第39話「蓮が時計を壊す時」
オープニングテーマ「HUMMING」
https://youtu.be/azhMg2sRa5g
蓮は、卒業式の予定表を作っていた。
先輩を保健室へ運び、雷綴を冷却箱へ入れ、全員が委員会室へ戻ってから、ずっとだ。
黒板一枚では足りない。
ホワイトボードを三枚並べ、模造紙を壁へ貼り、机にも紙を広げる。
《一日目・十三時二十六分 体育祭原本の捜索再開》
《十三時二十八分 時門時計管理印の隔離》
《十三時三十一分 文化祭同意書の照合》
《十三時三十四分――》
「三分で原本が見つかるのか?」
オレが聞く。
「見つからなければ、捜索範囲を第二候補へ移します」
「第一候補を途中でやめるのか」
「三分で見つからない場所にある確率は一二パーセント以下です」
「残り一二パーセントは?」
「二日目の予備枠です」
「いつ寝る?」
「二日目の二時十二分から四時二分」
「百十分快眠法?」とひなた。
「眠れるわけないでしょ」と藍羽。
「睡眠開始までの平均時間は八分なので、実質百二分です」
「もっと悪い!」
藍羽が赤ペンで、二時十二分から七時までを塗った。
蓮がその上へ青線を引き直す。
「時任さん。ゲームの続きは」
「卒業式のあとです」
「負けたまま逃げる?」
蓮の青いペンが一度止まった。
「一時中断です。逃げてはいません」
「雪の日から中断」
蓮は返事をせず、睡眠欄の青線を引き直した。
「卒業式まで六十七時間しかありません」
「六十七時間もある」
「君と僕の時間感覚は一度、委員会で審議する必要があります」
「解散するかもしれないのに?」とひなた。
蓮のペン先が止まった。
資格停止の紙は、まだ机にある。
委員会をどうするか、三人は決めていない。教授の顧問権限を一日だけ止め、その一日を越えて背を向けた。けれど、組織の名前と役目は残っている。
「その審議も、二日目の十二時四分へ入れます」
「入れるんだ」
ひなたが苦笑する。
蓮は真顔で予定表へ書いた。
《絶対運命補完委員会・今後》
所要時間は十二分だった。
「短くないか」と先輩。
両腕へ冷却帯を巻き、保健室から勝手に戻っている。
「安静は?」
「終わった」
「七分と言った」とハヨン。
「八分いた」
「それならいい」
「いいのかよ」
ハヨンは先輩の握力を測る。右は平常の二割。左は三割。今日は雷綴を持たせないと言い渡した。
蓮は先輩へ椅子を出し、戻って予定表を書く。
秒単位で埋まった紙を見ていると、今朝の廊下を思い出した。
同じ歩幅。
同じ頁の音。
失敗のない朝。
「蓮」
「何」
「教授と似てるぞ」
部屋の空気が止まった。
藍羽がオレの脇腹を小突く。
「言い方」
「似てるものは似てる」
蓮は怒らなかった。
予定表を見上げる。
「知ってる」
青いペンを置いた。
「だから、これを作ってる」
「どういう意味だ」
「空白があると、教授が入れる。僕が全部決めておけば、少なくとも教授に決められない」
「蓮が決める」
「そうだよ」
「オレたちの分も?」
「守るために必要なら」
蓮の声は静かだった。
顔色は悪い。体育祭の時門時計を使い切ったあとより白い。なのに、自分へ休憩を入れていない。
「最初に遅れた時、何があった」
蓮の指が、胸ポケットの時計へ触れた。
教授が何度も使った言葉。
あと十秒。
オレは前にも一度、聞いた。蓮は事故があったとだけ言い、それ以上は話さなかった。
「いま聞くの?」
「いまだからだ」
「予定にない」
「さっきからそればっかりだな」
蓮は笑わなかった。
窓の外で、固定された生徒たちが同じ秒に席を立つ。昼休みの終わりだ。廊下を歩く足音が一つの波になり、やがて消えた。
「昔、事故を見た」
蓮は時計を出した。
「僕は、助けを呼ぶか、その場でできることをするか迷った。相手は動いていた。声も出ていた。だから、まだ考える時間があると思った」
銀の蓋へ、蓮の顔が映る。
「十秒じゃなかったかもしれない。あとから時計を見て、僕が《十秒》という数字を選んだだけかもしれない。でも、助けを呼ぶと決めた時には遅かった。僕がもっと早く動けば違ったか、確かめる方法はない」
「だから時計をもらった」
「教授は、僕に迷う時間をくれた」
蓋を開く。
秒針が三度、ためらう。
か、ち。か、ち。かち。
「範囲は八メートル。最低五分の一、最高五倍。外の時間で合計三十秒。領域の位置か進行率を変えるには二秒。何をどこまでできるか、数字にすれば迷わずに済む」
「済んだか?」
「最初は」
蓮の親指が竜頭を撫でる。
「次に、使う時刻を間違えない予定が必要になった。時計を使う時刻が決まれば、その前の配置が必要になった。配置を決めれば、全員がそこへ来る時刻を決める必要があった」
壁一面の予定表。
秒で区切られた卒業式までの未来。
「遅れないための時計を持ったら、遅れるのがもっと怖くなった」
ひなたが、赤く塗った睡眠時間を見る。
「それ、安心できた?」
「できたよ」
蓮は答えた。
「怖くもなった。でも、安心もした。だから簡単に嫌いだとは言えない」
「嫌いになる必要はない」と先輩。
冷却帯を巻いた腕で、時計を指す。
「オレも棒を捨ててない」
「置いたけどね」と藍羽。
「必要な時に置けるようになったんだ」
「言い直した」
「大事な違いだぞ」
蓮の口元が少し動いた。
その瞬間、時門時計の管理針が勝手に止まった。
かちん。
蓮が竜頭を回そうとする。
教授の刻印へつながる赤い針だけが動かない。蓋は開いたまま、文字盤へ赤い目が浮かんだ。
『予定変更だ、時任くん』
教授の声が、時計から聞こえた。
*
時計の鎖が、委員会室の外へ伸びた。
金属の長さではない。
赤い文字が鎖の続きを作り、扉の隙間、廊下、階段を下りていく。
「外せない」
蓮が胸元の留め金を引く。
鎖は制服の布ではなく、影へ縫いつけられていた。
『卒業式までの進行を、君の時計へ登録した。君が予定どおり動けば、最短で全員を安全に固定できる』
「僕の予定ではありません」
『予定とは、最も損失の少ない未来の表だ。作成者の名に意味はない』
「僕にはある」
蓮が鎖を追う。
オレたちも続いた。
「どこへ行く?」
「時計が進行先を指定してる。旧講堂」
階段の踊り場で、椅子を運ぶ二年生八人とぶつかった。
先頭から最後尾まで十二メートル。全員が同じ歩幅で旧講堂へ向かっている。予定表へ決められた設営作業を、三日前から始めている。
「止められるか?」
オレが先頭の椅子へ触れる。
「止めないで」
蓮は時計の側面へ耳を当てた。
「この人たちの歩行周期と時計が同期してる。急に列を崩すと、後ろがぶつかる」
「ならどうする」
「十三秒だけ遅らせる」
「時計はロックされてる」
「管理操作がロックされただけ。原典の速度調整までは、教授も切っていない」
蓮が、止められた管理針の内側に残る原典側の刻みへ爪をかける。
二秒。
二秒後の列の中央を予測し、八人全員を直径十六メートルに収める廊下の空間へ領域を合わせる。
秒針が三度ためらう。
「半径八メートル、〇・八倍。外界換算十三秒」
完全には止まらない。
先頭から最後尾までの足が、少しだけ遅くなる。列の脇へ入ったオレたちも選り分けられず、〇・八倍へ落ちた。先頭が領域を抜けると通常速へ戻り、間隔は前から開いていく。
その間に藍羽が扉を両開きにし、オレと先輩が廊下の荷物をどけた。先輩は腕が使えないので、足で段ボールを押している。
「おまえ、休めよ」
「右足は安静を命じられてない」
「子どもみたいな理屈ね」
列が安全に通る。
十三秒で蓮は時計の蓋を閉じた。
顔色がさらに白くなる。
「たった〇・八倍だぞ」
「時計が僕の法力を、別の進行にも使ってる。卒業式へ吸われてるんだ」
ひなたがブドウ糖を渡す。
蓮は受け取り、すぐ口へ入れた。前なら、予定の時刻まで我慢したかもしれない。
「ありがとう、水守さん」
「どういたしまして。歩きながら食べないで」
「時間が」
「三秒で噛んで」
「無茶を言うね」
それでも止まって噛んだ。
旧講堂の大扉が開く。
中は、もう卒業式の形になっていた。
椅子が等間隔に並ぶ。
舞台の幕に皺はない。
壇上には卒業証書が人数分積まれ、全ての角が一致している。
まだ書かれていないはずの進路が、一枚ずつ薄い赤で印刷されていた。
《進学》
《就職》
《家業》
《未定》は一枚もない。
「三日後に渡す紙へ、その先まで書くのかよ」
「卒業証書は進路指定書ではない」と蓮。
舞台中央に、大きな時計がある。
普段は倉庫にしまわれている古い親時計だ。全校の時計を合わせる基準機。
赤い鎖がそこへ続いている。
蓮の時門時計と親時計が、同じ秒を刻む。
かち。
椅子へ座った固定中の生徒たちが、一斉に頭を下げる。
かち。
一斉に上げる。
かち。
一斉に立つ。
まだ誰も卒業していないのに、式だけが練習を繰り返していた。
『時任くん。君なら分かるだろう』
親時計の文字盤へ、教授が映った。
『予定外の善意は、予定内の救助より遅い。迷いは損失だ。君の時計が学校の全時刻を正せば、卒業式に遅れる者はいない』
「その代わり、来ないと選ぶ人もいない」
『来なかったことを後悔する者もいない』
「後悔しないなら、何を決めてもいいんですか」
『君が事故の日へ戻れるなら、迷った十秒を残すかね』
蓮は答えなかった。
時計を握る指が震えている。
『外装を壊せば、管理印は切れる。だが中の頁と針も傷つく。君は二度と、必要な時へ間に合えなくなる』
「嘘です」
ハヨンが言った。
端末を親時計へ向ける。
「全部は壊れない。外装と中核の共振点が違う」
『優秀だね、ハヨンくん。しかし測定時間が足りない』
「足りる」
ハヨンは過去の波形を二つ開いた。
一つは、オレと蓮が初めて選闘した時の時門時計。五分の一速の境界へ入り、オレの腕だけが遅れかけた記録。
もう一つは、体育祭で本体の異常停止が十三秒先に始まり、時計があとから同期した時の記録。
「最初の戦闘波形では、外装の管理印が〇・〇三秒先に応答してる。体育祭では逆。中核頁は学園停止を作ってない。現在との速度差を合わせようとしただけ」
「ハヨン、壊す場所は?」とオレ。
「いま計算中」
「何秒」
「十六秒」
閉じた時門時計の蓋が赤い鎖に引かれ、勝手に開いた。教授が管理印へ事前登録していた加速段階が、針合わせを待たず自動で始まる。
親時計の分針が動いた。
一分を飛び越える。
舞台前の生徒たちが倍の速さで礼を始めた。
蓮の呼吸も速くなる。
「卒業式の進行へ強制加速。二倍、三倍――」
「時計を外せ!」と先輩。
「影へ縫われてる!」
オレは鎖へ手刀を落とす。
指が赤い文字を抜けた。物じゃない。蓮が《間に合わせる》と選んできた時間へつながっている。
「五倍」
蓮の声がかすれた。
親時計の五倍領域が、文字盤を中心とする半径八メートルへ広がった。赤い鎖を追って集まったオレたちも、舞台前で強制動作を続ける生徒も、同じ空間の中で五倍になる。時計は蓮だけを選ばない。領域の外にいる生徒は、元の強制進行のままだ。
ハヨンが数える十六秒は外界換算だ。中にいるオレたちには、最大で八十秒ある。蓮の思考も代謝も五倍になり、そのうえ親時計につながれた時門時計へ流れ続ける法力まで背負わされる。
倍率はそれ以上にはならない。
だが管理印は、時計本来の三十秒の安全枠を外して強制運転している。切らなければ卒業式まで吸い続け、全出力どころの負荷じゃない。
「十三秒」とハヨン。
「長い!」
「観測点を増やして」
藍羽が親時計の裏へ回る。
「赤い線、右に三本!」
「閑崎さん、時計の音を一つだけ分離して」
「承知しました」
鈴華が鈴を鳴らす。
大きな幻は作らない。
最初の一音で、蓮の時計へ印をつける。講堂中の秒針から、蓮自身の針の音だけを認識へ通す。
か、ち。
か、ち。
かち。
「中核は三度ためらう音。管理印は正確な一秒。分けられる」
蓮が自分の時計へ耳を寄せた。
汗が顎から落ちる。
「教授」
『何かね』
「僕は、あなたに時間をもらったことへ感謝しています」
『ならば使いたまえ』
「使います。あなたの予定から外れるために」
蓮が時計を鎖ごと引いた。
影に食い込んでいた赤い縫い目が、胸元まで上がる。
「八秒」とハヨン。
「蓮」
オレが呼ぶ。
蓮は振り向かない。
「壊したら、間に合わないかもしれない」
「そうだな」
「原本を見つけるのが遅れる。卒業式にも」
「時任さん。ゲームの負けは、再戦しても消えない」
ハヨンが計測画面から顔を上げた。
「いま話すこと?」
「いま。前の一戦は負けたまま。選べるのは、そのあとの次だけ」
「現実には、次がないこともある」
「うん。私も、薬を飲ませる前には戻れない」
ハヨンは、壊す一点だけを示した画面を蓮へ向ける。
「だから私は、次の正解まで代わりに決めない。壊しても中核が残る可能性は出した。壊すかは、時任さんが決めて」
「蓮、遅れたらオレが待つ」
蓮が笑った。
「君は待ち合わせに一分遅れたばかりだろ」
「だから今度は待つ」
「僕が来なかったら?」
「待つのをやめるか、その時また選ぶ」
「信頼が軽いね」
「一回で決めきらないだけだ」
藍羽がオレの横へ来る。
「私も待つ。たぶん途中で怒るけど」
「怒られる予定も入れておきます」と鈴華。
「予定にするの?」
「変更可能ですわ」
蓮が目を閉じた。
「それなら、少し安心した」
「四秒」とハヨン。
蓮が時計の鎖を外す。
自分の影から、赤い縫い目ごと引き抜いた。
講堂の床へ置く。
「中核は文字盤中央、直径二・四センチ。そこへ衝撃を入れない。外装の竜頭側、赤線が交わる一点」
ハヨンが指す。
蓮は舞台脇の非常用ハンマーを取った。
腕が震えている。
戦闘は得意じゃない。
大きな槌を振る型も知らない。
だから両手で持ち、頭の上へ上げず、胸の高さから真っすぐ落とした。
床へ置いた時計の、竜頭の脇へ。
「一秒!」
銀の外装が割れた。
時間は止まらない。
過去へも戻らない。
砕けた蓋が床を滑り、赤い管理印が火花になって消える。
親時計の五倍速が切れた。
蓮は、その場へ膝をついた。
吐く息が白い。
暖房の残る講堂で、身体の熱だけが急に奪われている。
「体温三十四・八。低血糖、軽い酸欠」
ハヨンが毛布を投げる。
先輩は腕が動かないので、足で毛布を蓮の方へ寄せた。
「格好悪いな、オレたち」
「先輩と一緒にしないでください」
「床へ倒れてる仲間だろ」
「僕は座っています」
ひなたが蓮の背へ毛布を巻き、甘い飲み物を渡す。
蓮は両手で受け取った。指が震え、少しこぼれる。
「こぼした」
「拭けばいいよ」
「予定外だ」
「雑巾は予定内」
ひなたが笑う。
講堂の生徒たちは、礼の途中で止まっていた。
正式な選闘の停止じゃない。
動作の次を失い、困っている。
一人が顔を上げた。
隣を見る。
「いま、何の練習だっけ」
誰かが尋ねる。
「卒業式?」
「まだ三日前だよ」
「椅子、早すぎない?」
声が少しずつ増えた。
全員が完全に起きたわけじゃない。立ち上がって予定どおり教室へ戻る者もいる。それでも、同じ秒の礼は崩れた。
親時計の文字盤から、教授の像が消える。
最後に声だけが残った。
『もう、間に合わないよ』
「決めるのは、まだ早いです」
蓮は飲み物を一口飲んだ。
*
割れた時門時計を、ハヨンが分解した。
外装は四つに割れている。
赤い管理印は、竜頭側から黒く焼けて消えた。
中央には、薄い青の頁が折り畳まれていた。二枚の透明板に挟まれ、その上を細い針が回る。
「中核頁、破断なし。針の軸も残ってる」
「使える?」と蓮。
「完全な出力は無理。固定枠を失ったから、三十秒を保てない。透明板にもひびが一本入った」
「どのくらい?」
「測定しないと答えない」
「予測で」
「答えない」
「君はそういうところ、お兄ちゃんより頑固だね」
「褒め言葉として受け取る」
ハヨンは細い器具で中核頁と針を持ち上げた。
針は三度ためらい、四度目に進んだ。
壊れてはいない。
ひびの入った今を刻んでいる。
「静止都市との同期波形が残ってる」
画面に、二つの一秒が現れた。
現在の星環学園。
一秒の直前にいるアトランティス。
遠く離れた二本の線を、中核の針が一瞬だけ同じ位置へ揃える。
「これが必要だった」
蓮が言う。
「止める時計じゃない。同じ時を生きるための時計」
「ただし、ひびあり。無限には使えない」
「最初から無限じゃないよ」
「壊す前より短い」
「了解」
蓮は中核へ手を伸ばし、途中で止めた。
「触っていい?」
ハヨンが透明板の温度を確かめる。
「いまなら」
蓮は両手で受け取った。
時計の形ではない。
蓋も、鎖も、正確な目盛りもない。
青い頁と、一本の針。
それを見た蓮は、少し不安そうで、少しだけ軽そうだった。
「外装の内側に紙があります」
鈴華が、割れた銀板を拾った。
薄い紙が何重にも折られ、緩衝材のように挟まっている。
一枚ずつ開く。
体育祭の停止同意書控え。
文化祭の舞台安全同意書控え。
原本台帳から切り取られた番号欄。
「管理外装そのものが、同意書で作られてた」
ひなたが青ざめる。
「署名を時計へ巻いて、ずっと同意してることにしたの?」
「そのようです」
鈴華は最後の紙を開いた。
秋季校外研修(星見島)参加同意書。
保護者署名欄も、生徒本人の署名欄もある。
文面は赤く書き換えられていない。
《事故、天候急変その他の生命身体に危険が迫る場合、引率責任者が必要最小限の行動停止および避難経路変更を指示することへ同意します》
「必要最小限」と蓮。
「校外研修中だけ」とひなた。
「未来を渡すとは、どこにもない」と藍羽。
紙の裏に、小さな文字があった。
蓮の字だ。
【顧問回答のみ。原因資料未確認。検証保留】
「文化祭のあとに残した記録です」
蓮が指でなぞる。
「僕は、これを消さなかった」
「教授も消さなかった」
オレが言う。
「外装の内側へ隠しただけだ」
「見えなければ、ないのと同じだと思ったのでしょう」
鈴華の笑みが消えていた。
「ですが、収支は残ります」
星見島の原本を、ひなたが平らに伸ばす。
原文。
署名。
保留記録。
三つが、同じ紙に残っている。
旧講堂のスピーカーから、小さな鈴の音がした。
鈴華の腰の鈴は、鳴っていない。
音は放送室からだった。
〈本当は、断りたかった〉
知らない生徒の声が、講堂にいる全員の心へ触れた。
鈴華が立ち上がる。
「次は、わたくしです」
エンディングテーマ「たいようは約束」
https://youtu.be/vCsi3UhBpp8




