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はみんぐ・ふれあ  作者: JING
第七章「絶対運命を補完しない」
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41/48

第41話「委員会最後の議決」

オープニングテーマ「HUMMING」

https://youtu.be/azhMg2sRa5g

 委員会室には、三つの机がある。


 先輩の机は傷だらけだ。棒を立てかけた跡と、報告書を置かずに弁当を食った染みがある。


 蓮の机には、時刻を書いた付箋が重なっている。四角い日焼け跡だけ残り、剥がされた付箋の方が多い。


 鈴華の机はきれいだった。引き出しの中まで項目ごとに分かれ、一円のずれも許さない帳簿が並んでいる。


 三人は、自分の机へ座った。


 資格停止の赤い紙を、机の端へ置く。


 先輩の雷綴は、まだ冷却布に包まれていた。青い導電芯は残り、赤い管理刻印だけがない。


 蓮の前には、割れた外装と、中核頁を挟んだ仮枠。


 鈴華は、逆向きにした心響鈴を黒い布へ置く。


「本会の成立を確認します」


 蓮が言った。


「現委員三名、全員出席。顧問資格は内部監査決議により停止中。委員資格は顧問命令により停止中ですが、設置規程第十九条の解散議決権は、顧問が停止できない」


「自分たちが首になった時のための規則か」とオレ。


「委員会そのものが不正を行った場合、在任者が解散責任から逃げないための規則です」


「教授が作ったの?」


「原案は教授。三年前に閑崎先輩が文言を修正しました」


「顧問が解散を止められないよう、わたくしが加えました」


 鈴華が答える。


「まさか使用するとは思いませんでしたが」


「使わない規則も読んどくもんだな」


 先輩が笑う。


 両腕の感覚は少し戻っている。まだ雷綴は握れない。


 委員会室の後ろには、オレ、藍羽、ひなた、ハヨン、紫苑が並んだ。


 椅子は足りる。


 でも、誰も座らない。


 これは三人の議決だ。


「議題を読み上げます」


 蓮が一枚の紙を持った。


 いつもの細かい予定表とは違う。


 中央に一行だけ。


「《絶対運命補完委員会は、絶対運命を補完するか》」


 オレは、少し笑った。


 三人が同時にこちらを見る。


「何だよ」


「笑うところではない」と蓮。


「名前がでかいんだよ。絶対で、運命で、補完だろ。昼飯の領収書を一枚なくしただけで鈴華に怒られてる先輩たちが、よくそんなでかいものを管理しようとしたな」


「なくしたのは一枚ではない」と鈴華。


「そこを訂正するのか」


「七枚です」


「西能寺先輩……」と藍羽。


「食ったら紙まで同じ袋へ入れるだろ。油で読めなくなるんだ」


「言い訳になってないよ」とひなた。


 少しだけ、部屋へ笑いが広がった。


 議題の文字は消えない。


 大げさな名前を笑っても、三人がここでやってきたことは軽くならない。


 助けた生徒もいる。


 奪われた生徒もいる。


 教授に救われた三人が、教授の仕組みを守った。その両方が同じ机に残っている。


 公開されていた選闘は、レベル1だけだった。昼飯や掃除当番のような、短く軽い選択を勝敗後の約束にする段階。


 その奥に、期間、役割、発動条件まで相手へ負わせるレベル2の条件選択があった。最初に知っていたのは教授と委員会の三人だけだ。オレが鈴華との選闘で文化祭への協力条件を請求し、その層を目の前へ引きずり出すまで、三人は安全管理上の機密として伏せていた。


 さらに三人は、レベル3(原典級)の存在と承認規約までは知っていた。才能、長期の機会、帰る日――人の運命や人生の幹そのものへ触れ得る固有選択。ただし本当の実装と起動権限を教授が隠し、《レベル3を起こせるのは選塔だけ》と信じさせていた。


 知らされていなかったことは、三人の責任をゼロにはしない。秘密を善意で正当化し、問い返せない仕組みを守った先に、オレの《男に戻れる日》を奪うレベル3が開いた。


「十二分で終わるか?」


 壁の予定表を思い出して聞いた。


 蓮は壊れた時計を見る。


 目盛りはない。


「終わりません」


「予定変更?」


「はい。必要なだけ話します」


「いい予定だ」


「君に言われると不安になる」


 蓮は議決書を机の中央へ置いた。


「最初に、顧問権限の処理。次に、委員会の存否。最後に、残務をどうするか」


「三つとも別に投票します」と鈴華。


「まとめて賛成させると、体育祭の同意書と同じになるからな」


 先輩の言葉に、蓮がうなずく。


「一件ずつ。説明して、質問して、そのあと選ぶ」


     *


 第一議案。


《教授顧問の全管理権限を、期限なく失効させる》


 蓮が読み上げる。


「教員としての雇用や授業資格を、この委員会が決めるものではありません。対象は選闘、選片台帳、委員道具、委員会人事、卒業行事統合保管への権限です」


「期限なく、か」


 先輩が議案を見る。


「はい。一時停止ではない」


「教授がやったことを全部説明して、全員へ返したあとでも?」


「その時、別の仕組みへ一から参加することは妨げません。自動では戻さない、という意味です」


「分かった」


 先輩は右手を上げようとした。


 途中で腕が止まり、左も動かない。


「挙手できないな」


「口頭で構いません」


「賛成だ」


 短く言った。


「教授には、気の流れを整えてもらった。余った電気を地へ逃がす棒と、オレが雷を持ってもいい場所をもらった。事故の日を消す枝まで見せてもらった。感謝してる」


 雷綴の包みを見る。


「でも、その礼として、ほかのやつの進む先を渡すとは選んでない。オレが助けられた話を、あんたの命令へ使わせない」


「レベル2を隠したのもオレだ。危ない条件を皆が知れば悪用されるって言って、説明しないまま執行した。守るためだった、だけでは終わらせない」


 蓮が記録する。


「時任蓮。賛成です」


 壊れた時計の針が、一度進んだ。


「教授は、僕へ迷う時間をくれた。予定を作る役目も、誰かの危険を先に見つけられる場所も。僕はその安心へ頼ったし、これからも、予定を作ること自体はやめません」


 壁一面の紙を見る。


「でも、僕が遅れたくないから、ほかの人を時間どおりに固定する権限までは受け取っていない。返します」


「僕はレベル2の条件欄と発動時刻を作り、非公開にする方が安全だと判断しました。教授に命じられただけではありません。情報を閉じる方を、僕自身が選びました」


「閑崎鈴華。賛成いたします」


 鈴華の笑みはない。


「教授は、他者の感情とわたくし自身を区別する濾過をくださいました。あの助けがなければ、わたくしは鈴を持てなかったでしょう」


 逆向きの鈴へ指を置く。


「けれど、助けられた者が、助けた方の誤りを記録してはならないという収支は成立しません。感謝と反対を相殺せず、両方残します」


「わたくしはレベル2の移譲を内部台帳へ記録しながら、元の持ち主が読める帳簿を作りませんでした。機密という名で本人から収支を隠した責任も、ここへ記録いたします」


 賛成、三。


 反対、ゼロ。


 保留、ゼロ。


 顧問席の空いた椅子へ、赤い線が走った。


 背もたれにあった目紋が割れる。


《管理者名:目黒総司》


 その表示ごと、教授の管理者名が委員会台帳から消えた。


「全会一致により、第一議案は可決」


 蓮が告げる。


 誰も拍手しない。


 静かなまま、三人は次の紙を見る。


 第二議案。


《絶対運命補完委員会を解散する》


「制度を修正する案もあります」と蓮。


「公開されたレベル1の保護領域を強くする。請求を昼食程度へ制限する。レベル2を廃止し、レベル3を封印する。顧問を複数にする。生徒側の拒否権を増やす。いくつか考えました」


「残すのか?」


「それを話すための議決です」


 蓮はオレを見る。


「ハミン。君は決闘を楽しんでる。勝者請求も、昼食くらいなら問題ないと思っている」


「思ってるぞ」


「選闘そのものを全部なくせば、君が選びたい勝負も消すことになる」


「別に、塔がなくても戦える」


 藍羽を見る。


「道場の庭でも、体育館でも、河原でも。始める前に聞いて、やめたくなったらやめる。負けたら昼飯を奢るのも、決闘システムがなくたって約束できる」


「踏み倒す人もいる」と鈴華。


「その時は怒れ」


「わたくしが?」


「得意だろ」


「金額によります」


 鈴華は少し笑った。


「塔がなければ守れない約束は、塔があっても、たぶんどこかで誰かを縛る」


 オレは続けた。


「残したいやつがいるなら、同じ名前を使わずに一から作れ。その時、オレも考える」


 先輩がうなずく。


「西能寺京一。解散に賛成だ」


「理由を記録します」と鈴華。


「強いやつを塔へ連れていけば、外のやつを守れると思った。実際、止めた喧嘩もある。けど、相手が断れない《選ぶ》は勝負じゃない。オレは、もう執行しない」


「時任蓮。賛成です」


「管理は必要です。行事の時刻も、避難経路も、道具の上限も。ただし管理する対象を、人の運命まで広げた時に止まる境界を、僕たちは作れなかった。この名前と権限を残したまま、次は正しく使うと言う資格はないと思います」


「閑崎鈴華。賛成いたします」


 鈴華が台帳を閉じる。


「全てを返すまで会計を続けたい気持ちはあります。ですが、その気持ちを理由に組織を存続させれば、返却をわたくしたちの所有物にしてしまいます」


 三人の声が揃った。


「解散に賛成」


 全会一致。


 委員会章が机から浮いた。


 先輩の戦闘執行。


 蓮の進行権限。


 鈴華の記録・会計権限。


 三つの文字が薄くなる。


 腕章から目紋が消え、ただの黒い布になる。


 委員会室の扉にあった長い名前も、一文字ずつ剥がれた。


 絶対。


 運命。


 補完。


 委員会。


 最後に残ったのは、古い木の扉だけだった。


「なくなると、ちょっと寂しいな」


 先輩が言った。


「賛成した直後ですよ」と蓮。


「自分で終わらせても寂しいものは寂しいだろ」


「はい」


 鈴華が答えた。


「寂しいです」


 三人は、その寂しさを否定しなかった。


     *


「では、第三議案」


 蓮が新しい紙を出した。


《未返却の選片、原本および被害記録を、持ち主へ返すための残務を行う》


「委員会は解散しました」とひなた。


「だから、新しい権限は作りません」


「名前は?」と先輩。


「残務処理班」


「地味だな」


「地味でいい」


「臨時返却班は?」


 ひなたが言った。


「何をするか、分かりやすいから」


 蓮が紙へ書く。


《臨時返却班》


「活動期限は、全選片の返却または本人が返却を望まないと確認した時まで。参加は毎回任意。退班に理由は不要。命令権、選闘執行権、選択保管権は持たない」


「昼飯の予算は?」とオレ。


「ありません」


「解散に反対したくなってきた」


「もう終わりました」と鈴華。


「返す相手へ会いに行く交通費は、実費精算の必要がございます。わたくしが預かりますが、会計への参加も任意です」


「結局、鈴華が会計だな」


「選びましたので」


 先輩は警備と運搬。


 蓮は原本照合と時刻記録。


 鈴華は返却記録と本人確認。


 前と似た役割だ。


 でも、誰かへ命じる権限はない。途中で別の役を選んでもいい。


「委員じゃない私たちも入れる?」とひなた。


「入れます。むしろ、旧委員だけで決めないために必要です」


「じゃあ参加する。明日の予定は決めてないけど」


「僕も、そこへ慣れます」


 藍羽が手を上げる。


「私も。ハミンを一人にすると、原本より昼飯を先に探すから」


「両方探す」


「否定しないんだ」


 ハヨンは端末へ参加条件を複写した。


「私も参加。お兄ちゃんの身体データを本人の同意なく共有しない条項を追加したい」


「追加してください」と蓮。


 紫苑だけが、部屋の端に立っていた。


「霧崎先輩は?」とひなた。


「俺は、署名しても残らない」


「何度でも名前を書けばいい」


 オレが言う。


「消えるたびに?」


「面倒なら、オレの横へ立っとけ。オレは忘れない」


「それだと、ハミンの付属品になる」


「じゃあ自分で書け」


 紫苑は空いた紙を見る。


 ペンを取ろうとした時、顧問席の目紋が赤く戻った。


 消えたはずの管理者名が、一瞬だけ浮かぶ。


『霧崎くん』


 教授の声がした。


 紫苑の手が止まる。


『私は、君の選択をいますぐ返せる』


「委員会の顧問権限は失効しました」と蓮。


『これは委員会の話ではない。零頁の原典権限だ』


 空中へ、二年前の教室が映った。


 紫苑の席がある。


 名札もある。


 同級生たちが紫苑を見て笑っている。教師が出席を取り、名前を呼ぶ。卒業写真の空白には、紫髪と青緑の一房を持つ少年が写っている。


『私へ協力すれば、全員の記憶を即時復元する。失った二年を、結果として埋めよう。君は星環学園の生徒へ戻り、同級生は君を思い出す』


「結果だけ」


 紫苑が言う。


『結果がなければ、原因へたどり着く者もいない』


「俺の札みたいだな」


 紫苑は逆因果札を一枚出した。


 何も書かない。


「先に《全員が俺を覚えている》を置けば、八拍以内に原因が追いつく。写真が戻る。名簿が埋まる。誰かが昔の話をする」


『君の道具は、その小型試作だ』


「知ってる。だから、結果だけ置いた時に何が欠けるかも知ってる」


 映像の同級生が、紫苑へ手を振る。


「こいつらが、俺を忘れてた二年はどうなる」


『忘れなかった記憶へ補完する』


「じゃあ、謝る理由が消える」


『誰も苦しまない』


「俺だけは知ってる」


 紫苑は映像へ近づかない。


「忘れられた俺も。忘れたくなかったのに忘れさせられたこいつらも。目の前に席があるのに、何もおかしいと思えなかった教師も。その二年を、なかったことにして戻るのは嫌だ」


『苦痛を残すことが責任かね』


「原因を知って、謝るか、怒るか、もう会わないか、自分で決めるところまでが返すことだ」


 紫苑は教授を見た。


「教授」


 一度、そう呼んだ。


 口の中で、言葉を切る。


「……教授。その即時回復を、俺は選ばない」


 映像が乱れた。


『次はないかもしれない』


「その脅しも、教授が選んだ声だ。覚えておく」


 紫苑は札を伏せた。


「俺が戻るなら、原因と一緒に戻る。二年分の責任も、会い直す手間も消さない」


 以後も、紫苑は呼び方だけは教授のまま変えなかった。けれど、その二文字を命令への服従には使わなかった。


 顧問席の像が消える。


 紫苑は参加票へ名前を書いた。


 インクが薄くなる前に、ひなたが隣へ自分の名を書く。


 藍羽、ハヨン、オレも続けた。


 紫苑の文字は、まだそこにあった。


     *


 臨時返却班の最初の仕事は、道具を壊さないことだった。


「あなたたち、壊してから相談する癖があるのね」


 机に置いた手鏡から、キャリーが言った。


 アトランティス最高の錬金術師、キャリー・アイを基に生まれた自律観測像が、都市の観測圏から鏡へ触れている。広域投影できる時間は一日に数時間。黒く長い髪も、輪郭の端も、いまは水面のように揺れていた。


「壊す場所は選んだぞ」とオレ。


『その判断が正しかったから、褒める代わりに次は先に聞きなさいと言っているの』


「ハヨンみたいだな」


「合理的」とハヨン。


『褒め言葉として受け取るわ、ハヨン博士』


 机へ、三つの法宝の中核を並べる。崑崙の道士が残した芯に、キャリーと教授が錬金術と魔械文書の外装を重ねたものだ。


 キャリーは一つずつ、外装の下に復元した法宝の原文を読む。


『雷綴。《場所をつなぎ、余剰を流せ。蓄えるな》』


 青い導電芯が光る。


『時門時計。《異なる時を同じ現在へ合わせよ。進行を所有するな》』


 ひびの入った透明板で、針が三度ためらう。


『心響鈴。《名を決めず、持ち主が選んだ声だけを通せ。答えを盗むな》』


 逆向きの鈴が、小さく震える。


「戦うための道具じゃなかった」と先輩。


『戦いへ使える構造ではある。でも、それだけではない。総司は固定する向きへ外装を重ねた。あなたたちは同じ中核を、返す向きへ選び直した』


「三つ同時なら、零頁を返却へ変えられる?」と蓮。


『いいえ』


 キャリーは即答した。


『返却りょ、返却路を作れるだけ。……失礼。道に誰の選択を通すかは、本人の同意が要る。法宝だけで解決しようとすれば、また管理者が選ぶことになる』


「いま、噛んだ?」


『噛んでいないわ。錬金言語が一文字滑っただけ』


「噛んだんだな」


『続けるわよ』


「わたくしの鈴へ、自発的な声が必要です」と鈴華。


『そう。命令された声は鍵にならない。文化祭で分かったでしょう』


 別の画面へ、母さんがつながった。


 背後では飛行機の窓が揺れている。またどこかの国へ移動中らしい。


「計算結果を送るわ」


「母さん、どこだ」


「いまは空。三時間後には別の空」


「説明になってない」


「必要なのは場所じゃなく安全値でしょう」


 ハヨンの端末へ数値が届く。


「雷綴を使うかどうかにかかわらず、西能寺くんの大放電は一日三回まで。今日は上限。次の起動まで腕の神経回復を優先。時門時計は外装なしで全出力禁止、加減速でなく同期だけ。心響鈴は一人の自発声を一回通すたび、帰属線を再確認。大量一括はしない」


「卒業式は三日後」と蓮。


「回復時間は足りる。ただし、三つのどれかが遅れても無理に合わせないこと。失敗した時は接続を切る。選片より生きている人が先」


「母さんがそう言うと、すぐ全部直せそうに聞こえるな」


「今回は直せないわ」


 母さんは笑わなかった。


「補完圏の外部場を止めるまでは、ハミンの身体相にも、静止都市にも手を入れない。私は安全範囲を計算する。選ぶのは現場」


「了解」


 画面の端へ、道場が映った。


 おっさんが床の十三重円へ座っている。


「塔から逆流する気は、天道宗で地へ回す。道場はそのための門になった。任せよ」


 隣に、白熊がいる。


 父さんは一切声を出さない。


 紙を二枚出した。


【紙面:地を持つ。】


【紙面:中へ入らない。】


「閉じた白沢衣のままじゃ、父さんを塔へ参加者登録できない。端子を開いて文書へ直接つなげば、誰のものか分からない膨大な未選択可能性だけで、零頁の四十八欄が満ちる」


 うなずく。


 世界最強でも、閉じたままなら入れず、つなげば選択肢が多すぎて仕組みそのものを埋める。


 おっさんが気脈を回す。


 父さんが外側の地面を支える。


 母さんが安全値を測る。


 キャリーが原典を翻訳する。


 先輩、蓮、鈴華が三つの法宝を返却へ使う。


 ハヨンが同意書を照合する。


 紫苑が八拍の結果を置く。


 ひなたたちが自分で声を残す。


 藍羽とオレは、現場で道をつなぐ。


 誰か一人を外せば、別の誰かが万能にならなければいけない。


 そんなやつはいない。


 父さんにも、母さんにも、キャリーにもできない。


 だから、全員の役がいる。


     *


 三人は、最後の議決書へ署名した。


《教授顧問権限を失効する》


《絶対運命補完委員会を解散する》


《権限を持たない臨時返却班として、本人が望む選択の返却を手伝う》


 西能寺京一。


 時任蓮。


 閑崎鈴華。


 三つの名が揃う。


 空の上で、重い扉の開く音がした。


 委員会室の天井が透ける。


 選塔屋上のさらに上。


 四十八の扉が、六段八列に並んでいた。


 三つだけ、赤から青へ戻る。


《所属・断》


 自分たちの所属を、自分たちで終えた選択。


《関係・継》


 組織を終えても、三人とオレたちが味方でいると選び直した関係。


《行動・起》


 管理ではなく返却を始める選択。


 三人分の魂でも、三人だけの未来でもない。


 四十八の分類に、いまの議決が通った証拠だ。


「三つ」


 蓮が数える。


「残り四十五」


「卒業式で声を集めれば、開けられる」とひなた。


「待って」


 ハヨンが画面を拡大した。


 四十八扉の上に、巨大な赤い印がある。


 丸い校印。


 星環学園の名と、卒業年度が刻まれている。


「最終同意鍵」


「何の同意だ」とオレ。


「卒業証書を受け取る。卒業生として記録される。学校を離れて次の進路へ進む。それを一括して、《学園が指定した未来へ同意した》に変換する鍵」


「そんな文、同意書にはありません」と蓮。


「だから校印で補う。個人の署名が足りなくても、学校が卒業を認めた印を最後の承認に使うつもり」


「委員会を解散しても止まらない?」


「顧問権限とは別。学校行事の認証」


 校印の周りで、赤い針が進む。


 卒業式まで、あと二日と十八時間。


 教授の声はしない。


 姿もない。


 完璧な予定だけが動き続けている。


「卒業式をやめれば?」と紫苑。


 ひなたが首を横へ振った。


「やめたら、固定されてる人は、決められた式だけを勝手に始める」


「壊すか」


 先輩が雷綴へ目をやる。


「今日は持てない」とハヨン。


「明日なら」


「壊しても校印の登録は零頁に残る」と蓮。


 ひなたは卒業式の予定表を見た。


「だったら、私たちで先に始めよう」


「二日早く?」


「違う。準備を」


 壁から、秒で埋まった紙を一枚ずつ剥がす。


「決められたとおりに椅子を置くんじゃなくて。来たい人が来て、手で直して、何を言うかその時に決められる卒業式を作る」


「それで校印を使わせない方法を探す」


 蓮が言った。


「原本の文言を証明できれば、学校の印でも、書かれていない同意は補えない」


 オレは議決書を持ち上げた。


「最初の仕事だな、臨時返却班」


「命令ですか?」と鈴華。


「誘った」


「参加します」


 先輩も、蓮も、鈴華も立った。


 腕章はない。


 権限もない。


 それでも三人は、誰より先に卒業式の椅子を直しに行った。

エンディングテーマ「たいようは約束」

https://youtu.be/vCsi3UhBpp8

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