返事は同じだった。


 ひなたは勝手に名前を書かなかった。


 住所の横へ、《本人回答なし》とだけ記す。


 二人目は、扉を開けた。


「参加は不要です」


 同じ声だった。


 でも、鈴華の逆向きの鈴が少し震える。


 本人へ返った声が、手首の奥に残っている。


「卒業式で、言いたかったことはありますか」


 鈴華が尋ねた。


 心を読まない。


 鈴を鳴らさない。


 ただ待つ。


「参加は」


 生徒の口が止まった。


「……先生に、明日謝ろうと思ってた」


「何を?」とひなた。


「まだ、言いたくない」


「じゃあ、そこは書かない。式は?」


「行く。たぶん」


 ひなたが《参加》と《まだ決めない》の線の上へ名前を書く。


「どっち?」


「たぶん、だから間」


「そんな書き方、あり?」


「いま作った」


 蓮が用紙の端へ注記する。


《各欄の境界へ記載可。変更時刻自由》


「規則にした」とオレ。


「選べる余白を守るための規則は必要です」


 三人目は来ないと決めた。


「学校が嫌いだった。最後だけ普通のふりをしたくない」


 その声を、誰も説得しなかった。


 ひなたは《参加しない》へ書き、もし気が変わったら連絡しなくても講堂へ入れると伝えた。


 四人目は、家族だけ写真を撮りたいと言った。


 五人目は、名前を呼ばれず後ろで見たいと言った。


 六人目は、返事をしなかった。


 七人目は、固定された同じ言葉を繰り返したあと、夕方になって自分から学校へ電話してきた。


 一日かけて、紙はばらばらな文字で埋まった。


 来る。


 来ない。


 手伝う。


 写真だけ。


 名前は呼ばないで。


 保護者席を使わない。


 まだ分からない。


 完璧な予定表にはならなかった。


 だから、ひなたは嬉しそうだった。


     *


 講堂の椅子は、全部ずれていた。


 教授の固定で並べられた時は、脚の位置まで一寸の狂いもなかった。時計の外装を壊してから、生徒たちが自分で動かし始め、通路は曲がり、列の間隔も違っている。


「やり直しね」


 藍羽が袖をまくる。


「どう並べる?」


 蓮が白紙の見取り図を出した。


「避難通路は最低一・二メートル。車椅子用の場所を二つ。途中退出する人が後ろを通れるよう、左右に空間。ここまでは安全条件です」


「その先は?」


「決めてません」


「蓮が?」と、オレは聞き返した。


「何回も驚かないで」


 参加する卒業生へ聞く。


 友達と隣へ座りたい。


 一人で端がいい。


 先生の顔を見たくないから後ろ。


 保護者の近く。


 希望を全部かなえると、列にならない。


「では、くじ引きで」と鈴華。


「希望を書いた意味がない」と紫苑。


「優先条件を本人へ確認し、残りだけ抽選します」


「それならいい」


 鈴華は金の鈴を使わず、一人ずつ口頭で聞いた。


 藍羽とオレが椅子を運ぶ。


「勝負する?」


 藍羽が椅子を三脚まとめて持つ。


「どっちが多く運ぶか?」


「違う。どっちが少なく運べるか」


「何が楽しいんだ」


「卒業式の前に疲れたら困るでしょ。いつもと逆」


「じゃあオレは一脚」


「私はゼロ」


「運べよ!」


 結局、二人で四脚ずつ運んだ。


 先輩は腕の回復中なので、舞台の案内札を読む係になった。


「オレ、力仕事の方が向いてるんだが」


「京一。案内文の誤字を三件見落としています」と鈴華。


「向いてない仕事を選んだ結果だな」


「選んだのはハヨンだ!」


「安全管理」とハヨン。


 先輩は文句を言いながら、案内札を一枚ずつ読み直す。


 《卒業生入場》が《卒業生入塔》になっていた。


「危ないな」


「危ないで済ませないで!」


 藍羽が赤ペンで直す。


 飾りの紙花は、色が揃っていない。


 購買に同じ色の紙が足りず、余っていた赤、青、黄色、黒まで使った。


 黒い花を見て、鈴華が一つ手に取る。


「縁起が悪いでしょうか」


「鈴華の服みたいでいい」とオレ。


「褒めていらっしゃいます?」


「似合ってる」


「では、舞台の端へ使います」


 鈴華は黒い花を捨てなかった。


 卒業証書は、赤い進路指定が印刷されたものを使わない。


 ひなたたちが白紙の用紙を一枚ずつ確認し、名前と卒業の事実だけを書いた。


「卒業後の進路欄がない」と固定中の教師が言う。


「証書に書く必要はありません」と蓮。


「進路欄がない」


「なくていいです」


「進路欄が」


 紫苑が白い紙で、その欄を覆った。


 教師の目が一度動く。


「……なくても、卒業は卒業か」


「そうらしい」と紫苑。


 教師は完全には目覚めていない。


 それでも、次の証書へ進路を書かなかった。


 作業は遅れた。


 紙花の糸が切れた。


 椅子の脚が一つぐらついた。


 証書の名前を一字間違え、本人へ謝って書き直した。


 完璧な朝にはなかった失敗が、いくつも起きた。


 誰も怪我をしないよう安全条件だけは守り、それ以外は話して直した。


 夜になった時、講堂は最初よりずっと不揃いだった。


 でも、誰がどこへ座りたいか分かる場所になっていた。


     *


「お兄ちゃん」


 舞台裏で、ハヨンが白雲衣の袖から薄い計測板を出した。


「卒業祝いか?」


「お兄ちゃんは卒業生ではない」


「知ってる」


「衣服対策。お兄ちゃん、その服を測っていい?」


 自分の身体を見下ろす。


 明るい朱赤の上着。斜めの襟と布の留めがある、チャイナ服に似た崑崙の上着だ。下は動きやすい黒のズボン。男だった時には同じ上着が黒く、女の身体になった朝には上着だけが朱赤へ変わって、全体がとっくにその体格へ縮んでいた。黒ズボンの色は変わらない。


 日本では何度か「中国の服?」と聞かれた。でも、似ていることと同じであることは違う。オレたちの故郷は、中央アジアを走る崑崙山脈へ重なる《崑崙の重なり谷》だ。地図の国境線だけでいえば中国側に当たるが、オレたちは中国人でも韓国人でもない。国境より古くから谷で修行してきた、崑崙の道士だ。


 転入した日に日本語を褒められて驚いたのも、谷では子供の頃から気を耳と喉へ巡らせ、聞いた音の筋を拾って、そのまま正確に返すからだ。村の人間が日本語や英語を話すのも、交易路を通る者から幾つもの言葉を覚えるのも、道士の基礎修行だった。普通の学校では、それも普通ではないらしい。


「もう合ってるぞ」


「緋天衣の合身紋、追加解析が終わった」


「いまさらか。体格に合わせることなら知ってるぞ」


「既知なのは基本効果。正式構造も確認できた。《緋天衣(ひてんい)》は、上着と黒ズボンで一つの衣服型法宝。男相では上着が黒、女相では明るい朱赤になる。崑崙の合身織は、これを織った素材と織法の名前」


 ハヨンが金色の文字を読む。


「緋天衣は、着ている人の体格と気に合わせて、全体の寸法と上着の色合いを変える。ズボンの色は黒のまま。水、油、泥、普通の汚れは表面で分解。繊維も自己修復する」


 ハヨンが計測板を近づけると、赤い布の奥に金色の文字が浮いた。


「父さん、洗濯が嫌だからオレに着せたのか」


「可能性は高い」


「あの白熊も法宝だしな……」


 ハヨンは、計測板の実行鍵へ触れる前に手を止めた。


「いまは女相の気だけを着用者と認識してる。帰還枝が戻って男相へ切り替わっても、両方を同じ着用者と認識するよう合身紋を開きたい。お兄ちゃん、いい?」


 説明する。


 許可を聞く。


 答えを待つ。


 日本へ来る前、薬を飲ませた時にはなかった手順だ。


「いい」


「了解」


「でも、何でいま?」


「卒業式の夜は満月に近い。帰還枝が戻れば、身体相が急に切り替わる可能性がある。認識が遅れて締めつけられると、行動へ支障が出る」


「見たのか?」


「観測した」


「同じだろ!」


「今回は先に説明した」


「そこじゃない!」


 藍羽が舞台袖から顔を出した。


「どうしたの?」


「何でもない!」


「お兄ちゃんが衣服の観測へ抗議中」


「ハヨン!」


 藍羽は赤い上着の袖を見た。


「じゃあ、この服のまま動けるの?」


「合身紋が正しく働けば」とハヨン。


「これで着替えは要らない?」


「要らない。お兄ちゃんが動きにくいと服を引きちぎる心配もなくなった」


「オレを何だと思ってる」


「お兄ちゃん」


「答えになってないぞ」


 藍羽が笑う。ハヨンが実行鍵へ触れると、上着の金文字が一度だけ赤く光った。


 星環学園には制服もあるが、普段の服装は基本的に自由だ。式典では卒業生に標準制服か、事前に届け出た正式な服装を求める。在校生の式典スタッフも同じ規定で、鈴華の黒い和装は入学時から届け出ている正装だ。余興の出演者や舞台補助者は、安全に動ける服を選べる。オレは明日も、この赤いチャイナ風の上着と黒ズボンで出る。


 オレの身体は、まだ女のままだ。


 ただし、服は次にどちらの身体になっても、オレをオレと認識する。


     *


 卒業式の朝。


 固定された街にも、雨が降った。


 天気まで最適にはならないらしい。


 来ると答えた卒業生の半分が、予定時刻を過ぎても来なかった。


 参加しないと答えた一人が、傘も差さずに走ってきた。


「やっぱり写真だけ」


「タオル使う?」とひなた。


「先に撮りたい。髪がもっと崩れる前に」


「もう崩れてるぞ」とオレ。


「ハミン、言い方!」


 藍羽に後頭部を叩かれる。


 来なかった人の席は空けたままにした。


 遅れて来ても座れる。


 最後まで来なければ、誰かの荷物置きにしない。


 空席として、その選択を残す。


 保護者も、先生も、少なかった。


 完璧な卒業式より、ずっと小さい。


 紙花は湿気で垂れ、黒い花だけ妙に形を保っている。椅子の列は曲がり、舞台幕の右端には直せなかった皺がある。


「始められる?」


 ひなたが蓮へ聞く。


 蓮は時門時計の中核を見る。


 式次第には、開始九時とある。


 現在、九時七分。


「始められます」


「七分遅れ」と先輩。


「知っています」


「気にならない?」


「気になる」


 蓮は素直に答えた。


「でも、来ると選んだ人を待った七分です。記録して、始めます」


 開始のベルを鳴らさない。


 あれは教授の最終鍵につながっている。


 ひなたが舞台へ上がった。


「卒業式を始めます」


 マイクが一度、鳴った。


「途中で帰っても大丈夫です。名前を呼ばれたくない人は呼びません。まだ来てない人が来たら、いったん止めます」


 保護者席から、小さな笑いが起きる。


「あと、私たちは手順を間違えるかもしれません。その時は教えてください」


「頼りない開会だな」と先輩。


「でも、安心しますわ」


 鈴華が答えた。


 三人は舞台裏にいる。


 腕章はない。


 先輩は扉と通路を見る。蓮は時間と体調不良者を確認する。鈴華は証書と、声を残したい人の同意票を預かる。


 委員会ではない。


 誰にも命令できない。


 それでも、何か落ちれば先に手を伸ばし、困った人がいれば動く。


 権限がなくても、守ることはできる。


 最初の卒業生が呼ばれた。


 舞台へ上がる。


 証書には、名前と卒業の事実だけ。


 進路は書かれていない。


「卒業後のことを、一言お願いします」


 固定中の教師が、予定どおり言った。


 卒業生が固まる。


 進路を宣言する欄は消した。


 それでも、みんなが見ている。


「言わなくてもいいよ」


 ひなたが舞台の端から言う。


 卒業生はマイクを見る。


「大学へ行きます」


 一度、予定どおりの答えを言った。


 手首の赤い印が光る。


「でも、違うと思ったら変えるかもしれません」


 その後を、自分で足した。


 赤い印が一度消え、金色の小さな光が残った。


 二人目。


「まだ決めてません」


 客席が少しざわつく。


「今日までに決めると思ってたけど、決まらなかった。だから、しばらく迷います」


 金の光が二つ目。


 三人目は、何も言わず頭を下げた。


 光らない。


 でも、赤くもならない。


 黙ると選んだ声は、音にならなくても、鈴華の帳簿へ《保存しない》という本人の印だけ残った。


 四人目。


「明日、先生に謝ります」


 前日に、理由を言わなかった生徒だ。


「今日じゃないんだ」と先生。


「今日は、まだ嫌です」


 講堂へ笑いが広がる。


 先生も笑った。


「では、明日待っています」


「逃げるかもしれません」


「明後日もいます」


 金の光が、舞台の上で揺れた。


 鈴華は、同意票へ印のある人へだけ尋ねる。


「いまの言葉を、返却鍵として保存してもよろしいですか」


「何に使うんですか」


「あなたが自分で選んだ声だと、零頁へ示すためです。内容を別の言葉へ使わず、返却後に消去します」


「やっぱり嫌だと言ったら?」


「その場で削除します」


「じゃあ、いまはいいです」


 鈴華は逆向きの心響鈴へ、一人分だけ帰属線を通す。


 心を読まない。


 聞こえた言葉を増やさない。


 一人に一つ、本人が残してよいと選んだ声だけ。


 蓮が時門時計の中核頁と針を、その光へ重ねる。


 速度は変えない。


 ひびの入った針で、現在時刻を一つ刻む。


「九時二十一分四秒。自発発声、本人同意」


「秒まで要るのか?」と先輩。


「誰のいつの声か分けるためです。進行を縛る時刻ではなく、声を迷子にしない時刻」


「なら頼む」


 最後の卒業生が証書を受け取り、客席へ戻った。


 名前を呼ばれないと選んだ人へは、舞台袖で本人確認をして渡した。来なかった人の証書は封をし、受け取り方をあとで本人へ聞く。これで、今日ここにいる卒業生の証書が全部終わった。


「次に、在校生の手伝い組から、言いたい人がいます」


 ひなたが式次第にはなかった紙を出す。


「西能寺京一さん」


「おう!」


 先輩は舞台へ出ようとし、冷却布の雷綴を持っていこうとする。


「挨拶へ棒はいらないでしょ」と藍羽。


「何年も使った相棒だぞ」


「客席が怖がる」


「管理刻印は焼いた」


「知らない人には同じ棒!」


 先輩は考え、雷綴を舞台袖へ置いた。


 証書を持たず、素手で舞台へ上がる。


「オレは来年も、この学校にいる」


 先輩はマイクへ言った。


「強いやつと戦いたい。危ないやつを止めたい。誰かを守る仕事もしたい。でも、強いからって決める側に立っていいわけじゃないと分かった」


 舞台袖の三つの法宝を見る。


「だから、見送る相手の先をオレが決めない。次も間違えたら、棒を置いて考える」


 金の光が灯る。


「あと、ハミンとはもう一回――」


「卒業生の時間を取るな!」


 オレが客席から叫ぶ。


「在校生として言いたいことだ!」


「来年までに一回なら受ける!」


「知ってる!」


 講堂が笑う。


 先輩も笑った。


 告白にはしない。


 再戦の予定も、オレが受ける時にまた選ぶ。


 鈴華が呼ばれる。


 黒い和装のまま、証書を持たず舞台へ出た。


 紙花の黒と、同じ色。


「わたくしは、在校生として会計を続けます」


 客席を見る。


「ただし、人の声を数字だけへ置き換えない会計を、これから学びます。何をするかは、まだ具体的に決めておりません」


 金の光。


「決まらなかったら?」とひなた。


「その時は、団子を食べながら考えます」


 藍羽が笑う。


「値引きの日に?」


「藍羽さん。その記憶は今年度末とともに処分を希望します」


「返却しない」


「残念ですわ」


 鈴華も笑った。


     *


 在校生二人の言葉も終わると、舞台の幕を一度閉じた。


「次は何?」


 卒業生が聞く。


「余興」


 藍羽は制服の上着を脱ぎ、下に着ていた水色の運動着になった。


 オレは最初から、赤いチャイナ風の上着と黒ズボンだ。衣服型法宝・緋天衣の布が女相の肩、腰、脚へ軽く沈み、余分なたるみを消す。襟の留めを一つ確かめるだけで、そのまま稽古着より動きやすかった。


「決闘?」


 誰かが言った。


「違う」


 藍羽が答える。


「今日は勝負じゃない」


 挑戦しない。


 互いの請求を置かない。


 《選ぶ》を勝敗条件に使わない。


 正式選闘ではない。だから時間も止まらず、舞台のオレたちと客席の全員が同じ今にいる。


 藍羽が天道纏気をまとう。


 水色の運動着の周りへ、薄い青の気が流れる。


 オレは紅燕歩で、その円へ入る。


 藍羽が拳を出す。


 勝つための拳ではない。


 オレの肩へ触れる直前で力を横へ流し、次の歩法を渡す。


 オレは受けた方向へ小さく回る。


 女の身体で覚えた低い重心。


 短い腕。


 小さい回転半径。


 男へ戻る日がなくても積んできた、いまの運動地図。


 掌で藍羽の肘へ触れ、気を返す。


 藍羽がその流れで跳ぶ。


 着地の衝撃を、オレが床へ散らす。


 二人で一つの円を描く。


 どちらが速いか決めない。


 どちらが強いか数えない。


 一人が止まれば、もう一人も待つ。


 文化祭の舞台では、光る装置へ合わせて動いた。


 いまは装置がない。


 藍羽の呼吸を聴き、オレの鼻歌を返す。


 ん――。


 藍羽が笑った。


「音、外れてる」


「おまえの蹴りも外れた」


「外したの!」


「オレも外した」


「それ、音程に使う言葉?」


 客席から拍手が起こる。


 決着はない。


 演武の終わりを、二人で同時に決め、向かい合って礼をした。


 勝者も敗者もいない。


「次は本気でやるから」


 藍羽が小声で言う。


「受ける」


 約束だけは、いつもどおりだった。


     *


 オレの鼻歌を、客席の誰かが真似した。


 んー。


 音が少し高い。


 別の誰かが、低く重ねる。


 文化祭企画《はみんぐ・ふれあ》の短い再演だった。


 舞台袖から、ひなたが小さな共鳴灯を出す。


「歌いたい人だけ、好きな高さで」


 命令しない。


 歌詞も決めない。


 黙っていてもいい。


 最初は十人。


 次に二十人。


 音は揃わない。


 途中でやめる声もある。笑ってしまう人もいる。咳をして、別の高さから戻る人もいる。


 共鳴灯に金の点が増えた。


 声量ではない。


 音程でもない。


 自分で声を出すと選んだ人、一人につき一つ。


 固定中の教師が、式次第を見た。


「全員、校歌を斉唱してください」


 何人かが反射的に、同じ音を歌う。


 正しい校歌。


 命令された声。


 共鳴灯は光らない。


 教師自身もそれを見た。


「……歌いたい人は?」


 言い直す。


 同じ人たちが、一度黙る。


 そのあと、自分の高さで声を出す。


 金の点が灯った。


 教師の手首から、赤い印が薄くなる。


 鈴華は、保存に同意した声だけを心響鈴へ通す。


 一人一声。


 本人の帰属線。


 偽物を混ぜない。


 蓮は一つずつ時刻を打つ。


 時門時計の外装は壊れたまま。中核頁と針を仮枠へ入れた、ひびのある状態だ。時間を増やさず、戻さず、声が選ばれた現在を保存する。


 先輩は雷綴を舞台の床へ寝かせた。


 赤い管理刻印はない。


 青い中核へ金の光が入り、選塔へ蓄えられず、講堂の床から道場へ、道場からアトランティスへ細く流れる。


 大放電は使わない。


 身体にも、床にも、焦げ跡は増えない。


 選塔の上へ四十八の扉が透けた。


 青く開いているのは、議決で戻った三つだけ。


 残る四十五は赤いまま。


 けれど、一つずつの前へ、金の声が鍵の形で浮かんでいく。


 まだ差し込まない。


 本人の同意と、原本の証明と、返却先が揃うまで保存する。


 《時間・循》の扉には、男のオレの影が立っていた。


 影が鼻歌へ口を動かす。


 女の身体のオレと、違う高さ。


 その扉だけ、金の鍵が近づかない。


「まだだ」


 オレは影へ言った。


「順番がある」


 影は、待った。


     *


 合唱の間、ハヨンと蓮は舞台裏の長机へ三枚の原本を並べた。


 体育祭安全同意書。


 文化祭舞台参加同意書。


 秋季校外研修(星見島)参加同意書。


 時門時計の割れた外装から出た紙を、鈴華の台帳に残る複写と照らす。


「体育祭」


 蓮が原文を読む。


「《競技中、生命身体への急迫した危険がある場合、運営本部は最長十三秒の競技停止を行い、安全確認後に再開できる》」


 赤い改ざん後の文は違う。


《学校行事中および以後、運営管理者は参加者の行動を停止し、最適な未来へ再開できる》


「最長十三秒が消されてる」と藍羽。


「行事中だけだった条件も、以後へ延ばされてる」


「文化祭」


 ハヨンが次を出す。


「原文。《舞台設備の故障時、出演者と観客の避難を優先し、照明、音響および上演を一時中断することへ同意する》」


 改ざん後。


《出演時に発した声、演奏および選択残響を、学園の保全目的へ継続利用することへ同意する》


「声を渡すなんて、原文にない」とひなた。


「保全の対象も、舞台の安全から学園の未来へ変わっています」


 鈴華が記録する。


「星見島」


 蓮が最後を読む。


「《事故、天候急変その他の生命身体に危険が迫る場合、引率責任者が必要最小限の行動停止および避難経路変更を指示することへ同意する》」


「未来の譲渡はない」とオレ。


「ありません。必要最小限、危険時、校外研修中。三つとも安全措置への限定同意です」


 ハヨンが紙へ青い光を当てる。


 インクの層が時間順に分かれた。


「本人署名と保護者署名が先。赤い追加文は、体育祭終了後、文化祭初日の異常停止後、星見島帰還後。全部、署名より後に魔械文書で重ねられてる」


「署名時に読めない文へ、同意は成立しない」と蓮。


「校印が押されても?」


「学校は、安全行事を実施したと証明できるだけです。個人が未来を譲渡したことを、あとから証明はできない」


「零頁の定義、同意、代価、固定のうち、同意が欠ける」とハヨン。


 さらに四枚目。


 卒業証書交付簿の原本。


 鈴華が校務保管庫から、正式な手続きで借りたものだ。


「《所定の課程を修了した者へ、学校が卒業の事実を証明する》」


「それだけ?」


「それだけです」


「指定未来へ進む、は?」


「ありません」


 蓮は四枚の原文と、四枚の改ざん後を並べた。


「証明できます。体育祭、文化祭、星見島で得た安全同意を、卒業校印で一つの未来移譲へまとめることはできない」


「原典規約上の不正同意鍵」とハヨン。


「成立しない」


 二人の声が重なった。


 ハヨンは証拠を一台へ置かなかった。


 位相計測値を時門時計の中核へ時刻証明として写す。


 原文の帰属を心響鈴へ、本人が同意した範囲だけ声で残す。


 紙そのものは耐火箱へ。


 複製を道場のおっさん、母さん、アトランティスのキャリー観測像へ送る。


 教授が一つを消しても、不正の原因までは消せない。


「監査経路、準備完了」


 蓮が言った。


「返却班に承認権はありません。だから、零頁へ証拠を出し、各人が自分の同意を選び直す」


「卒業式をやったことは、固定への同意にならない」とひなた。


「ここへ来た人も、来なかった人も」


 卒業校印が、耐火箱の上で赤く光った。


 誰も触れていない。


     *


 講堂の鼻歌が、一音ずつ消えた。


 歌い終えたからだ。


 金の共鳴灯には、百八十七の点がある。


 卒業生だけではない。


 在校生、先生、保護者、途中から来た近所の人。


 自分で声を出すと選んだ人数。


「保存数、百八十七」


 鈴華が確認する。


「全て本人同意。重複なし。内容の複製なし」


「時刻印、百八十七。中核の温度、許容内」


 蓮が針を仮枠へ戻す。


「雷綴の管理刻印、再生なし」とハヨン。


 先輩は青い芯へ手を触れない。


「今日は流すだけだ」


 三つの法宝は、壊れたところを隠していない。


 雷綴は外布が焦げ、管理刻印だけ焼けている。導電の中核は残る。


 時門時計は外装が割れ、頁と針をひびの入った仮枠へ置いている。三十秒の全出力は出ない。静止都市と現在を同期する線だけが残る。


 心響鈴は濾過印を失い、逆向きに置かれている。読心はできない。本人が自分で選び、保存へ同意した声だけを一度通す。


 四十八扉は三つだけ青。


 残りへ使う自発声は、鈴の返却側へ保存され、時計の時刻印で区別されている。


 体育祭、文化祭、星見島、卒業交付簿の原本と不正証明は、四か所へ複製した。


「引き継ぎはできる」


 ハヨンが言った。


「何に?」


「次の手順」


「縁起悪いな」


「備え」


 九時七分に始めた式は、昼食と何度かの休憩を挟んでも終わらなかった。百八十七人の声を一人ずつ確認し、保存範囲を説明し、卒業交付簿の原本と照合したからだ。途中で帰る者も、夕方にもう一度来る者もいた。


 窓の外の雨は上がっている。ハヨンの端末が《今夜の月の出まで十五分》を示したころ、鼻歌の底へ低い倍音が混じり始めた。身体は女のままだ。


 舞台の上では、最後の写真を撮ろうとしている。


 舞台袖には、冷えた人へ配る温かい茶の紙コップが並んでいた。ひなたは卒業生へ渡す花を抱え、大学部の写真係から借りた角帽を一人ずつ配っている。


 参加しないと答えたのに来た卒業生。


 途中で帰った空席。


 名前を呼ばれず、後ろに立った卒業生。


 先輩は雷綴を持たず、鈴華は帳簿を閉じ、蓮は時計を見ずに並んだ。


 紫苑は写真の端へ立つ。


「写らないぞ」


「いまはな」


「あとで戻ったら、空白の原因が分かる」


 ひなたが、紫苑のいる場所を空ける。


「だから立ってて」


「命令か?」


「お願い」


「なら、いる」


 藍羽がオレの右へ来た。


 先輩が左へ来ようとして、在校生と手伝い組の後列へ戻される。


「ハミンの隣がいい!」


「今日は卒業生が真ん中! 在校生は後ろ!」とひなた。


「手伝った在校生だぞ!」


「来年は真ん中へ行って!」


 鈴華が先輩の背を押す。


「京一、進行を遅らせないでください」


「委員会は解散しただろ!」


「お願いです」


「その言い方は断りにくいな!」


 笑い声が重なる。


 最後の列を組み直し、遅れてきた卒業生を確認している間に、その十五分が過ぎた。講堂東側の高窓の向こう、切れた雨雲の間に、本物の満月が昇っている。


 写真係が手を上げた。


「撮ります。三、二――」


 一人が《一》を待たず、角帽を投げた。


 つられて、いくつもの帽子が講堂の天井へ上がる。客席から拍手が起こり、卒業生たちも手を打った。


 卒業式の鐘が鳴った。


     *


 まだ誰も、鐘の紐へ触れていなかった。


 音だけが先に来る。


 ごおん。


 次に、舞台裏の大鐘が内側へ揺れた。


 音と動きが逆だ。


 卒業校印が耐火箱を突き抜け、鐘の表面へ重なる。


 白い一枚の頁が、その上へ広がった。


 文字のない頁。


 零頁。


「全員、離れて!」


 先輩が叫ぶ。


 腕章はない。


 命令権もない。


 それでも客席の人たちは、自分で立って出口へ向かう。藍羽とオレが左右の通路を開け、ひなたが空席の列を倒れないよう押さえる。


 時間は止まっていない。


 まだ正式選闘ではない。


 複数人が同時に動ける。


 教授の姿が、零頁へ浮かんだ。


『よい卒業式だった、生徒諸君』


 いつもの教師の声。


 左腕の赤い火傷が、白い頁の上で脈打っている。


「教授!」


『とりわけ、自発的な声を百八十七も保存してくれたことへ感謝する。命令された声より、選んだ声の方が固定燃料として強い』


「違う」と鈴華。


 逆向きの鈴を両手で包む。


「これは返すための声です。あなたへ渡していません」


『学校行事中の記録は、校印によって学園保全へ利用できる』


「その同意は不成立です」


 蓮が原本の複製を掲げる。


「体育祭は危険時の最長十三秒。文化祭は設備故障時の一時中断。星見島は生命身体への危険に対する必要最小限の避難。卒業校印は課程修了の証明だけ。未来移譲も、声の継続利用も、どこにもない」


 ハヨンが位相記録を重ねる。


「赤い追加文は署名後。全て行事終了後に書かれた。同意鍵として無効」


 零頁の《同意》欄へ、黒い罅が入った。


 教授の像が少し揺れる。


『監査証拠としては充分だ。だからこそ、監査の前に固定を完了する』


「順番を奪うつもりか」と紫苑。


『結果が正しければ、原因は追いつく』


「それを断ったんだ、教授」


 紫苑は札を出す。


 まだ書かない。


 八拍の結果を置く前に、何が実現可能か見る。


 零頁から赤い糸が伸びた。


 鈴華の鈴へ。


 百八十七の声を、持ち主から切り離そうとする。


「帰属線を閉じます」


 鈴華が鈴口を下へ向けかけ、止めた。


「閉じれば、持ち主への返却路も閉じる」


「切るな!」とオレ。


「原音は返却側へ残します。教授が触れているのは、校印へ映した反射です」


 鈴華は目を閉じる。


 百八十七人が、自分で声を残すと答えた時を思い出す。


 心は読まない。


 答えを作らない。


「本人の声は、本人へ」


 鈴を逆向きのまま鳴らす。


 金の光が鈴の内側へ沈む。


 原音は消えない。


 赤い糸が引いたのは、卒業校印に映った影だけだった。


「時刻印、保持!」


 蓮が中核頁を押さえる。


 ひびが広がる。


 針は逆行しない。


 一つ前の秒へ戻らず、声が選ばれた時刻を現在へつなぎ続ける。


「全出力は使うな!」


 ハヨンが叫ぶ。


「分かってる! 加速も遅延もしてない。同期だけ!」


 先輩が雷綴を持つ。


 腕の感覚は戻っている。


 大放電はしない。


 青い導電芯を鐘の床へ接地し、赤い反射声を選塔へ蓄えず、三本の地線へ逃がす。


「流せ、蓄えるな!」


 管理刻印は再生しない。


 原典の青い文字だけが光る。


 道場の映像で、おっさんが十三重円へ両手を置く。


 父さんは一切、声を出さない。


 白熊の身体で地面を支え、紙を掲げた。


【紙面:持つ。】


 母さんの安全値が、ハヨンの画面へ流れる。


 キャリーの翻訳が鏡面へ浮かぶ。


 誰か一人ではない。


 三つの法宝も、道場も、崑崙も、原本も、声も、全部が返却側を守る。


 零頁の同意欄の罅が、さらに深くなる。


『素晴らしい』


 教授が言った。


『君たちは、私が作れなかった返却路を完成させつつある』


「なら止めろ!」


『止めれば、都市は一秒の手前へ残る。いま進めれば、その道を使って全員を最適な次へ運べる』


「声を返す道を、また奪うのか」


『使うのだよ、ハミンくん』


「同じだ!」


 零頁が卒業の鐘を覆う。


 白い表面に、四十八の扉が映った。


 三つは青。


 四十五は赤。


 《時間・循》の中で、男の影がこちらを見る。


 オレはまだ女の身体だ。


 一本に編んだ長い赤い髪。


 短い腕。


 この身体で積んだ運動地図も、男へ戻りたい気持ちも、どちらもここにある。


「勝手に次へ運ぶな」


 鐘へ向かう。


 藍羽が隣へ並ぶ。


「一緒に行く」


「決闘じゃないぞ」


「だから行ける」


 先輩、蓮、鈴華も動く。


 紫苑が八拍を数える前に札を構える。


 ハヨンは耐火箱を抱え、ひなたは前列の卒業生へ花を渡しながら出口を示す。


 全員が同じ今にいる。


 鐘の音が、もう一度、動きより先に来た。


 二回目。


 ごおん。


 鐘があとから内側へ揺れる。


 三回目。


 音が先。


 四回目。


 講堂の雨粒が、窓を上へ走った。


 五回目。


 写真機の光が、撮影ボタンより先に消える。


 六回目。


 卒業証書の紙花が、落ちる前の枝へ戻ろうとして震える。


 七回目。


 時門時計の針が、三度ためらったまま進めない。


 八回目。


 雷綴の青い電流が、地面へ届く前に地面から現れる。


 九回目。


 心響鈴へ、まだ声にしていない返事が押し寄せる。鈴華は通さない。


 十回目。


 紫苑の白紙へ、書いていない結果の跡だけが浮かぶ。


 十一回目。


 藍羽の拳が、構える前の位置へ引かれる。


 十二回目。


 オレの影が男と女の二つに裂ける。


 十三回目。


 ご――。


 低い音が半分だけ広がり、鐘が鳴り終える前の静けさへ切れた。


 世界から次の一秒が消える。


エンディングテーマ「たいようは約束」

https://youtu.be/vCsi3UhBpp8

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。